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「死んでしまいたい」
午前2時、ベッドの上でぽつりと呟いた。
思いのほか簡単に零れてしまったその言葉に驚くことも無く、スマホを弄る。
『ゴミセスキモすぎw アイドル気取りじゃんw』
『みんな化粧しててオカマかよww』
『フェーズ1の方が良かった。今のミセスはファンからお金をもぎ取ろうとしてるようにしか見えない。』
『自分たちのことイケメンだと思ってそうできついwww』
見ていられなくて、スマホを床に投げるとトイレに走った。
「ぅ゙ッ……ぉえ゙っ…っ」
口の中が酸っぱくて、クラクラと目眩がした。
すっからかんの胃から出てくるのはサラサラとした胃液だけで、どんどん呼吸が苦しくなる。
「ッ…はぁ、はぁっ……。」
こんなことが、1ヶ月以上続いている。
早く終わらせなきゃいけないのに。
「ねぇ、元貴いつもより顔色悪くない?」
「ぁ……大丈夫大丈夫。それよりギターフレーズ練習しなよ。」
心配そうな視線を送りつつもギターの練習に取り掛かっているのはメンバーの若井だ。
今日は僕の家でフレーズの見直しをすることになっていた。
「あ゙ー、きつすぎる…」
手をパタパタと振りながら若井が苦悶の声をあげる。そんな姿を見て僕は可愛いな、と思っている。
だって僕は、若井のことが好きだから。
体調が悪い時はすぐ駆けつけてくれるし、どんな時だって僕に優しくしてくれるから。
「あ、もう夜か。俺そろそろ帰るよ。」
時計を見た若井が僕に言う。
嫌だ、帰らないで。
1人で過ごす夜はもう散々なんだ。
気づけば僕は若井の袖を引っ張っていた。
「ん、どした?」
「今日は……泊まってってよ。」
きょとんとした顔をしてた若井だけど、僕がそう言うとやれやれと言った具合で僕の隣に座る。
「やっぱなんかあったでしょ。」
不意に視界に若井の顔が飛び込んでくる。
切れ長で美しい目、ちょっとへの字に曲がった口薄く赤色に色付いた唇、艶かしい喉仏。
「なんも……ないから。」
優しい声が僕を包む。そうしていると、若井の手が僕の頭に触れる。
「なんかあるでしょ。嫌ならいいんだけど、話したら楽になるかもじゃん?」
にしし、と笑ってみせる若井に僕は涙が止まらなくて。
今までの事を全部話した。
1ヶ月間ずっと苦しんでいたこと、死のうとしたけど怖くて出来なかったこと、少しずつ体に傷が増えてきたこと。
「もう……やめたいよ、こんなの。」
若井はずっと泣きじゃくる僕の背中を撫でて、相槌を打ってくれた。それがとても心地よくて、ぽろぽろと言葉がこぼれおちる。
「辛かったね。話してくれてありがと。」
「あ゙……ぅゔ……っ」
「ならさ……もう、逃げちゃおうよ。」
「え………?」
予想外の言葉に目を見開く。
「辛いならさ、俺ら2人で逃げようよ。」
それは、今の僕にとってはあまりにも魅力的な誘いだった。
僕はこくりと頷いた。
「おはよ、元貴。朝ごはん目玉焼きでいーい?」
「うん……ありがと。」
2人で逃げ出してから2週間が経った。
ソファに座って待っているとテーブルに朝ごはんが並ぶ。
若井が隣に座って、2人でいただきますと挨拶をする。
徐に若井がテレビをつけた。
【国民的ロックバンド Mrs. GREEN APPLE ボーカル大森元貴と、ギター若井滉斗が失踪!? 】
『キーボード藤澤涼架もマネージャーと連絡付かず! 3人に何があったのか……』
「そういえば、涼ちゃんはどうなったの。」
「あー…、俺から連絡して辻褄合わせてもらうようにした。」
「巻き込んじゃったんだ…、僕達が。」
「……うん。でも、涼ちゃんも元貴が回復するならってOKしてくれたよ。ほら。」
若井がスマホの画面を見せてくる。
『心配だけど、元貴の為ならするよ。回復したらまた連絡してね‼️ 』
少し心が落ち着いた。
ご飯を食べ終えると、僕はテレビを消した。
隣に座る若井の手を握ると、優しく握り返された。
若井は僕の心が弱っていることに気づけなかったのが後ろめたいのか、僕がお願いしたことはなんでも聞いてくれるようになった。
最初はそういのはダメ、と断っていたが、
「でも僕、こういうこと出来んの若井だけだから……」
と言うと何も反論しなくなった。
いつもみたいに僕は若井にキスをする。
若井はなんの抵抗もせずに受け入れる。唇をなぞると若井はいとも簡単に口を空けて僕の舌が入って来るのを待つ。
「あふッ……、ん、」
僕のぬるぬると動く舌を、若井の舌が包み込む。顎から唾液が滴って、若井のシャツにシミを作る。
こんなことをするのはもう5回目だった。
若井の弱い所を弄んで、たまには僕のを咥えてもらったり、色んなプレイに手を出したり。
気持ちよかったけど、若井が僕のことをどう思っているかは分からない。
でも、それでいい。一緒に居て、応えてくれるだけで十分だった。
僕みたいなのに捕ま っちゃった可哀想な若井。
「あ゙ッ…♡♡ぅん゙♡ッ♡♡」
汚くてかわいい若井の声で現実に戻る。
何度もイかされてへろへろになった若井を優しく撫でてやり、2人でソファの上で眠りについた。
「元貴、もう夜。起きて。」
若井の声で目が覚める。
目を開けると、Tシャツにジーパンというラフな格好の若井が目に入る。時計を見ると午後11時。
「ん゙ー、そんなに寝てた?おはよ。」
体を起こすと、若井が着せてくれたのか僕には少し大きいセットアップの服が身につけられていた。
ふと思い立って、若井の腕を引き家を出た。
「ちょっ……元貴、急になに…?!」
困惑する声を無視して近くの河川敷まで走る。
草むらにお尻をついて2人で座ると、上がった呼吸を整えた。
「……ごめん、急に。なんか、外の空気吸いたくてさ。」
「いや、別にいいよ。そーゆー時あるしね。」
「……」
「……」
プルルルッ、プルルル
静寂の中で2人のスマホに電話がかかってきた。
LINEの通知も鳴り止まない。既読をつけないようにメッセージを見ると、
『何してるんですか?!どこにいるんですか???』
『これみたら返信してください!』
『不在着信』
『不在着信』
『不在着信』
の文字が並んでいた。
今ここで戻ったら、また歌わなきゃいけない。
もう、表舞台に立ちたくない。心無い言葉をかけられるのはもう嫌だ。苦しいのは嫌だ。
ぐるぐると色んなことが脳内を埋めつくしていき、呼吸が乱れていく。
震えが止まらない僕の体を若井が優しく包んでくれた。
未だに振動が止まないスマホを、僕は川に投げ捨てた。
ぽちゃん、と言う音と共にスマホが川の流れに飲み込まれて流される。
これでいいんだ。
僕は若井のことを抱きしめ返すと、心の中で呟いた。
「僕たちのことを邪魔するものなんて、全部無くなっちゃえばいいのに。」
思ったより文字数が多くなっちゃいました。
短編ばっかじゃなくてシリーズの方も早く続きを書くつもりです💪
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