サニーのキョトン顔は既に極みの域に達している。
「え、何でさナッキぃ! 皆は知らなかったみたいだけどオーリの行動は本当の事だよぉ! アタシは何度も物陰から見掛けて知っているんだからぁ! 本当だよナッキっ! ダンスの時にリズムって言ったでしょう? 歌ってた曲だって覚えているんだよぉ! えっと『素敵なヒット』か『頑張れオーリちゃん』か、そうだっ! 『私は美しい、世界が認める美』が良いよね? 聞いていてね! せーのぉ、『美ーしいから、私ーは平気なの~♪ 大丈ー夫~♪ アナタ達こそ、心配に、なるのぉ♪ そーんなに普ー通なのだも~の♪ ねえ? 美しーい私を御覧なーさいな~♪ 怖がらなーいーでー♪ 私は美しーいだけぇ~! あなたの敵じゃない~! ふっ、トーモーダーチーなーのーよー♪』、でしょ、ええっとね、五番まで有るんだよ? 二番はねぇ、あ、そうだった! 良い? 行くよ?」
「良くない! 止めてっ! 止めてあげて下さいぃっ! もうっ、もうっ、これ以上は、これ以上は…… どうか、どうかっ! ウグッウグッ、エグッエグッ…… 止めてあげて、よ……」
ナッキは子供の頃からの親友の一人、オーリの闇に耐え切れなかったようだ……
とは言え、大好きなナッキの慟哭(どうこく)を聞いたサニーは、これまで小さな体を駆使して掻き集めて来た、池の仲間達の様々な秘密について、今後一切口にしない事を約束したのである、本当に良かった。
「じゃあ、もう話しちゃ駄目だよ、サニー?」
「う、うん判ったよ、ナッキが言うならそうするよ!」
「ありがとうね、ヨシヨシ♪」
「エヘヘ♪」
丁度このタイミングで、疲労困憊から復活を果たしたメダカ達の大きな声が揃って届けられるのである。
『お待たせしました、王様、王妃様! お二人が宜しければ先に進みましょう!』
コクリと頷いて肩を並べて泳ぎ出した二匹のギンブナの後を、静かに追い掛ける漆黒のメダカの集団である。
恐ろしげな圧力から開放されたお蔭か、言葉とは裏腹に気楽そのものなムードで泳いで行くと、やがて水路の幅は広がって行き、気が付けば水路と言うよりは、何本もの水路が集まって作られた湖のようになっている事が見て取れる場所に出た。
流れ込む水路だけでなく、湖から流れ出る水路も何本もあるようだ。
今ナッキ達が遡上してきた水路もその中の一つだったらしく、サイズも水量もより大きな物がうねりを伴って流れ出しているのが見えた。
「なんか凄い所に出たね、ナッキ」
「ああ、ほらサニー! 水底(みなそこ)も岸も『美しヶ池』や水路の色んな所で見たツルツルの素材で出来ているよ! ペジオが元々ニンゲンだった事を考えればこの辺りがニンゲン達の集落なんじゃないのかな?」
ゴクリ!
サニーが息を呑む音がやけに大きく聞こえる。
メダカ達は二匹の後ろに控えたままでいつも通りの風情だ。
ナッキは水面(みなも)から顔を出して湖の周囲、岸の様子をグルリと見回して観察する。
地上の事は良く判らないナッキだったが、水中と同じ様なツルツルの滑らかな石(?)や板(?)、様々な素材を組み合わせて使って作られているのだろう、真四角に切り揃えられた大岩の様な建造物がいくつも見える。
丁度ナッキが仲間たちと作った築地(ついじ)、『メダカ城(改)』に似ていなくも無い。
と言う事は、これらの建物も同じ目的で建てられているのかもしれない、ナッキはそう思った。
つい先ごろ、トンボのヤゴが孵化した際には子供たちや卵の避難場所として、防衛戦の主な場所になる筈だった築地は、平時には仲間達が自由に集う憩いの場所として、また嵐や大雨の際には、身を守る頼もしい寄る辺ともなり得ているのだ。
同じ位の大きさの不思議な建物は見える範囲だけで数百以上、湖を囲うように立っていた。
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