TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する




尋ねたい事がある旨を法雨みのりが紡ぐと、あずまは不思議そうにしながらも、笑顔で応じた。

「“お伺い”ですか。――なんでしょう?」

その雷の承諾を受け、法雨は、ひとつ間おくと、意を決したようにして言った。



― Drop.012『 The EMPEROR:U〈Ⅲ〉』―



「――その……、――雷さんがこちらにいらっしゃらなかったのは、――アタシの事を案じてという事だけでなく、――“お仕事がお忙しかったから”、――いらっしゃ“れ”なかった、という事もあったりされますか……?」

城下町へ忍ぶための――偽りの姿。

庶民に扮した憲兵の王子様――否、――警視正ならば、王様やもしれぬ――。

法雨は、その大いなる真相が明るみになる瞬間を目前に、思わず息を呑む。

「“仕事”――ですか……?」

「――え、えぇ……」

当の王子――、あるいは、国王――雷は、相変わらず不思議そうな表情をしているが、――対する法雨は、早鐘の鼓動と共にさらに緊張を高め、雷の方へぴっしりと耳の内を向ける。

その中、国王は、紡ぎ出す。

「――仕事は……、そうですね……。――特に大きな依頼もなかったので、事務的な仕事は多かったものの、忙しいと云うほどではなかったで……――あぁ、でも……、そうか。――講壇に上がる仕事はあったので、その期間は、移動だけ忙しかったですね」

(――講……壇……)

法雨は、君主の言葉を、心の内で重々しく復唱した後、事務室で聞いた桔流きりゅうの言葉を思い出す。

――オオカミ族の警視正も講壇に立ってたんですよ。

(――これは、もう、――間違いないわ……)

やはり――、やはり、この男――円月えんげつ雷は、王子どころではなく、王――であったのだ。

その驚愕の真相に、法雨は己の鼓動がさらに騒がしくなるのを感じながらも、改めて問うた。

「――あ、あの……、――雷さんの姓は、“円月”――で、間違いないですよね」

「――え? ――あぁ、えぇ。――円盤の“円”に、満月の“月”と書いて、“エンゲツ”です」

「――で、では……、あの時……、――アタシを助けに来てくださった時……、――“わざわざ警察になんて通報しなくても”、“雷さんなら”――彼らを、“現行犯逮捕”できたんじゃないですか……?」

「――え……?」

「――た、単刀直入にお伺いしてしまいますけれど、――雷さん。――雷さんのお仕事って……、本当に、探偵なんですか?」

もしかしなくとも、自分はまた、この男に無礼を働いているのかもしれない――。

だが、もしもこの男が、本当に警視正などという階級に坐する王であるならば、――この庶民の身を救ってもらっておきながら、あれだけの無礼を働いた上で、ただ一言の礼、ただ一言の詫びだけでは済ますというわけにはいかない――。

そんな思いから、重大な無礼を承知で問うた法雨に対し、王は、逆に問うた。

「――どうして……、そう思われるんです?」

法雨は、その偉大なる君主からの問いに、大変な緊張感の中、応じた。

「――そ、その……、――実は……」

そして、法雨はそこで、王にそのような事を問うた理由として、桔流とした先ほどのやりとりを簡単に説明した。

すると、その一通りの話をお聞きになられた崇高なる王は、納得されたように笑むと、乙女に仰られた――。

「――あぁ。なるほど。――そういう事でしたか。ははは。――そうか、そうか。――俺と同じ時期に、“アイツ”にも講演の仕事があったんですね」

「――……え? ――“アイツ”……?」

法雨は、君主の言葉を思わず復唱する。

すると、王は、変わらぬ笑顔で続けられた。

「――はい。――兄弟の中でも特に似た顔同士なので、昔からよく間違われてきたんですが……。――その、俺にそっくりな警視正とやらは、俺の、弟です」

「――お、弟……?」

「――えぇ。そう。――俺と顔のよく似た、弟、です」

「おとう、と………………」

なんと、桔流がお見かけしたと云う、その王子様――否、王様には、大変そっくりな兄上がおられたらしい。

(――と云う事は、つまり、――雷さんは王様と兄弟ではあるけど、この人自身は王子様でも王様でもなかった、ってわけね……。――よ、良かったわ……)

「――そう、だったんですね……」

「――えぇ」

その言葉に、法雨が心の内で安堵の溜め息をついていると、雷は笑顔で続けた。

「――俺が警察機関に居たのは、数年前までですから」

「――あぁ、そ……、――えぇ!?」

一度整ったはずの情報に、一部訂正がかけられると、法雨は思わず声をあげた。

――で、あれば、この雷はやはり、ただ王様の兄弟というだけではない――、この男も、確かに王であった過去をもつ、王族であったのだ。

(――そ、それってつまり、――この人の家が、お偉いサマの家系って事なんじゃ……)

「――まぁ、でも、安心してください。――アイツは確かに警視正ですが、俺は、ただの探偵ですから。――階級的な事を心配されているかもしれませんが、うちが家系的に警察関係の家柄という事でもないですから、変に心配されなくても大丈夫ですよ。――俺も、また数日内に別の講演はありますが、――嘘偽りなく、“俺は”、ただの探偵ですよ」

「――な、なるほど……。――そう、なんですね……」

その中、先の法雨の問いと緊張は、自身の無礼も相まっての事――と察してか、雷は、安心させるように笑むと、

「――そんなに深刻にならなくても大丈夫ですから、どうぞご安心を」

と、穏やかに言った。

💎

法雨は、それからしばしの間、雷に緊張を解してもらった後、平常心を取り戻すと、すっかりと長話に付き合わせてしまった事を丁寧に詫び、改めての礼を告げ、そのまま店のバックヤードへと戻った。

すると、その入り口付近には、何やらそわついた様子の桔流が居た。

そうして、まるで飼い主の帰りを待っていた忠犬の様な長身のユキヒョウは、法雨に期待の眼差しを向け、“結果報告”を求めた。

そんな、大きな忠“豹”に、法雨は、脱力しながらご褒美をやる。

「――残念だったわね。桔流君。――あの人は、正真正銘の“私立探偵サン”。――王子様でも王様でもないわ」

その報告に、瞳の輝きを失わせた桔流が、“なぁんだ”――と言うのを待った法雨だったが、――待てど暮らせど、桔流の瞳からその輝きが失せる事はなかった。

それどころか、瞳をさらに爛々らんらんきらめかせた桔流は、不意に一枚のパンフレットを取り出すと、その様子を訝しむ法雨に言った。

「――いや……、――それは、まだ分からないですよ、法雨さん……」

「え?」

「――これを……見てください……」

そんな桔流が取り出したパンフレットは、先ほどのものとは別の、“数日後”に開催されるらしい“医学会主催”の講演パンフレットであった。

そして、そこに“医学界の権威”として掲載された医師たちの写真の中には、オオカミ族の医師も居た。

そのオオカミ族の医師の姓は、――“円月”。

法雨は、その掲載内容に思わず動揺したが、あくまでも平静を装って言った。

「――や、やぁね。よく見てみなさい。――顔が……、顔がちょっと違うじゃないの」

(――それに、雷さんは嘘をついているようには見えなかったもの。――だから、だからあの雷さんは、絶対に、――絶、対、に、――ただの、私立探偵なのよ)

しかし、そんな法雨の平常心を揺らがすかのように、法雨の脳内に、先ほど雷が紡いだ、とある言葉が蘇った。

――俺も、また数日内に別の講演はありますが

(――………………まさか、ね)

そんな――、桔流によって生じてしまった余計なやりとりの後――、胸の内でざわめきが大きくなるのを感じながらも、法雨は仕事に集中し、必死に自身の疑念を抑え込むことにした。

しかし――、どれだけ努力をしても自身のざわめきを抑えきる事ができなかった法雨は、結局、――今、再び、雷の前へとやってきていた。

そして、そんな法雨が恐る恐る問うと、寛大なる元王は、変わらずにこやかに教えてくれた。

「――あぁ。それは、――うちの一番上の兄ですね。――兄弟揃って講演の時期が被るとは、――妙な偶然もあるもんですね」

しかし、対する法雨は、のほほんとする元王の前で沈黙し、ただただ目を丸くする事に徹した。

無論――、テーブルを整えるふりをして、二人の話を盗み聞きしていた桔流も、己の役目をすっかりと忘れ、その場で静止し、同じく目を丸くするに徹していた。

そして、目を丸くしたまま石と化してしまった法雨と桔流は、同時に思った。

(――恐るべし……――円月一族……)






Next → Drop.013『 The HANGED MAN:U〈Ⅰ〉』

運命に惑うケモミミBL♂ハイスペ愛情深🐺×恋歴難美人オネェ🐱『ロドンのキセキ🌹翠玉のケエス』

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

4

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚