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筆の音を遮るよう に雨音が響く。 人の影も見当たらない部屋でただひたすらに筆を走らせている。
それは紙の上に墨を落とすだけなのに全くもって簡単とは言えず、滴り落ちた墨に目線をやればやる程文字が書けなくなっていく。
もう紙の上が全て黒で埋まってしまえば筆を持たなくても良くなるだろうに何故私は唯の紙切れに必死になって文字を綴っているのだろうか、言葉にしようとする程それはまた理解し難いものになっていた。
「嗚呼、私にはもう何も書けない。母や友人にも期待を受けていたのに」
当時は何を書くにしても褒められていたがそれは、幼さに甘えていただけで実力は微塵もありはしなかった。
紙の上で水滴が光る。
又墨を零したのかと思ったがそうではなく、自身の眼から溢れ出ている涙の様だった。