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※今回は色々と暗めなのでご了承ください☆
私の過去は…とても言い表せない。というか私はもう忘れてしまった。でも時に思い出してしまう。嫌なあの記憶を…あの…思い出を…
あれはまだ私が小さい頃だった。私の家庭は普通のところよりかは裕福だった、父は軍人で母親は料理や裁縫の腕のいい人だった。あの頃はまだ…女として生きていた。一人の幼い少女として。あぁ…あとは妹もいた。大切にしていた妹がいたんだ。大きくなったら一緒に外に出て凛ちゃんのお団子屋に買いにいくという夢もあった。…本当の夢?まぁ…そうだな。「家族と仲良く暮らす」これが一番の夢だった。でも……叶わなかった。あの死神のせいで。ある日から父親が変わってしまった。
「父上!今日はお花を見つけてきました!きれいなすみれのお花です!」
「そうかそうか、綺麗だな。それよりも一つ弓に協力してほしいことがあるんだ。」
「協力…?一体何をするの?」
「……今から髪を切りに行くぞ。」
父親はいつもとは違い低い声で…まるで何かを命令するかのようだった。
「え…?な…なんで…?一体どうして…」
「今日、写真を撮るだろう?その時に弓を中尉殿にも紹介したいんだ。お前は昔から銃や身体能力が高いだろう?そのことを中尉殿に伝えたらぜひとも姿を見たいと言ってくださったのだ。だからこそだ。」
「で…でも父上…わ、私はこの髪が気に入って…」
「駄目だ。今からでも切りに行くぞ。」
そう言って父親は私の手を引っ張り無理やり外に向かって歩き始める
「い…嫌だッ…!!切りたくないッ…!切ろごたなかじゃ…!お願いじゃっで…!」(切りたくないです…!お願いだから…!)
「…」
私は何度も泣きながら訴えかけたが…無視されて結局的に短い髪型にされた。あのときの父親の目は忘れられない。目の前の利益だけに目を向けていて私には一切目線を合わせなかった。でも…実の父親に自分の意見を抑えつけられたからか意見を言うのが怖くなってしまった。今では自分の提案をよく聞いてくれていたのに…。でもそれだけじゃない、それからどんどん父親が狂っていった。私にはいつも男の服装をさせたり声まで男に似せるように指導された。次第に自分が男か女かわからなくなってきていた。…でも苦しかったのはそれだけじゃない。
「む…無理やっど…こげん…銃だなんて…」(む…無理だよ…こんな…銃だなんて…)
「泣き言を言うな!お前は軍人となりこの国を守るのだ!!」
「で…でも…!!あた…お、俺の夢は…!凛ちゃんの団子屋を手伝うことで…!」
「何を言っているんだ!!お前を育てたのは鶴見中尉殿が喜んでくださるからだぞ!!お前は役に立ちたいと思わんのか!!」
無理難題な訓練を押し付けられていた。反抗すれば愛情という名の暴力を振るわれる、タダで済むものではない…例えば骨が折れたり、痣になったりなど酷いものばかりだ。なんせ子供の体に大人の力で殴られたりされるんだからな。それにつれて母親も私に見向きもしなくなった。父親に脅されているのだろう。……でも、その中でも唯一の娯楽があった。それは…「読書」だ。本は私の疲れた心を癒やしてくれるしわざわざ体力を使わなくても知識を蓄えられる。父親に相談したら許してくれた。たぶん軍人になるからそれにつれて知識も必要だと考えたからだろう。私はいくつもの本を読んだ。動物から植物、薬物や毒があるもの、銃や弾薬、それに爆弾のことや…「ロシア語」そして「アイヌ」についてもだ。アイヌの物はとても手に入らなかったが父さんの力を借りてようやく一冊見つけたんだ。とてもボロいものだけどでもよく書かれている。これが後に役立つことを……祈っておこうかな。
それからいくつもの月日が経ったが厳しい訓練は終わらない。でも力はついてきた。父に対抗できるほどには……でも、まだ無理だ。どうしても勝てない。いつも悔しい思いをしていたとき…私の体はついに限界を迎え、訓練中に意識を失った。原因は栄養失調、疲労、そして体に合わない運動をしたかららしい。父親は病院に来たとしても私に怒鳴るばかりだった。母親は何も言わない。やれやれ…本当に狂ってやがる。でも…嬉しいことはあった。わざわざお見舞いに来てくれた人はいた、それは…とてもきれいな方だった。海のような少し暗めで青い髪色に焦げた肌。それに未来を見ているかのような涼しげな目。その人だけは私のことを心配してくれた。その人の名前は……「鯉登 音之進」という。海軍将校のお子さんらしい。
「あな……たは…?」
「私は鯉登音之進だ。神崎上等兵の息子と聞いた。体の方はどうだ?幾分かは良くなったか?」
キリッとしていた眉を少し下げながら力のない私の手を握りながら話しかけて来る、軍人の手は初めて握った。とても革が分厚い…何回も剣などを握ったんだろうな…。それに…太陽のように温かい…ずっと握っていたい…。
「…まだ…痛い…し…クラクラします…。」
「そうか…」
「なぜ……私のような…者に…話しかけてくれるの…ですか…?」
「…心配だからだ。」
「そう…ですか…」
駄目だな…。泣いてしまいそうになる…。こんなに優しくされたのは…こんなに心配されたのは…久しぶりだからだな…。この人もいつかは…海軍かもしくは…あの私の父親を狂わせたあの中尉がいる陸軍最強第七師団に行くのかな…。物騒な世界は…嫌いだ。
「あなたは…海は見ましたか…?」
「海か?もちろん見たが…それが何かあるのか?」
「…海は…どんな感じでしたか…?綺麗でしたか…?私…まだ…見たことがないんです…。」
「……」
私の話を聞いた途端、鯉登は何をいえばいいのか迷っているのか少し困ったような顔を見せた。
「海は…綺麗だったぞ。きれいな青い海が広がっていた。」
「そう…ですか…。それは…こんな色でしたか?」
そう言いながら昔に想像しながら絵の具で書いた海の絵を見せる。奥の方から暗い青、明るい青、青緑…とグラデーションをつけた海の絵を見せた。
「…!あぁ、そんな感じだった。それよりも…綺麗な絵だな。お前が書いたのか?」
「はい…想像上なんですけどね…。」
喜んでくれた…というより褒めてくれた。しゅんと下がっていた眉が一気に上がり子供みたいに嬉しそうな顔をする。私の絵は才能がないと父親から貶されていたが鯉登”さん”は褒めてくれた。優しい人だな。
「…その…なんだ…またこちらに来たときに絵を見せてくれないか?」
「私の……絵を…?」
「あぁ、お前の絵は想像上だとしても綺麗だと思ったからだ。」
「わかりました…まだそのときに私がここにいるのなら…今度は…あなたを書きましょう…。」
そう言って私は鯉登さんと約束の代わりとして指切りげんまんをした。楽しかった。唯一私を認めてくれて私を卑下しない人との会話だったからだ。……また……会いたいな…。
あれから数週間後…あの人はまた会いに来てくれた。今度は何か軍服を着ていた。首元の襟に「27」という番号がある。………やはり……第七師団に入ったのか…。まぁ…そんなことはどうでもいい…。どうしてそんなに服が乱れて髪がボサボサになりながら来たのかが意味が不明すぎて面白く思ってしまう。私は…笑ってしまった。
「ッ…ははっ、なんですかその格好。」
「せ…せがらしか…仕方がないだろう…列車が遅れてしまって本来の時間より遅れてしまったのだ…。」
「そうですか…」
久しぶりに聞いたな。鹿児島弁。鹿児島弁で「せがらしか」は「うるさい」という意味だ。最近は普通に共通語で喋れと押し付けられていたので鹿児島弁を喋らないように気をつけてた日々だったからなぁ…。
「それで…今日は私を書いてくれるのだろう?」
「あぁ…そうでしたね…。」
そう言いながら私は重い体を起こす。最近ではようやく自力で起き上がれるほどには回復した…が…やはりまだ体は痛いしクラクラしている。まったく…あの父親…どんな無茶振りをさせてたんだよ…。私がゆっくり体を起こすと鯉登さんは慌てたような表情をする。
「無理しなくて起きなくていいんだぞ…?」
「いえ…起きないとあなたの顔がよく見えないので…」
私はかすれた声で答えながら近くにあったスケッチブックと鉛筆を手に取る。そして鯉登さんが髪型などを整え終わったのを確認したあとに絵を書き始める。初めて人の絵を書くが…大体の基礎は掴んでいるので素早く顔の輪郭を書く。絵を書いているときは…とにかく集中できて…とても良い…。
「もう輪郭を書き終えたのか?」
「えぇ、初めて書くのですが…一応基礎は掴めてるので…早くかけました。」
「そうか…。もう少し…ゆっくり書いてもよいのだぞ?」
「そうですか?なら…顔と髪はしっかりと書かせていただきますね。」
「あぁ!もちろんだ!しっかりと書いてくれ!」
鯉登さんは自慢げに鼻息を少し鳴らしながら胸を張る。この人は…すごいな…。そう思いながら書き続ける。顔の中心を決めてそこから髪を書いて目や鼻、口を書きお遊び程度に首元や肩辺りまで書く。そしてそこから色付けをする。それにしても…本当にきれいな方だ。これぞまさに美男子だろう…。他の女性の方も惚れていのか見ように騒がしい。でもそんな中私は描き続ける。そして…1時間ほどでようやく完成した。絵の具は最大限に使い影や色を気をつけた。
「はい…出来上がりましたよ…。」
「…!すごいじゃないか…!」
ご満足なのかまた子供みたいに嬉しそうな顔をする。…眩しい…。
「喜んでもらえたのなら良かったです…。」
「早く帰って鶴見中尉や月島にも見せてやらんといけないな!」
「月…島…?」
「ん?あぁ、私の部下の名前だ。とても優秀な部下なんだ。」
「そうなんですか…。そちらは…雪が降っているのですか?」
「そうだぞ。こちらは北海道だからな。」
「北海道……今度…私達の家族みんなで北海道に引っ越しするんです。」
「そうなのか!?それを早く言え!」
鯉登さんが子供のようにほっぺを膨らませながら地団駄を踏む。
「す…すみません…」
「でもこれですぐに会えるな。私が迎えに行ってやろう。」
「それは嬉しいことですね。私の父も喜びます。」
「…そろそろ時間だな…。」
「そうですか…。なら…これ、もらってください。」
そう言って先程書いた鯉登さんの絵を渡す。
「いいのか?」
「元々はあなたのために書きましたからね…。貰ってもらわないと意味がないです。」
「そうか、なら喜んで受け取らせてもらおう。」
そう言って鯉登さんは優しく私の手から受け取ってくれた。…嬉しいな…。こんな気持ち…久々だ…。
「…ようやく笑ってくれたな。」
「え…?わ、私…笑ってました…?」
「あぁ、いい笑顔だ。」
…恥ずかしいな…。あまりの嬉しさについ笑ってしまっていた…。でも…久々に感情が出せたのなら…喜ばしいことなのかもな…。
「…そうだな…私からもいいものをやろう。」
「…?」
そう言って鯉登さんは胸ポケットから桜の花を押し花にしたしおりをくれた。
「これは…桜…?」
「そうだ。綺麗なのが落ちてきたからな。お前にやる土産にいいだろうと思ってな。」
「……ありがとうございます…大切にしますね。」
嬉しい…。始めて親以外の誰かからもらった。…桜…始めてみたけど…綺麗だな…。死ぬまで…大切にしないと。
「それじゃあな。また北海道で会おう。」
「えぇ…そうですね。」
そう言って別れを告げ鯉登さんは病室から去っていった。…一人には慣れていたのに…いざとなると…寂しいな。…それに…鯉登さんと話してると…なんだかドキドキして……なんなんだろう…?この気持ち…。それに…どうしても寂しくて泣きそうになってしまう。こんな涙もろいとこの先が大変だな…。そんなことを考えながら私は…退院までの日常を過ごした。
それからいくつかの日にちが過ぎ、私は無事に退院して北海道へ行き小樽に移住をした。…わたしはその夜に…家を抜け出した。このときにしかチャンスはないと思い父母が眠った隙に家を飛び出て森の方へと走っていった。これ以上あそこにいたら…死んでしまうかもしれない…。私はそうと思ったからだ。必死に逃げて…ついに森にたどり着いた。森は深く暗くてあまり見えない。でも大丈夫だ…本で学んだ通りに白樺の樹皮を集めて松明を作れば…。でもその時…背筋が凍るような気配がした。それは…大きな熊だった。
「グォォォォォ!!!」
「ッ…!!」
とても低い声が響く。恐ろしいほどに森中に…。でも私はそれでも冷静だった。あの父親を相手するよりかは熊のほうがいくらでもマシだ。私は…一瞬死んだほうが楽と思ってしまったがすぐに正気を取り戻し抵抗した。自分が持っている知識を全て活かして…そして長時間の末ようやく熊との決着がついた。やれやれ…骨が折れるかと思った…。その時、人の足音が聞こえる。逃げようと思ったが熊との戦闘で緊張が解けてしまったせいか立ち上がれない…。今度こそ…終わりなのかもな…。
「…誰かいるのか?」
「…!女の子…?」
声の主は可愛らしい女の子の声だった。私は急いで手元にあったまだ使える白樺の樹皮を集めて火をつけてその場を照らした。するとそこには可愛らしいアイヌの少女がいた。髪色はきれいな黒髪で瞳はきれいな青い瞳だった。思わず少し見とれてしまった。
「…!その熊…お前が一人で倒したのか?」
「え…あ…う…うん、襲い掛かってきたから…。」
「凄いな、一人で倒せるだなんて…それに武器はそのマキリ(小刀)だけか?」
「マキリ…えっと…確か…意味は小刀だったかな…?」
「知ってるのか…?」
「うん、本で読んである程度は知ってるよ。」
そのことを言うとそのアイヌの女の子は驚いたような表情をした。まぁ…普通はそうだろうな。一般人ならばアイヌすら名前しか知らないしアイヌ語なんかもっと知らない。しかも私ぐらいの年の子ならばもってのほか。
「本か…凄いんだな。アイヌのことも書いてあるものがあるのか…。」
「たった一冊だけなんだけどね。あ、解体しないといけないんだよね?」
そう言って私は手際よく自分が持っていた小刀で解体し始める。ある程度切り込みを入れてそこから少し中に手を入れる。そこから乾燥させると薬になる熊の「胆」を取り出してその後に色々ときれいに解体する。
「ん…?胃袋に何かある…」
熊の解体中に胃袋を触った時に何かゴロゴロとした感触がしたため胃袋をすこし切り裂いて中を見るとそこには、「人らしき何かの肉」があった。少しゾッとした。
「あちゃ〜…これは…人間を食べたクマか…つまり…”ウェンカムイ”だね…。」(ウェンカムイとはアイヌ語で人間などを襲った悪い神のことを示している)
「さばき方も知っているのか…」
「うん、本で学んだから。」
「これも本なのか…!物知りなんだな、」
「…まぁ…それほどでもないよ。それに…この熊はどうしようか。アイヌの人達はウェンカムイの肉とかは食べないんでしょ?」
「…そうだな。私達は人を食ったり襲った熊の肉や毛皮は絶対に使わない。ウェンカムイは『テイネポクナモシリ』という、お前たちのところで言う地獄に送って罰を与えなければならないからこの肉を細かく切り刻んで木のもとに埋めるんだ。他の方法もあるが今はこれが一番手っ取り早い。」
アシリパさんは少し真剣そうな表情をしながら語る。普通の人ならよくわからないだろうが私には…なんだかわかる。
「へぇ…そうなんだ。」
そう言いながら二人で熊を解体して木の元などに埋めた。でも…やはりデカかったせいかとても重かった…。刻んだものを運ぼうとしてたら結構重くて以外にびっくりしたぞ…。
「そういえば…名前はなんだ?」
「俺?俺は…神崎弓、よろしく。」
「和人だったのか、」
「うん、まぁ…ね。」
「私はアシリパだ。」
そう言ってアシリパさんは手を差し伸べながら微笑んだ。私はその微笑んだアシリパさんを見て涙が出そうになった。初めて…平等に接してくれた…。不完全な私に…誰にも求められてない私に…。心が温かい。こんな気持ち…久しぶりだ…。
「なんで泣いているんだ?」
「…嬉しいから…だよ。」
「そうか…。なら泣くな。お前は笑っていたほうがいい。」
そう言ってアシリパさんは優しく微笑みながら私の涙を手で拭く。とても良い人だ。とてつもなく安心してしまう、それに…なんだか心の底から嬉しい。
「ありがとう…アシリパさ…」
その時お腹が鳴る。
「あ……」
「お腹が空いていたのか?」
「…うん…何も食べてなかったから…。」
「なら、今からオハウ(鍋)を作ってやろう、リス肉のオハウだ、」
「リス肉…?美味しいの…?」
「上手いぞ、ほら、早く行くぞ!近くにクチャがある、」
「わ、わかった…。」
クチャとはアイヌ語で狩小屋などのことを示すものである。たまに簡易的なもので木とかをテントのように使うこともあるが基本的には小屋が一般だろう。そして…ついたのは…今回は簡易的な方のクチャだった。でもちょうどいい。一度こういうところに泊まってみたかったんだ。そしてクチャの中でアシリパさんの料理が始まる。
「チタタプ…チタタプ…」
アシリパさんがマキリでリス肉を細かく叩きながら「チタタプ」と言っている。ちなみにチタタプは「我々が刻むもの」という意味を持っている。
「ほら、弓もやってみろ。」
「う…うん。…チタタプ、チタタプ、」
「お、上手いじゃないか、」
「な…なんでチタタプって言わないといけないの…?」
「私の母が言ってたからだ。それから私の所ではチタタプと言いながらしている。」
「へぇ〜…チタタプ、チタタプ、」
そう言ってなんだかあったがオハウが完成した。とても良い匂いがする。…駄目だ…よだれが止まらない…!私は無我夢中でオハウの具を器に取ってがっついた。
「…!ヒンナ…!」
「美味しいのなら良かった、いっぱい食べてくれ。」
「うん…!」
私は涙を流しながら食べた。まともな食事なんて何ヶ月ぶりかわからない…。とても美味しくて、とても暖かくて、とても…懐かしいような気がした。そしてたらふく食べてわたしは…そのまま眠りについた。
「…弓は…一体…どんな生活をしてきたんだろうか…。」
アシリパさんが微かに何か言ったのはわかったが…私はその言葉の内容は聞き取れぬまま深い眠りについた。
あれから何日経ったのだろう。私はアシリパさんと一緒に長い間を過ごした。と言っても何日かぐらいだけど。私はアシリパさんのコタン(村)に行ったり、アイヌの最大の祭りの熊をカムイの世界へと送る「イオマンテ」を体験させてもらったりと楽しい日々を過ごした。そして…いつかの日の夜。私は決意をする、そう…あの親の元に帰ることを。自分でも恐ろしいことだとわかっているがいつまでも逃げてても変わらない。向き合うしかないのだ。
「ねぇ…アシリパさん、」
「どうした?神崎、」
「……俺…行かないきゃいけない所ができたんだ。」
「…親…の事か…?」
「うん、そろそろ行かないと。」
「……そう……か…。」
アシリパさんは少し暗い表情をしながらうつむく。
「なら、少し渡したいものがある。」
「渡したいもの?」
「これを、渡しておきたかったからな。」
そう言ってアシリパさんはアイヌの模様が彫られたマキリ(小刀)を私に渡す。
「これ…」
「お守りとして持っててくれ。多分そっちではほぼ使うことはないだろうからな。」
「ありがとう、…大切にするよ。」
嬉しかったけど…明るい気持ちにはならなかった。後ろには親が待っている。帰ってきたら何をされるかすらも分かるわけがない。もしかしたら………いや、そんなことはないと思うが…でも…。…まったく…これだから…心配性が直らないんだよな。
「…じゃあ、私もお返しにこれを、」
そう言って私は近くの川で見つけたきれいな石をお守りのようにしたものをアシリパさんに渡す。
「これは…」
「川で少し魚を獲ってた時に見つけたんだ。ほら、アシリパさん、言ってただろ?川にも森にもカムイはいるって。だから多分、神様からのお土産なんだと思うよ。でも…私には勿体無いからアシリパさんが貰ってほしい。」
「……いいのか?」
「うん、ほら…」
そう言って私はアシリパさんのマキリに結びつける
「綺麗だな…。」
「アシリパさんの瞳の色みたいにきれいな青色だったからさ。…でも…ごめんね、」
「どうしてだ?」
「…約束、守れなかった。アシリパさんに…一人にしないでくれと…頼まれたのに…。」
不思議と涙が出てしまった。初めて……感じた。この気持ち。多分…これが…「罪悪感」なんだろうな。あぁ…離れたくない。この子を…一人にしたくない。でも……行かなきゃいけない。
「泣くな、言っただろう?お前は笑っている方が良いって」
「でもッ…でもぉッ…」
駄目だ。体が、感情が、表情が…全てが言うことを聞かない。どうしてだろう。いつもなら…すぐに泣きやんで耐えれるのに…。この子の前では…耐えられない。そんなことを考えてる間にも時間は近づいてくる。
「…アシリパさん。」
「なんだ?」
「絶対に、見つけに行くから…!またね!」
最後は笑顔で。さようならなんて言わない。絶対に。またねと言わないと…会えなくなる気がするから。
「…あぁ、またな…!」
私は少し流れる涙を隠しながら走った。大丈夫。またきっと…会えるはずだから。そう思いながら私は懸命に家まで走った。見回りに見つからないように。そして家に到着した。でも…入るのは怖い。……でも入らないと変わらない。さぁ…寝よう。部屋に入って寝たら明日だ。次の日には…何も…ないといいな。
そして私は眠りに落ちた。
次の日、父親は何もなしに私を心配するように抱きしめた。あぁ…どこに行ってたんだ。心配したんだぞ…ってな。……正直気持ち悪かった。あの父親がこんなにも良い父親を演じるなんて気味が悪すぎて吐いてしまいそうなぐらいだ。…でも…少し……少しだけ…嬉しかった。
「弓、一旦、鹿児島に帰らないか?お前にとっては新しい土地は辛かっただろう?」
父親は優しく微笑みながら私の手を握る。
「うん…わかった…。」
「よし、今から準備していこう。もう休みは取ってあるからな。」
この後私は…予想もしなかった。まさか…実の父親に………
鹿児島に帰る頃にはあたりは暗くなっていた。すでに夜になってた。…そして、地獄のはじまりの合図だった。私は寝ようとしたらいきなり父親に腕を掴まれた。何かと思いきや床に押さえつけられる。そして…。何度も何度も殴られる。拳の一番痛いところで。顔や体、腕に足まで。意識が朦朧とする中…父親は…。
「お前なんて産まなければ!!なぜ造反者のようなことをするのだ!!お前なんぞ…!!」
「い…いや”…だッ…やめッ…」
私の腕に包丁を突き刺した。
「う”あ”ぁぁ”ァッ!!!」
「黙れ!!お前の腕なんぞ切り裂いてやる!!!」
「ツ”ァぁぁあッ!!く”ぅッ!!」
「お前は…!お前は…!!造反者だ…!!!!」
今でも鮮明に覚えている。あの父親の顔を。造反者を殺そうとしている父親の顔を。世にも恐ろしいものだと思った。熊よりも何よりも怖かった。
「ァ”……ッ…」
「二度と逃げれないように…!こうしてやる!!!」
そう言って父親は自分の軍刀を持ち私の足の関節を…深くまでではないが切り裂いた。
「あ”ぁぁッ!!がァぁ”ぁ”ッッ!!」
人ではないと思えるほどの叫びが出た。まるで獣のような声が。でも周りは助けてくれやしない。母親さえもだ。見てみぬふりをしてただ妹をあやすだけ。そして満足したのか私を廊下に投げ出したあと父親は眠った。私はほぼ死にかけのような状態だった。息も……してるのかしてないのかわからないほどだ…。でもうるさいほどに心臓の鼓動は感じた。……期待した私が馬鹿だった。なぜもう少し早く気づかなかったのだろうか。
「は…ハハッ…苦しッ…いな…。」
私の声が寂しくも虚しくも静かな廊下に響く。
「……なん…で…ッ…こんな…めに…。」
あぁ…。できることなら…やり返してやりたい。いっその事あいつらを…テイネポクナモシリ(現代で言う地獄と言う意味)に送ってやりたい…。……私は一つの言葉を思い出した。そう。アシリパさんの言葉だ。
「アシリパ…さんは…言ってた………よね…。「弱い奴は喰われる」ッ…て…。なら…あいつらが…弱い奴……なら…。」
その時私は気付いた。なぜ最初から父や母を強い者だと思っていたのだろうか?所詮人間は皆同じだ。なのになんで…特別強いと思いこんでいたのだろう。…馬鹿だな。私は。こんな簡単なことにも気づかないなんてな。…もう…終止符をつけよう。こんなこと…もう…経験したくない。さぁ………カムイに祈りを捧げよう。
「カムイよ、この世のすべてのカムイよ。今から私は自分の道を絶とうとする者たちを倒しにいく。だからあなた達の力をお貸しください。必ず復讐を果たしましょう。」
この時だけは何事もなかったかのように喋れた。多分カムイ達が私に付いてくれたのだろう。なら、もう遠慮はいらない。そうだ。今夜にしよう。今夜に決着をつけよう。じゃないと私はいつまでも取り残されたままだ。これは「巣立ち」のための「通過儀礼」なのだから。
そして私はある程度自分の傷を手当し夜が来るのを待った。開放される瞬間を心の底から待ちながら。あぁ…なんて楽しみなんだろうか。想像するだけでも…心がざわつく。さぁ…いまは…寝て体力を回復しよう…。
そして夜が来た。私は気配を消すこともなく父と母が寝ている寝室に来た。そして襖を開けて父親の上にまたがる。
「なんだ…?誰か来た…の…か………」
「おはよう、お父さん。」
「な…なんでお前が…ぐ…軍刀を…」
「もう飽きた。飽きたんだよ。規律に守られた世界は。だから……私の未来のために死んでほしいな!」
「は…?な…何を言って…」
父親は昨日とは違い青ざめた顔をする。やっぱり弱かった。私よりも弱い。これで確信が持てた。
「さようなら」
「ま…まてッ…!話せばわか…」
父親が言い切る前に父親の心臓に突き刺した。その後に…何度も何度も突き刺した。もう何もわからない。一心不乱に刺し続けた。そしてその音に気づいたのか母親が目を覚ます。
「い…いやぁぁぁ!!」
「あれ?起きたの?お母さん。寝てても良かったのに。」
「ひッ…人殺し!!人殺しよ!!」
「人殺しなんて聞き捨て悪い。あんたらもそうだっただろう?子供を殺しかけたくせに。」
「あ…あれ…は…さ、逆らえなかったの…!あの人は…!軍人だから…!」
「今、私は逆らえれてるよ?その軍人とやらに、」
「あ…あぁ…」
母親は死を覚悟したのか涙を流し始めた。醜い。なんでそんなに自分が悪くないと逃げれるのか。
「さようならさようなら。あの世でまた会おう。」
そう言って母親も同じく何度も何度も突き刺した。そして私は近くの海に両親の死体を投げた。海のカムイにテイネポクナモシリに送ってもらうためだ。これで…あの両親は帰ってこない。二度とこの世界には。さて…あとは…家を…燃やすだけか。そう思いながら家に帰ると起きたのか両親のベットの上に立った妹がいた。
「お兄ちゃん、お父さんとお母さんは?」
「あぁ、二人は海に涼みに行ったよ。」
「なら私も行く!連れてって!」
妹は無邪気な笑顔で私に両親の元に連れて行ってくれと頼んできた。
「…あぁ、今から連れて行ってやるさ。」
「本当?やった!」
「…これで、お前も一緒だな。」
私は微笑みながら妹を床に押さえつけ意識がなくなるまで妹を殴り続けた。たとえ泣き叫ぼうともお構いなしに殴り続けた。そして死んだのか息をしなくなった。そのときにはもう…妹はぐちゃぐちゃになっていた。でも…私はなぜか冷静でいられた。なんでだろうな?…なぜか…涙が…止まらないんだ。なんだろうな…なにも思わないのに。自分で独り言をブツブツとつぶやきながら妹も海に投げた。
「早く燃やさないとな。…もう…見るのも嫌だから。」
そう言って私はアシリパさんに少しもらった「シタッ」という白樺の樹皮に火をつけて家に投げた。そうしたらよく燃えた。炎は大きくなり夜だというのに周りが昼のように明るかった。流石にこれだけ大きくなれば周りも目を覚ましその自体に驚いている。
「弓ちゃん…!弓ちゃん!!」
その時遠くから知っている声が聞こえた。そうだ。私の唯一の友人の…「凛ちゃん」だ。後ろには凛の弟の「緑太」がいた。
「ゆ…弓ちゃん…良かった…無事だったんだね…」
涙ぐみながら震えた声で私に向かって言う。
「…凛ちゃん?なんでここに?」
「き、急に家が燃えたって聞いて…駆けつけてみたら…弓ちゃんの家が燃えてたから…そ、それ…よりも…お父さんとお母さんは…?」
「…みんな…私を…家から出すために…あの…家の中に…」
「そ…そん…な…」
「い、今から俺が家の中に入って助け出すから!!」
そう言って緑太が自分からバケツに入った水をかぶって燃え盛る家の中に入ろうとする。
「駄目だよ。もう、無理だよ。」
「で…でも…!!まだ助かる方法は…!」
「無理だよ。」
「ッ…」
燃え盛る家の前に立っているのに冷たい夜風が私の体を殴るように吹く。それに不気味なほどに空が晴れて青い月光が私を照らす。その姿は…友人も息を呑むほどに不気味だったらしい。そしていつもは暗い黒の瞳が青く輝く。不気味ながらも神秘的に見えるほどに。
「弓ちゃん…どうしたの…?いつもの…弓ちゃんじゃ…ないよ…?」
「………じゃあ、私はもう行かなきゃいけないところがあるから。」
そう言って私は凛ちゃん達に背を向ける
「ど、どこに行くの…!?」
「…小樽まで、」
「お…小樽って…!北海道までか!?な、なんでだよ…!」
そう言って緑太が私の近くまで来て少し怒り気味な声で言う
「…私は軍人さんに気に入られるために生まれてきたからだよ。だから、行かなきゃいけない。それに…あなた達を巻き込みたくないからさ。」
「や…やだよ…!弓ちゃんと離れたくない…!」
「……」
どうしても「ごめんね」という言葉が出ない。息を飲むのと同じように飲み込んでしまう。…言わなきゃいけないのに…。
「…………さようなら。」
「嫌だ…!待って…!弓ちゃん…ッ!!弓ちゃん!!」
凛ちゃんの泣き崩れる声を背に私はどんどん暗闇へと向かっていく。私はもう…あの二人には会えない。あの二人は知らなくていいことだから。もう…私だけで終わりにしよう。どうせ…入る墓なんぞ無いのだから。そう言って私は駅についたあとある程度の金を持って小樽へと向かった。
そして私は小樽へと到着した。これで…2度目だ。いつ来てもここはやっぱり寒い。でも…寒い中だとしても街は栄えている。やれやれ…人間様はすごいものだ…ここまで持ってくるとはな…。さて…どうするものか……とりあえず飯を食ってそこから探索するか…。最悪家がなければ街から出て森で暮せばいいし…心配はしなくていいな。そう思いながら私は街を探索した。
そしてある程度探索したあと少し暗い道に入る。……なんだか不気味だし…嫌な予感がする…。そう思っていたら本当に現実になった。目の前に二人の軍人が現れた。多分…警察だとは思うけどな…。
「君、お母さんは?」
「こんなところを歩いてると危ないから早く戻りなさい。」
「…一人で…ここに来たので…。」
「一人でか…?まったく…親も気をつけないといけないというのに…。」
「ん…?君…神崎一等卒の子供か…?」
気づかれたか。まったく…軍人というのは感がいいしそれに記憶力もありすぎる…。面倒だ。
「それが…どうかされましたか?」
「ちょうど良かった。鶴見中尉殿が会いたいと言っていたからついてきてくれ。」
「……わかりました。」
面倒くさい。あの悪魔なんかに会いたくない。なら…今のうちに…証拠隠滅だな。私は軍人の一人が前を向いたのをいいことに服の袖部分に隠していた銃剣を取り出して一気に一人の軍人の首を切り殺した。
「な、何をやってるんだ貴様ッ!!」
そう言って私に向かって銃口を向ける。私は同様せずその銃口に近づく。
「撃てるものなら撃ってみなよ。そんな勇気があるのならね。」
「ッ…」
人はやはりこういう時には弱い。弱いものが弱そうにしているからつけあがる。でも相手から攻めてくれば弱くなる。軍人は心を捨てるものだが…これだから半端者は…。
「…じゃあね。」
そう言ってそのもう一人も殺した。さて…あとは援軍も来るだろうし…殺せるだけ殺すか。そしてその後援軍が来てなんとか…10人は殺せたが…抑えられてしまった。そして…そのまま死刑囚になった。やれやれ…まぁ…いいか。…あの死神の軍人を殺してやったんだ。まぁまぁだろ。(ちなみに軍人を殺せる力というのは一般人にも無理です。大体…訓練を年数をかけて積まなければ簡単に返り討ちにあいます。)
そして私は檻に放り込まれた。全く汚いな…。掃除ぐらいさせてくれよ…。それに…手も開放してほしかったなぁ…まっ、無理なのは知ってるんだけどな。
「お前…さっき来たのか?」
「あぁ、そうだよ。…あんたは?」
「俺は脱獄王の”白石由竹”様だ。」
「…脱獄王…つまり…何回も脱獄してきたのか…凄いな…。」
名前は聞いたことがないが凄いことはわかった。でも…なんか…おちゃらけてないか…?よ…よく…わかんないけどな…。そして今はすごいほどの小声で喋っている。
「そ、そちらは…?」
「僕ですか?僕は辺見和雄です、」
「辺見さん…ね…。」
もう一人は少し気弱そうだな…。声からしてなんだか…よ…弱そう…。でもここにいるということは…何かしらの大罪を犯したのだろう。なめたら殺されるな。
「お前さんは?」
「俺は神崎弓さ、名前からして女っぽいが男だ。」
「歳は?」
「…19だ。」
「へぇ〜…って19だと!?」
「お若いんですねぇ…」
「まぁな。」
二人ともは少し驚いた顔をした。それに他の周りのやつも話を聞いたのか少し驚きの声が聞こえてきた。そんなに珍しいか…?よくわかんないけどな…。
「お前はどうしてここに来たんだ?」
白石は興味深そうな表情をしながら私に聞いてくる。まぁ…普通に答えるか。
「親殺しだよ。」
「…親…殺し…」
「そうだったのですねぇ…」
二人とも黙ってしまった…。き…気まずい…。まぁ…そりゃそうだろうな。こんな19歳の子供が親を殺すなんてね…。
「…そうだ。あんた、脱獄王というのなら何かしら物の隠し方とかあるんだろう?」
「…鋭いな。お前さん。」
そう言って白石は少し咳をしたあと口の中から紐で吊るした油紙を出した。そういう事か…。体の中に隠して持ち込むと…。なるほど、よく考えたものだ。でもマネはしやすそうだ。嗚咽をしないように気をつければいける。まぁ…いつかのときに試すか。
「なるほど…もう覚えましたよ。」
「おいおい…冗談きつ…」
「こうですよね?」
「なっ……い、いつの間に仕込んだんだよ…」
あの一瞬で…というより着替えさせられるときに隠し持っていた紙と糸で工夫してやっただけなんだけどね。白石はとても驚いてるみたいだ。まぁ…普通の人ができるわけないもんな。見ただけでできるやつなんて化物以外の言葉が見当たらねぇよな…。
「まぁ…こういうわけだ。いつかは…あんたらの役に立つだろうよ。一応ロシア語も喋れるし。」
「マジか…すげぇな…」
そう話しながらいつの間にか就寝時間になった。そろそろ寝る頃かな…と思いながら地べたで寝ようとしたら何者かに起こされて一人の男性がいる檻へと連れて行かれた。そこには…顔の革がない青い瞳が不気味に光る男性がそこにいた。わたしは寝そべさせられ刺青を彫られた。……あんまり痛くないな。
「…なぁ、一つ言っていいか。」
「……」
「あんたの青い目が…私の命を救ってくれた子に似てるんだ。」
「…誰だ…?」
「…アシリパって女の子なんだけど…」
「…そうか。」
男は一瞬だけ驚いたような顔をした。なにか……関係があるのか…?まぁ…触れないでおこう…。
「それよりも…この刺青…何か意味があるのか?」
「……後にわかる。」
「へぇ〜…」
まぁ…砂金だろうな。興味ないけど。この男がここに来たのも多分砂金にまつわる関係でつれて来られたのだろう。人使いの荒いもんだな…上の奴らは。
そう思いながらもいつの間にか掘り終えており、私はそのまま檻に帰った。でも…その時、ふと目を引かれる存在がいた。長い白髪にキレイな武将髭…まるで昔の人を彷彿させるような姿だった。
「なにか…用かな?」
しまった…つい眺めすぎた…。
「いや…なんでも。すまんよ、あんたの存在に惹かれたというか…珍しかったからさ。」
「…そうか。」
簡易的な会話を交わしたあと私は急いで戻った。…本当に何なんだろうな…。なんで私は惹かれたんだろうか…。…………まぁ、いいか。
そう言って月日が経つとある日、死刑囚全員合わせて24人が急に荷車のようなものに乗せられて外に連れ出された。どうやら…刺青のことがバレたらしい。そこで軍人や看守たちは今のうちに皮をはごうと言うことらしい。でも…そんなことは起らなかった。ある程度連れて枯れた頃にいきなり数人の囚人たちが周りの奴らを襲い刀や銃を奪ってその場にいた奴らを皆殺しにした。でも…その中で一人、あの爺さんは…まるであの「土方歳三」のような剣さばきや技を見せてきた。私もぼーっとしていることはできずそのまま逃げ出そうとしたが最後の最後に声をかけられた。その爺さんに。
「お前をいつか、必ず迎えに行く。」
爺さんとは思えないほどの傲慢さ…というより絶対的な自信…。本当に何者なんだ…?
そしてあれから逃げて数週間が経つ。私は一般人を装い密かに生活している。バレていないし怪しまれてない。…もういっその事…このまま平和に……とは行かなかった。
「ん〜…やっぱりこのみたらし団子は美味いなぁ…」
いつもの日課になっていた。あそこの店のみたらし団子はどこか懐かしい味がする。気分が良くなって街を歩いていると…誰かと少しだけぶつかってしまった。
「あ…すみま……」
私は目を見開いた。そこにいたのは…
「ようやく見つけたぞ、神崎弓。」
あの時に声をかけてきたあの爺さんだった。
「あ…あんた…あの時の…」
「久しいな。何も変わってなさそうで何よりだ。」
そう言ってどこか嬉しそうにほくそ笑みながら私に対して言ってきた。
「……なぁ、あんたの名前を聞きたい。あのときに一度も聞けなかったからな…。」
「…私の名は…「土方歳三」だ。」
これが…私が土方歳三達とであった最初の話であった。