この作品はいかがでしたか?
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彰人は救急車で運ばれて行った。
この時誰もが"きっと大丈夫"と思っていた。
もちろん、私だって___。
【絵名視点】
彰人は今、病室のベットで眠っている。
「あ、きと…はやく、早く起きなさいよ…」
処置を受けた直後だからまだ目が覚めないことは分かっている、でも。
こんな少しの間目を覚まさないだけで、こんなに心配になるなんて…。
そんな事をぼんやりと考えていた時。
「東雲さん、少しお時間よろしいでしょうか」
背後から聞こえた声の方を向くと、白衣姿の男性がドアの前に立っていた。
彰人の医者だろうか。そのまま返事をし、応接室へと通される。
「あの…彰人は大丈夫ですよね」
医者がなかなか話を始めないから私から聞く。
「単刀直入に申し上げますと…」
特に異常は見られませんでした。
当たり前のようにそう言われると思っていた。
「ち、ちょっと待ってください…
彰人は大丈夫ですよね…」
「それが、彰人くんは___。」
私の道に入ってきた内容は、目の前が真っ暗になるようなものだったのだ___。
【彰人視点】
ツン、と鼻をさすような消毒液のにおい。
腕に"何か"が刺さっているような感覚。
すぐ真横から聞こえてくる無機質な電子音。
目を開けようとしたがまぶたが重く開かない。
どこだ、ここ…
(起きろ…)
重いまぶたが何とか開いた時。
「あ…彰人…」
真横から聞こえた声の主は絵名だった。
(…んだ、この目。泣いたのか)
絵名の目はパンパンに腫れていた。
「おい、その目どうしたんだよ」
そう言いたかった。
言うつもりだった___。
「……っ…」
(なんだ、これ…、声が出ねぇ…)
「あ…彰人落ち着いて
今は手術の後遺症で声が出なくなってるの、
無理に喋らないでいいから」
俺、手術受けてたのか。
とりあえず絵名にメモを渡されたから筆談で
会話をする。
なんで俺がここにいるのか、杏は無事だったのかなど全ての事を話された。
入院は3週間。
しばらく歌の練習は出来ねぇな…
そうだ。声、
『俺の声はいつ戻んだよ』
絵名にその文字を見せた。
なかなか返事が返ってこないからあいつの方を向いた、すると___。
絵名の目からは大量の雫がこぼれおちていた。
「彰人…っごめ、ごめんなさい…」
突然絵名が泣きながら謝り出した。
理由は分からない。
『何謝ってんだよ、お前俺に何したんだよ』
軽く聞いたつもりだった。
「もう、彰人の声は手術の後遺症で…、」
治らないんだ___。
【絵名視点】
彰人に"あの事"を伝えた。
いつ、伝えれば良かったんだろう…
自分でも知らない、分かるわけない。
でも、このまま伝えない事も出来ない。
「あき、と…、。」
彰人の目から光は無くなっていた。
当たり前だ。
夢を「諦めざるを得なくなった」のだから。
それからの彰人は別人のように変わった。
音楽を聞くのもやめた、何か欲しいものや食べたいものを聞いても「分からない」と答える。
まるで、前のまふゆみたい…。
白石さん達がお見舞いに来たい、とメッセージを送ってきた時も断っていた。
彰人は音楽との道も断ち切ってしまったのだ。
「退院おめでとうございます。
一週間後に怪我の様子だけ見せに来て下さい」
医者にお礼を言い、彰人と病院を出る。
もう怪我の具合は大分いいらしい。
普通に歩くことも出来るし、走る事もできる。
ただ、"声"だけ失ってしまった。
【日後】
ピンポーン
玄関のインターホンがなったから私はドアを開けた。
「あ、絵名さん…」
来ていたのは。
「白石さんと冬弥くん、と…」
もう人、彰人といつも歌っている女の子。
名前聞いた事なかったな…す
「あ、小豆沢こはねです…」
「人揃ってどうしたの」
聞くと口を開いたのは白石さん。
「実は…」
「なるほどね、だから家に来たのね。
わざわざ病院まで行ってくれてたのにごめんね、
退院したこと、伝えられてなくて。」
「いえ、それは大丈夫なんですが…
今、彰人と話をさせてもらえませんか」
冬弥くんが口を開く。
でも、人はあの事を知らない。
彰人も言うつもりはないのだ、私は…。
「ごめんね、彰人は今部屋だから…」
「そうですか、では学校で話してみます」
人も特に詳しい事は聞かず帰ってくれた。
彰人は…どうするんだろう。
あいつら、再来週イベント出んのか…
俺だって本当は…、
杏を庇った事は後悔していない。それはこれからも絶対にない。
でも、声が出なくなるなんては思っていなかったから。
チケット…これか。
俺、は___。
「ーーーー〜〜〜」
(こはねのソロパート、すげぇな…)
「「ーー」」
(あいつらも…)
俺だけ、置いてかれんのか…
「なぁ、あいつら本当にRAD WEEKENDを超えるんじゃないかすげぇ成長だよな…」
「だよな、本当にあいつらの歌は___」
(凄かった…)
あの日から当たり前だと思っていた日常が思いっきり崩れ去ってしまった。
声が出なくなった、常に家族に迷惑をかけることになった、あいつらにも。
(帰りたく、ねぇな…)
そうだ、いつもの公園のベンチなら、。
幸い人はいなかったため、公園のベンチに腰掛けひたすら頭をかかえていた。
「あの〜、大丈夫ですか…」
あの声が耳に届くまでは___。
【杏視点】
「今日も客の反応は良かったな」
ステージ裏で冬弥が口元を緩ませる。
「だよね〜、次のイベントも人で…」
人…、
「ぁ…、もう、彰人は…」
あの日の出来事を思い出すだけでイベントの熱くなった空気が一気に冷めていく。
「杏ちゃん…」
なんで…なんでなんで
あの日、私がちゃんとしてたら今も…
私、が…。
言いたかったことは言葉にはならず、涙となって目からこぼれおちていく。
「白石、一旦落ち着いた方がいいだろう。
いつもの公園なら人も来ない、行かないか」
「そうだよ、気持ちの整理も出来てないだろうしね。行ってみようよ、杏ちゃん」
こはねと冬弥に提案され、私たちは公園へと
歩き出した___。
「杏ちゃん、とりあえずベンチにでも…
あれ誰か座ってるみたい」
ベンチに目を向けると、頭をかかえて縮こまっている人が確かに座っていた。
「あの人は…大丈夫だろうか」
冬弥も気づいていたらしい。
帽子を深くかぶっていて、辺りも暗いから顔は見えないけど服からして男性とは分かる。
「私、声かけてみるよ〜」
人にそう告げ、その人の近くへ向かう。
「あの〜、大丈夫ですか…」
その人は頷きゆっくり顔を上げた、ら__。
何かに気づいたのだろうか、突然荷物をもちその場を去ろうとしている。
「お、落ち着いて下さい」
そう言った時___。
気づいてしまった。
帽子の隙間からと見えたオレンジ色の髪、一瞬見えた抹茶色の瞳、この体格…。
気づいたら咄嗟に腕を掴んでいた。
「おい、白石何をしてるんだ」
「杏ちゃん、何してるの…」
人ともまだ何も知らない___。
私は目の前の人物の帽子を取った。
っやっぱり…。
「彰人…」
【彰人視点】
バレた。杏には気づかれてしまった。
「え…し、東雲くん」
「彰人…、なんでこんなところに…」
(くっそ…声が出ねぇ事だけは絶対…)
俺はその場からダッシュで走った。
怪我はもう治っている。だから走れる。
「はぁっ…はぁ…」
ここまで来たら大丈夫だろ…そう思った時。
後ろから手首を思いっきり掴まれた。
「彰人…心配したお願い…
なんで練習に来ないのか話してよ…」
後ろで泣きながら話しているのは杏。
(もう、隠せねぇ…でも…)
「「はぁっはぁ…彰人東雲くん」」
もう、これ以上は無理だ___。
俺は携帯を取り出し、グループに送る。
『手術の後遺症で声が出なくなったんだよ、
まず杏、お前のせいじゃねぇから気にすんな
失望しただろだからお前らを避けてんだよ
知られたくなかったからな。
今日のイベントは凄かった、これからも頑張れよ。お前らでを超えんだ』
それを見たあいつらは。
こはねはひたすら驚いていた。
冬弥は理解が出来ずに固まっていた。
杏は。
膝から崩れ落ち、泣いていた___。
ほら、伝えないほうが良かったんだ__。
コメント
1件
泣きそうでした。