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유리
駅前のカフェ
夕方のカフェはいつも騒がしい。
レジ前には女子高生や大学生、仕事帰りのOLまで並び、店内には甘いコーヒーの香りと小さな笑い声が漂っていた。
「いらっしゃいませ。ご注文どうぞ」
淡々とした声で接客するのは月城玲央だった。
学校では陰キャだの静かだの言われているが、バイト先では少し事情が違う。
黒縁メガネを外し、軽く整えられたフェザーショート。耳元では小さなリングピアスが揺れている。制服のシャツを腕まくりしただけなのに妙に様になっていて、初見の客は大抵一瞬言葉を失う。
しかも接客は丁寧。
愛想はない。
だが、それが逆に刺さる。
「おすすめってありますかぁ?」
「甘いの苦手ならこっちがいいかもしれないですね」
「え、じゃあ玲央くんのおすすめで!」
「……別に俺の好みなんで」
塩対応。
なのに女性客は嬉しそうに顔を赤くする。
その様子を遠くから見ていた店長は腕を組んで何度も頷いた。
「今日も売上すげぇな……」
長年働く社員も感心したようにレジを眺める。
「玲央入る日だけ客単価上がるの笑うんだけど」
だからこそ、店長たちは玲央をほぼ固定でレジに立たせていた。
本人は特に興味もなく、釣り銭を渡しながらぼそりと言う。
「時給上がるなら何でもいいです」
「そこも好き!!!」
「玲央くん今日も冷たい!!最高!!」
店長も社員も半分本気で騒ぎ、バイト仲間たちは呆れながら笑っていた。
玲央はこの店のバイトリーダーだった。
仕事は完璧、シフト管理も早い、クレーム対応も冷静。
そのくせ感情が薄い。
男子バイトたちはそんな玲央を便利に使う。
「玲央いると可愛い女子捕まるから助かるわ〜」
「今日合コンみたいになってんの絶対お前のお陰」
休日に遊びへ連れ出されることも多かった。
玲央自身は女子に囲まれるのを少し鬱陶しく思っていたが、飯を奢ってもらえるので断らない。
(タダ飯ありがたいし)
そんな程度だった。
「玲央くーん♡」
「写真撮っていい?」
「無理です」
即答。
だが女子たちは「冷た〜い!」と笑うだけ。
結局、顔が良ければ多少の塩対応などご褒美らしい。
玲央は今日も無表情でレジを打ちながら、小さく欠伸を噛み殺した。
遠くでエスプレッソマシンの音が鳴る。
騒がしい店内の中、玲央だけが妙に静かだった。
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