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お昼前の体育。
五月の陽射しがじわじわと校庭を照らし、体育館の中は少し蒸し暑かった。
「っしゃああ!! ナイス!!!」
ひときわ響く大声に、クラスメイトたちはまた笑う。
木兎光太郎はバレー部のくせに、バスケでも妙に上手かった。
雑なようで身体能力だけで全部どうにかしてしまうタイプだ。高く跳び、豪快にシュートを決め、失敗してもギャーギャー騒ぎながら楽しそうに走り回っている。
「木兎くん運動神経やばー!」
「普通にかっこいいんだけど!」
「ていうか楽しそうなのがいいよね〜」
女子たちはコートの端で黄色い声を上げていた。
そんな騒がしい空気から少し離れた壁際。
月城玲央は膝を抱えて座り、眠そうに欠伸を漏らした。
昨夜はバイト仲間に「今日オールな!」と半ば強引に連れ回され、結局帰宅したのは深夜二時過ぎ。
奢りだったから文句はないが、眠いものは眠い。
ジャージ姿のまま気怠そうに壁へ寄りかかり、半分閉じた目でぼんやりコートを見る。
クラスメイトたちは玲央に興味を向けることなく試合を続けていた。
陰キャで静かで、いつも眠そうなメガネ男子。
クラス内での月城玲央の認識なんて、その程度だ。
「そういえばさ、駅前のカフェ知ってる?」
「え、あそこ? 最近めっちゃ並んでるとこ?」
「そうそう! イケメン店員いるらしいよ!」
ボールを拾いながら男子たちが話し始める。
「女子の列やばいらしいじゃん」
「友達が見に行ったって言ってたわ」
「塩対応なのに人気らしい」
「なにそれ逆に気になるんだけど」
女子たちまで会話に混ざり始めた。
「え、見たい!」
「絶対行く!」
「その店員さん目当てで通ってる人いるらしいよ!」
壁際でそれを聞いていた玲央は、ぼんやりした顔のまま小さく瞬きをした。
――それ……俺だー。
頭の中だけで静かに呟く。
だがもちろん、誰も気づかない。
目の下にうっすら隈を作り、黒縁メガネを掛け、気怠そうに座り込む陰キャ男子。
女子が群がる“駅前の超人気イケメン店員”と、今の玲央が結びつくはずもなかった。
「月城ー! お前も入れよー!」
男子の一人が声を掛ける。
玲央は眠そうな目のまま、面倒臭そうに片手を上げた。
「眠いからパス」
「ジジイかよ!」
またクラスが笑う。
その騒がしさの中心で、木兎は相変わらず全力だった。
「ヘイヘイヘーーイ!!!」
豪快なシュートが決まり、歓声が上がる。
玲央はその声に少しだけ眉を寄せ、ジャージの袖に顔を埋める。
……うるさ。
けれど不思議と、嫌いではなかった。
유리