「何も無いね〜」
聖奈の間延びした声が、不毛の大地へと広がっていく。
ここは俺が魔法で吹き飛ばした場所。
森に飽きたとはいえ、茶色の大地を喜んでは貰えなかった。
「アホなの?」「セイさん…」
「待て。俺は出来る限りのことをしたぞ?」
文句があるなら代案を出せ!
お前達は揚げ足取りばかりする野党かっ!
「まぁ歩きやすくはなったわね」
「だろ?聖奈達が飽きてきた魔物も一掃したし、一石二鳥だ」
流石ぼっちの神様。
俺がアンタの使徒だってことを思い出してくれたようだな!
「次はやめてね?」
「はい…」
聖奈から止められては、俺にはどうすることも出来ない。
何せラスボスだからなっ!
俺達は何も無い茶色の地面を東へと歩いて進んだ。
「反応があるぞ」
茶色の大地を歩くこと暫し。
緑の大地へもうそろそろ着くというところで、俺は森の中に魔力を見つけた。
「魔物かなぁ?」
「いや。それにしては数が多いし、統制が取れているように思えるぞ」
「人でしょうか?」
うん。俺もそう思う。
というか、あれだけの爆発だったんだ。
人なら気になって見にくるだろう。
魔物や動物は逆に逃げるだろうし。
「また狙われてるのかな?」
「今のところそんな気配は感じられないな。少し気になるところはあるが…」
「気になるところ?」
「ああ。どうも、整列しているみたいなんだよ」
魔力波で捉えた魔力は、行儀良く並んでいるように配置されていた。
「なんかそれって既視感があるね……」
俺達はこう見えて王族だからな。
整列した者達に跪かれることは日常茶飯事だった。
「はい。特に地球でのことが思い起こされます」
えっ?地球?
俺が疑問に思っていると、いつの間にか目と鼻の先となった森の始まりから、幾人かの人達が飛び出してきた。
「お待ちくださいっ!我々は貴方達を待っていました!」
飛び出してきた人達を見て、俺が警戒の意味を込めて一歩前に出て待ち受けると、その人達は俺の前で一斉に跪き、何某かを伝えてきた。
「先程の力を見ました!いえ、正確にはこの現状を確認しました!」
「これは我等の先祖が伝えてきた、帝国の魔導兵器のモノと見受けます!貴方方を我等の祖国を継ぐ方として、歓迎したい所存にございますっ!」
……なんのこっちゃ?
「少し待ってて下さい。こちらで話をします」
聖奈はそう告げると、俺とミランに手招きをして、三人で車座になり話し合いをすることとなった。
神様を無視する形だが、致し方ない。
そこでぼっちを頑張ってくれ。
「それで?何なんだ、これは」
「うん。私も何となくだけど…」
「お願いします」
俺は全く状況が掴めず、聖奈はやはり何か思うところがあるらしい。
ミランはそんな聖奈の背中を押した。
「恐らく彼らはこの前の人達と違って、この大陸の以前の姿を伝承により伝え残してきた人達なんだと思うよ。
でも、長い年月でその言い伝えは伝説となり、以前の文明を神格化したんだと思うんだ」
「つまり…その伝説の人達と、俺達を勘違いしていると?」
「そうだよ。セイくんが使った魔法の威力を見て、言い伝えの兵器を思い浮かべたのだと思うの」
えっ?じゃあ、どうすんの?これ。
「セーナさん。何か考えがあるのですよね?」
「うん。そこで……私達は神の使いとして振る舞わないかな?」
「は?」
いや、振る舞うも何も…実際神の使いなのですが……
なんならご本人もいるし。
「セイくん。セイくんはこの大陸を旅した後、どうするつもり?」
「どうするって…西回りから元の大陸に帰って、いつでも転移出来るようにしようかな、ぐらいだぞ?」
「その後の話ね。ここにバーランド王国を移設しないかな?」
…………話がデカすぎて全く想像出来ません。
「私達のしてきたことって、この世界では理解されないよね?ううん。結果を出した今となっては、他国も真似をしようとしているけど、私達ってこの世界ではやっぱり異端なんだよ」
「お、おう」
異端なのは聖奈のしてきたことで、俺は違うよな?な?
「もし、この大陸にマトモな文明がないのなら、私達が作らない?」
「国ですら俺は持て余しているぞ?」
「知ってるよ。でも、私は既存の異世界文化を壊したくないの。もっと言えば、何もない土地であれば、さらに安全な逃げ場所を確保することが出来るの」
安全かぁ……
確かにそれは何とかしたいものだ。
結局俺の為なんだな。
仲間の誰かが傷つけられると、俺は魔力に呑まれてしまう。
聖奈達はその治療の為に大陸まで来たはいいが、その大陸に碌な文明は残されていなさそうだ。
それならば、ここを根本的な原因を無くす地にしようと。
そういうことなんだろうな。
異世界文化を俺達が変にいじることなく残したいのも本音なのだろうが。
「聖奈とミランの好きなように。俺は二人を守れたらそれでいいよ」
聖奈の野望が何処までも壮大になっていくが、その殆どは俺の為。
じゃあ後は俺達の良心であるミランが頷けば、俺に言うことはないな。
「ミランちゃん!私達の楽園を作ろうねっ!」
「楽園…ですか?」
「うん!私達の子供達を安全に育てられる楽園だよ!」
「えっ!!!」
おい。やめろ。
ミランが顔を真っ赤にして俯いてしまったじゃないか……
というか、そもそもの話……
「聖奈に子供が出来たら、こっちで産むのか?というか、妊娠したら転移はどうなるんだ?」
ここで大切なのは子供とその母親の命。
異世界転移は、神の許可がなければ死んでしまう。
お腹の子がお腹の中で死んでしまうと、母体にも影響があるはずだ。
その辺りを踏まえて、俺はルナ様に話を振った。
「お腹にいる間は問題ないわ。繋がり…貴方達で言うところの臍の緒が切れて母体から完全に独立してしまうと、その子は個人として世界に認識されるわ。
そうなる前なら転移しても問題ないわ。これで良いかしら?」
「ああ。ありがとう。ちなみに子に俺の力が遺伝したりは…」
「無いわね。貴方の力は後天的に得たもの。その子に適性がない限り、いくら私が貴方達に干渉したいと思っても、世界間転移の力を授けることは出来ないわね」
なるほど。
「じゃあ子供達は、生まれた世界から移動できないと考えた方が良さそうだな」
流石に世界はそう都合よくはいかないか。
これまでが都合良すぎたから、ただの贅沢な悩みだ。
「ミランちゃんはこっちで産むよね?」
俺とルナ様の会話を聞いて、二人が話し始める。
しかし……
「ちょっと待ってくれ。それは大切な話だろう?後にしないか?ずっと跪いて待たれると申し訳ないんだよ」
そう。森から出てきた人たちは、俺達が相談している間、ずっと頭を下げて跪いていた。
立場は偉いが俺の中身は庶民だ。
大変心苦しく思いますです。
「そうだよね。ごめんなさい。とりあえず、私が話するね?」
「ああ。任せるよ」
「良かったわ。聖奈で」
いや、最後の一言いるか?
まぁ沢山重要な情報をくれたから、見逃してやろう。
この神様はコミュ症だから仕方ないんだ。
聖奈に言いくるめられた大陸人は、自分達の村へと俺達を案内してくれることになった。
例の臭いは怖いが、折角招待してくれるのに無碍にも出来ない。
コミュ症な俺は笑顔で着いていくことしか出来なかった。
鬼のような形相で、俺の脇腹をつねりながら睨んでくる神様を添えて……
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