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現地民に出会った後、その者達が住む場所まで案内してもらっている俺たちは、森を進んでいた。
そんな俺は後ろからの圧に耐えられなくなり、遂に口を開いた。
「何とかする。何とかするからやめてくれ…」
「本当?嘘だったら承知しないわよ?」
「本当っ本当!」
いててててっ……
俺の脇腹は限界を迎えていた。
ちゃんとついてるよな?
脇腹が取れるなんて聞いたことないぞ?
俺は自他共に認めるコミュ症だ。
だが、やるべき時にはやる男としても定評がある!(自称)
「つかぬことを聞いてもいいか?」
「はい!何でしょうか!?」
シュババッ
まさにそんな音が聞こえてきそうなほど、現地民のレスポンスは早い。
こちらにキラキラとした視線を向けてきた現地民は、20代後半程の男性。
その男性に向け、俺は神様の要望へ応える為に重い口を開いた。
「その…其方の住む所では、糞尿の始末はどうしている?」
聞きづらいが、聞いてやったぜっ!
「糞尿…ですか?穴を掘り、そこに埋めていますが……もしや、何かまずかったでしょうか?」
穴に…そうか。それなら臭いはマシか?
この前の集落では、その辺に転がっていたからな……
臭い物にはちゃんと蓋をして欲しいものだ。
「いや。それなら良いんだ。糞尿の臭いが苦手でな。済まない。変なことを聞いた」
「いえいえっ!問題ありませんよっ!もし何か不手際がありましたら、都度教えてやって下さいっ!」
「あ、ああ…」
俺の苦手なタイプだ……
俺を勝手に大きく見て、その虚像を崇拝している。
ちなみに全部、聖奈のせいだ。
聖奈が『この人がアレをやりました』なんて言ったものだから、ここにいる皆がキラキラした視線を向けてくるようになってしまったんだ。
アレ…?俺のせいでは…?
俺が思考の深淵に触れていると、遂に全体の足が止まった。
「ん?何も見当たらないぞ?」
「セイくん。もしかして…アレって…」
全体の足が止まり周りを見渡すが、家屋などが見当たらない。
そのことを疑問に思うと、聖奈が一点を指し示し、俺へと問いかけてきた。
「まさか…ダンジョン…なのか?」
聖奈の指し示す方向を見ると、木々で隠された隙間の奥に、ポッカリと穴が開いている大岩が見えた。
「流石です!やはりダンジョンという言葉を知っておられましたか!」
俺の呟きを拾った現地民が、やたらと俺を持ち上げてくる。
恥ずかしいからやめて……
みんな知ってることだからっ!
「ああ。やはりアレはダンジョンなのか?」
「はい。私が生まれた時にはすでに力を無くしていましたが、昔はダンジョンと呼ばれた場所になります。そして、そこが私共の住処になります」
力を無くしたのに、そこに住む?
あれ?神が放棄した後の神域ってどうなるんだ?
「どうぞこちらへ!」
案内されたのはやはり先程の穴。
伝説の兵器と同じことをした俺を神の使いと崇める現地民達は、その穴へと恭しく俺を招待する。
穴の大きさは俺が知っているダンジョンの入り口とそう変わりない。
そして、穴の両サイドにはまるで神を招いているかのように、現地民が跪いていた。
いや。入りずれーな……
「じゃ、じゃあ…お言葉に甘えて」
これで中が臭ければ、仲間達には入らないように伝えよう……
良いんだ…犠牲は俺だけで……
俺は覚悟を決めて、暗闇へと足を踏み入れた。
「えっ?」
暗闇に入ったと思えば、そこはめちゃくちゃ明るかった。
「ちょっとセイくん?後ろがつかえてるから前に進んでよぉ」
「あ。悪い悪い…」
あれ?ダンジョンとして機能しなくなったって言ってなかったか?
どう見ても普通の穴の中じゃないのだが……
「すごーい!牛さんも山羊さんもいるぅー!!」
「長閑なところですね。魔物は出ないのでしょうか?」
穴の中には草原が広がっていた。
そして聖奈は幼児退行した。
「ささっ。奥へどうぞ。狭い所ですが、精一杯おもてなしを致しますので、どうかお寛ぎ下さい」
「あ、ああ…」
色んなことが頭をよぎり、俺の返事は上の空のものとなってしまった。
「セイくん。考えてもわかんないことは考えちゃダメだよ?先ずは楽しまなきゃ!それがこの旅の目的の一つでもあるからねっ!」
「…そうだなっ!」
俺は元々空に近かった頭の中を綺麗さっぱり空にして、この不思議を楽しむことに決めた。
現地民に案内されたのは丘を越えた先にある集落。
その中で一際立派な木造の建物に入り、今は集落の代表者達と俺達との話し合いが行われている所だ。
「祖国の方々かと思えば、まさか神の使い様方だったとは…何のおもてなしも出来ませんが、ごゆるりとお過ごしください」
話し合いという名の情報交換を行った後、集落の代表者がそう告げて話を締めた。
この建物は祭事用の物らしく、俺達に丁度いいと貸し与えられた。
酒や食べ物を用意してくれた後、俺達を残して現地民の人々は建物を後にした。
「じゃあ、さっきまでの情報を纏めるよ」
聖奈が音頭を取り、俺達の会議が始まる。
「先ずは、ここについてだね。まさか活動停止したダンジョンに魔石を埋めると効果が持続するのはビックリだねっ!」
「はい。しかもダンジョンとしての試練は止まったままなので、魔物や罠などはなく、安全も保証されています」
「唯一の欠点は、外に出て魔物を定期的に倒し、魔石を得る必要があるってことくらいか」
燃料(魔石)は必要だが、それさえあれば自然豊かで災害などない常に昼間の生活が叶うというわけだ。
「もう一つ欠点はあるよ」
「それは…これ以上大きく出来ないことですね?」
「そう。神が放棄し、徐々に力を無くして縮小していった結果、今のサイズで食い止める方法を見つけ、これまでは維持してこれたけど。でも、大きくする方法は見つかっていないんだよね」
そうなんだよなぁ。
それさえわかれば、大陸よりも守りやすいダンジョンに国を移せるのに。
「ま。それはここの人たちの課題だね。もし、それがわかれば、他の旧ダンジョンを手に入れて、そこを拠点にしてもいいしね」
「つまり、ここの人達は一旦放置ですか?」
「うん。私達の旅はまだまだ先が長いからね。この大陸に国を作るにしても、ここの人達を呼べるのは大分先だね」
やはり国は作るんだな……
「大切な話もしたいし、ルナ様に美味しいご飯も食べてもらいたいから、一旦帰ろう?」
「流石聖奈ね」
「わかった」「はい」
俺はミランを褒め、ルナ様は聖奈を褒める。
バランスが取れてて、意外にもいいかもしれんな。
「ふう。今日も美味かったぞ」
現地民には祭事場に誰も入るなと告げて、俺達は地球へと帰ってきていた。
ちなみに大陸に着いてから、船は使っていない。
異世界転移で森の中に直接飛び、船はここに置いていった方が問題は起こりづらいと考えたからだ。
そして夕食を頂き、皆が満足したところで本題へと移っていた。
「大切な話って、俺たちのことだろう?」
「うん。私達と、私達の未来についてね」
正直、この手の話で男が口を出せることは少ないと思う。
俺は気になる所以外は黙って聞き、二人を支える方向で口を挟もうと思う。
「先ずは夜の生活についてだねっ!」
「おいっ!やめろっ!」
コイツ…腐ってやがる……
「ごめんごめん!冗談だよ!なんか暗い顔してたから!ね?未来の話だよ?笑ってできないと、笑える未来はやって来ないからね?」
「…そうだな。すまん。楽しい未来にしような」
「うんっ!」「はいっ!」「貴方達はいつ見ても愉快よ」
若干一名の台詞がディスっているように聞こえるが、これでも悪気はないんだ。
許してやってほしい。
「じゃあ、進めるね!先ずは未来の子供達の話。ルナ様情報によると、子供達の生きる世界は一つだけ。じゃあ、今からしっかりと選ばないとね!どちらが私達と子供達にとって幸せな選択になるのかを」
聖奈の子供かぁ……愛らしい顔をして、生意気な子になるんだろうな。
ミランの子供は……真面目で真っ直ぐだけど、食い意地の張った子になるんだろうな。
二人が一生懸命に話し合う中、俺はまだ見ぬ我が子を想像していた。