テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「はい、よく出来ました」
先程のどす黒く怖い口調とは裏腹に、ぱっと優しい顔になり、髪や顎を掴んでいた手を顔の横に開く
今までにないほどの力で掴まれていたこともあり、開放された途端膝から崩れ息を切らす
「はーッ、は…」
「もう、ご主人様に反抗しちゃだめだよ」
「お風呂入れてくるね」
頭に掌をぽんぽんと2回ほど当てると、大森は軽そうな足取りで風呂場へ向かう
風呂場に行ったことを確認すると、若井の真横にある全身鏡が目に入った
「…ははっ」
へなへなと情けのない姿で、今にも泣きそうな顔
まさに飼い主に怒鳴られた子犬のようで、可笑しくなり笑う
引き攣った笑顔を浮かべ目を細めると、目に溜まった涙がほろりと流れる
先程掴まれた髪をそっと撫でると、ひりひりと強く掴まれた余韻を感じ、また先程の恐怖を思い出して身震いしてしまう
「こんなの、ただの監禁じゃん…っ」
「わーかいっ、お風呂もうすぐ沸くよ」
そうにこにこと優しそうに言う
「…ぁ、うん、す、すぐ入る、さきはいって」
自分でもわかるくらい声が震えている
怖いのだろう、先程の圧が、瞳が
その恐怖をまた経験するくらいなら、素直に従う方が身のためだ
「何言ってんの?一緒に入るんだよ?」
「…えっ」
一緒に風呂に入るくらい、今更どうってことない
元貴の実家で涼ちゃんも含めて三人で入ることもあったし
でも
今一緒に入るのは正直とても怖い
若井の脳内に先程の恐怖がまたフラッシバックする
今一緒に風呂に入って大丈夫か?
そんな感情が脳を埋め尽くす
「若井?」
大森に名を呼ばれ若井はハッとする
いや、逆らわなければいいだけだ
そう自分を納得させ、恐怖心を自分の中で叩き払う
「ぅ、うん、はいろっか」
大森が若井に手を差し伸べ、若井がその手を取る
まるで犬の芸の お手のように
手を繋いだ状態で、大森が先頭になり浴室へ向かう
浴室はまだ湯気で湿気ており、入った途端体にぬるい空気がまとわりつく
「よし、はいろっか!」
「はい!ばんざ〜「元貴」
大森の楽しげな声に、若井が被さる
大森は驚いた、善意のつもりで言っただけだったから、食い気味で名を呼ばれ言葉を飲み込む
「ごめん、ごめんね」
「…これは、ちがぅ 」
大森の若井の服の裾を掴む手首をきゅっと掴み、なるべく大森の癪に触らぬよう伺う口調で大森の行動を制止させる
「ひとりで、脱げるから…っ」
顔が焼けるように熱いのを隠すように、俯きながらごもごもと言う
「…そっか」
そっと、若井の服の裾を掴んでいた大森の手が離れ、大森は自分の服をたくし上げ洗濯カゴに入れる
大森は笑顔の裏に、微かにその態度に苛立ちを隠せていなかった
その溢れる苛立ちが、じわりと若井にも滲む
「…元貴、俺のどこが好きなの」
「ん〜、全部。ぜんぶすき」
大森はほんのり心が温くなる
いちばん好きで、愛おしい相手を背中から抱きしめ、若井の男らしい首筋に顔を埋める
「…若井、」
「俺、怖い?」
微かに震える肩を大森は見逃さない
暖かい声色のはずなのに、どこか冷えていて
「…こわく、ない」
「…」
大森はとっくに見抜いている
その言動は恐怖心を無理矢理拭っているだけだということを
「…怖いんでしょ」
「いいよ、怖がっても 」
初めて人に飼われた子犬は無知で、恐怖しか感じないもんね
そう、呟きながら若井の項にキスを落とす
コメント
4件
しっかり飼い慣らそうとしてる元貴が怖いんだよねー、若井は…。優しんだか怒ってるんだか不思議で堪らん…。最高です
うあぁああああすきだ・・・ 若井さんの気持ちを全部わかってる 大森さんがものすごくすき。 怯えてる可哀想な若井さんめっちゃすきなんよな・・・。 色々ひっくるめた上の『犬は泣けない』ぐわってきます。 大事なことなのでもう一度言います。好きです。