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聖なる夜の結婚式
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婚約から約半年。長い期間のようで月日はあっという間に過ぎていった。
煉獄家と時透家の両家顔合わせ、結婚指輪選び、式場との打ち合わせ、お招きする人たちへの招待状の手配やお返事の集計、おもてなしの準備、そして新婚さんの新居探し。
お姉ちゃんは忙しそうだったけれど、とても楽しそうだった。杏寿郎さんも時々うちに来て、一緒に晩ごはんを食べてくれる。学校ではなかなか家族の話題を出せないから、我が家で思い切りお喋りできるのが嬉しいって言っていたな。
11月、お姉ちゃんは杏寿郎さんとふたり暮らしを始めた。
“いい夫婦の日”、苺歌お姉ちゃんと杏寿郎さんは婚姻届を提出して、晴れて夫婦となった。婚姻届って役所でもらうシンプルなものだけと思っていたら、インターネットから色んなデザインのものをダウンロードして提出することもできるらしい。あと、結婚を控えたカップル向けの雑誌の付録にも婚姻届がくっついていたり。
2種類のデザインの婚姻届を選んだお姉ちゃんたちは、まずは雑誌の付録の婚姻届で記入の練習をして、それから本番の婚姻届に記入していた。1枚は役所に提出する用。着物の柄みたいに綺麗な花模様の婚姻届。もう1枚はこの季節らしい、オレンジ色や黄色を基調とした紅葉のデザイン。こっちは家に飾る用だって。
婚姻届の“証人”の欄は誰でもいいと聞いて僕と有一郎が証人になりたいって申し出たけれど、18歳以上じゃないとだめだと言われて渋々諦めた。
結果的に、両家のお父さんが証人の欄にサインと捺印をすることに。
でも、提出する用ではないから、と、家に飾る用の婚姻届の証人の欄には、僕たち兄弟の名前を書かせてくれた杏寿郎さん。すごく嬉しかった。
12月24日。
キャンペーンに応募して見事当選した結婚式。
親族控室で、入念にスーツの皺やゴミがついていないかを確認する父さんと、着物や髪の乱れがないかチェックする母さん。煉獄家のお父さんもそわそわしている。
僕と兄さんと、煉獄先生の弟である千寿郎くんも他愛もない話をしながら、でも迫ってくる挙式の時間に緊張度が増していた。
コンコンコンコン
「失礼いたします。新郎新婦のご準備が整いました」
式場のスタッフさんに案内されて、ゲストよりひと足早く、親族である僕たちの前にお姉ちゃんと杏寿郎さんが姿を見せてくれた。
「「「「「「!!」」」」」」
黒いタキシード姿の杏寿郎さんと、純白のウエディングドレスを身に纏ったお姉ちゃん。お姫様みたいに裾に向かって大きく拡がった形のドレスには細かいビーズやスパンコールや刺繍が施されていて、それが光に当たってキラキラ輝いている。デコルテや肩にはラメが塗られているようで、白い肌が一層綺麗に見えた。
「「まいかぁ〜!」 」
『ちょ、お父さんお母さん、泣くのはまだ早いって!』
早くも涙を浮かべる両親に、お姉ちゃんが慌てて控室に老いてあったティッシュを差し出す。
「兄上!とっても格好いいです!」
「うむ!ありがとう、千寿郎! 」
「よく似合っているな。瑠火りんも喜んでいるだろう」
「父上、ありがとうございます」
るか…って亡くなったお母さんの名前だよね。煉獄パパ、奥さんのこと“るかりん”って呼んでるんだ……。
「苺歌ちゃん、とても綺麗だよ」
『ありがとうございます、お義父さん』
お姉ちゃんがにっこり笑う。ああ、なんて綺麗なんだろう。
「お姉ちゃん」
『むいくん、ゆうくん』
「おめでとう。めちゃくちゃ綺麗だね」
『ふふ。ありがとう』
「結婚式のゲストでもお姉ちゃんに惚れちゃうんじゃない?」
「む!それはいかん!苺歌さんはもう既に俺の奥さんだからな!」
冗談で言った僕の言葉に、杏寿郎さんが慌てて口を挟んでくる。
その必死な様子が可愛くて、控室にいるみんなが笑顔になった。
「そろそろお時間でございますので、ご親族の皆様もお席にお着きくださいませ。新婦のお父様お母様はこちらへお願いいたします」
スタッフさんの声に、一同揃って控室を出る準備をする。
「お姉ちゃん、また後でね」
「いっぱい写真撮ろうね!」
『うん、もちろん。……お父さん、練習通りお願いね?』
「ま…まま…任せてくれ!」
緊張しているのがバレバレな父さん。大丈夫かな?
チャペルの中に入ると、見慣れた顔がいくつもあった。お姉ちゃんのバイトしていたケーキ屋の店長さんとか、勤め先の施設の職員さんとか。若い人で僕が知らない人たちは多分お姉ちゃんの仲のいい友達なんだろう。杏寿郎さんが担任を受け持っているクラスの生徒の炭治郎、善逸、伊之助、玄弥もいる。あと、キメツ学園の教師陣も。
こちらに気付いた炭治郎に軽く手を振って、僕たち親族は予め確保されていた席に着く。
牧師さんが開式宣言をする。
「それでは、新郎の入場です」
アナウンスと共に扉が開き、杏寿郎さんが一礼して、拍手に包まれながら堂々とした姿で通路を歩き、牧師さんの前まで行く。
「続きまして、新婦の入場です」
扉が開く。まずは母さんがお姉ちゃんのウエディングベールを下ろし、潤んだ瞳で優しく微笑んだ。
そして、お姉ちゃんは父さんと腕を組み、正面を向く。
極度の緊張で忘れちゃったのか、あれだけ練習したのにも関わらず、父さんはさっさと歩き出そうとしていて。それを腕を組んだ状態で引き留めながら“まだ!まだよ!”と口を動かすお姉ちゃん。
会場からは「お父さん可愛い〜!」とくすくす笑う声が聞こえる。僕も笑いを堪えるのに必死だ。
ベールダウンという大役を終えた母さんが、こっそりと親族席に戻ってきた。
パイプオルガンの演奏に合わせて、父さんとお姉ちゃんがゆっくりと歩き出す。
拍手に混ざって、「お嫁さんめちゃくちゃ綺麗!」「早くベールの下が見たい!」という歓声が聞こえる。これはお姉ちゃんの顔を見たことない、煉獄先生の教え子たちの声だろう。
スマホで動画を録ろうと思っていたけれど、プロのカメラマンの人たちが写真とか動画とかを担当してくれると聞いたから、この大切な挙式の様子をしっかりと自分の目に焼き付けようと思った。
ゆっくり、ゆっくり、父さんと腕を組んだお姉ちゃんが歩いてくる。
ベール越しでも分かる、お姉ちゃんの綺麗な横顔。優しい微笑みを称えた幸せそうな横顔。
お姉ちゃんは僕たちの前を通り過ぎるその一瞬、こちらを見てにっこり笑って。それだけで目頭が熱くなった。
2人が牧師さんと杏寿郎さんの前に到着し、父さんと杏寿郎さんがお互いに一礼して、お姉ちゃんは杏寿郎さんの隣に立った。
讃美歌斉唱、聖書朗読と神への祈りが終わり、誓約に入る。
「新郎・杏寿郎。あなたは妻・苺歌を病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、死が2人を分かつまで、彼女を愛し、敬い、慈しむことを誓いますか?」
「誓います!」
「新婦・苺歌。あなたは夫・杏寿郎を病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、死が2人を分かつまで、彼を愛し、敬い、慈しむことを誓いますか?」
『はい、誓います』
テレビでよく見るシーン。実際に見るとこんなに感動するんだ。父さんも母さんも既に涙でぐしゅぐしゅな顔で娘を見守っている。
次に、指輪の交換。まずは杏寿郎さんがお姉ちゃんの左手の薬指に指輪を通す。次にお姉ちゃんが杏寿郎さんの手に指輪をはめる。
そして、杏寿郎さんがお姉ちゃんのウエディングベールを静かに捲り、ついにお姉ちゃんの綺麗な顔が露わになった。
ざわつく会場。でもすぐにそれも落ち着く。
「それでは、誓いのキスを」
見ているこっちがドキドキしてしまう。いよいよクライマックスだ。
最近はほっぺたにキスをする新郎さんが多いって聞いていたけれど。
杏寿郎さんは迷いなく、神様と参列者に見守られる中、お姉ちゃんの肩に手を置き、その唇に口づけた。
そして、そっと唇を離したと思ったら、まるで想いが溢れたかのように、杏寿郎さんがぎゅっとお姉ちゃんを抱き締めた。お姉ちゃんは少し驚いたような顔をして、でも嬉しそうにその大きな背中に華奢な腕をまわしていた。
会場に割れんばかりの拍手が起こる。
感動して泣いている人がたくさん。
温かくて、嬉しくて、幸せで。僕も有一郎も涙が止まらなかった。
その後は牧師さんによる結婚宣言、閉式の辞があって、チャペルでの結婚式が終了した。
退場の時に会場のスタッフさんから手渡された、フラワーシャワー用の花かごを持ってスタンバイする。
そこに新郎新婦が姿を現し、みんなで花を振り撒く。
「煉獄先生、おめでとうございます!」
「苺歌ちゃん、おめでとう!」
「幸せにね!」
「お姉ちゃんおめでとう!」
「お姉ちゃん、杏寿郎さんと幸せにね!」
「煉獄、おめでとさん!」
「お嫁さん大事にね!」
みんな、みんな笑顔だった。
聖なる夜に挙げられた結婚式。夕焼けとフラワーシャワーと、辺りを燈し始めたイルミネーションが、より一層その光景の美しさを引き立てる。
最後にブーケトス。
花嫁さんのブーケを受け取りたい女の子たちが意気揚々と準備している。
『いきまーす!……えいっ!』
お姉ちゃんが後ろ向きでブーケを投げた。それをキャッチしたのは……。
「…わわ!お、俺でいいのかな!?」
炭治郎だ。わりと後ろのほうにいたのに、お姉ちゃん意外と肩が強かったんだ。
女の子たちは残念そうだったけれど、竈門くんなら許せるね、と笑っていた。
「では、ブーケを受け取ったラッキーボーイはこちらへお願いいたします」
「え!?…はい!」
ブーケを持った炭治郎が、新郎新婦のところへ行き、担任の煉獄先生とそのお嫁さんと記念撮影。
そこで初めてうちのお姉ちゃんと顔を合わせた炭治郎は、苺歌姉ちゃんの綺麗さにびっくりした様子だった。
場所を改めて、披露宴が行われた。
純白のウエディングドレス姿のお姉ちゃんとも写真を撮りまくったし、お色直しで着てきた淡いエメラルドグリーンのドレスのお姉ちゃんもすごく綺麗で可愛くて写真を撮りまくった僕と有一郎。
嬉しかったのは、数年前にプレゼントしたアクアマリンのピアスを白いドレスの時に、花の形の揺れるピアスをお色直しのドレスの時に着けてくれたこと。ずっと大事にしてくれて、ありがとう、お姉ちゃん。
お食事もすごく美味しかったし、キメツ学園の男性教師による余興も面白かったし、とても楽しい結婚披露宴だった。
新婦からの手紙の朗読は、僕ら時透家のみんなに向けられた愛情いっぱいの内容で。しかも父さんに、母さんに、兄さんに、僕に、それぞれメッセージをくれて。再び涙が止まらなくなってしまった。兄さんなんて、大きめのタオル地のハンカチがびしょびしょになるくらい泣いていた。
何もかもが無事に終わり、帰宅したのは夜9時過ぎ。杏寿郎さんとお姉ちゃんも一旦時透家に一緒に帰ってきた。
みんなでお茶を飲んでひと息ついてから、2人は荷物をまとめて帰る準備をする。
「今日は本当にありがとうございました。一生の思い出です」
結構な量のお酒を飲まされていた筈の杏寿郎さんは、呂律が回らないといった様子もなく普段と変わらない喋り方だ。強いんだなあ。
「こちらこそありがとう。大事な娘の美しいウエディングドレス姿を見られて嬉しかったよ」
「私たちにとっても一生の思い出よ」
父さんと母さんが微笑む。
『お父さん、お母さん、ゆうくん、むいくん。今までありがとうございました。お嫁に行って“時透苺歌”ではなくなったけど、時透家のみんなはずっと変わらず私の大好きな自慢の家族だよ』
お姉ちゃんの言葉にまた涙が溢れてくる。
「…うっ…、時々は遊びに帰ってきてね、お姉ちゃん…。僕もっ…お姉ちゃん大好きだよ…!」
「…お姉ちゃん…っ…幸せになってね……ぐすっ……俺も大好きだよ!」
両親に続いて、涙が止まらない弟たちと順番にハグしてくれるお姉ちゃん。この家に来た頃から変わらない、華奢で温かなお姉ちゃんの腕の中。身長は今ではすっかり僕たちのほうが高くなってしまったけれど、包み込むような優しさは、小さい頃そうしてくれていた時と同じだ。
いつだって僕たちを守ってくれたお姉ちゃん。優しくて真っ直ぐで、強い心を持ったお姉ちゃん。でもこれからは、杏寿郎さんという力強くて頼もしくて、優しい旦那さんがきっとお姉ちゃんを守ってくれるよね。
お姉ちゃん、素敵な結婚式をありがとう。
綺麗なドレス姿を見せてくれてありがとう。
あの日、時透家に来てくれてありがとう。
僕たちのお姉ちゃんになってくれてありがとう。
世界でいちばん素敵なお姉ちゃん。僕らの自慢のお姉ちゃん。
これからももっともっと、幸せになってね。
心の底から大好きだよ。
終わり