テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
リウさんは、どこに行ったんだろう。
部屋を出てから城の中を探すけど見つからない。
外に出てから足を止めてよく考えてみる。
さっき、私の上着のフードに入っていた砂を落としてくれた。
ほうきと塵取りを持って砂を掃除してたから、次は砂を捨てに行くだろう。
そうなると、城の中ではなく外にいるはず。
城の階段を降りて、街の方に向かって走るとリウさんが歩いていた。
「リウさん、ちょっと待ってください!」
大きな声で呼んでみると、気づいてもらえたのか私の方に振り向いて立ち止まってくれた。
すでに砂を捨ててきたのか、両手には何も持っていなかった。
「かけら様、どうしたの?
コウヤ様と話し合いをするんでしょ。
忙しいと思うし、あたしのことは構わないでいいから」
「あの……。私のリュックに入っていたダイヤモンドを知りませんか?」
すると、リウさんは、にっと笑って両手を振った。
「知らないよ。
だって、ほら、あたしは何も手に持ってないじゃん」
「言い難いですけど、私の仲間が見たんです。
リウさんがダイヤモンドを持って行ったところを……」
走ってきたから呼吸が乱れている。
息を整えていると、リウさんは眉間にしわを寄せてチッと舌打ちをした。
「このダイヤモンドは、あたしがもらう。
大体、貴重な物をリュックに適当に入れておく方が悪いのよ。
管理できないやつにこれを持つ資格なんてないわ」
「確かに、適当に入れていたのは否定できないですけど……」
ダイヤモンドを箱や袋にも入れず、持ち歩いていたのは事実だ。
でも、まだ謎が解けていないから渡すわけにはいかない。
「お願いします。そのダイヤモンドを返してください」
「は? 断るに決まってるじゃん」
「ええ……」
「このダイヤモンドの所有者は、あたしに決まったの」
リウさんは、腰に付けていたポーチからダイヤモンドを取り出して見せびらかす。
「いいえ。今は私の物です」
「しつこい女……。
かけら様は、イケメンの王子様を三人も連れていてモテモテよね。
金持ちの男がいるんだから、宝石なんていらないでしょ」
「そうじゃなくて……。
私は世界の平和のために王子たちと旅をしているんです。
だから、……モテるとか関係ないです。
ダイヤモンドの正体が何なのか分からないので、知るまで渡せません」
「あはははっ、無知ってやつ?
じゃあ、いらないでしょ。何も知らないんだから」
リウさんは、何か知っているというんだろうか……。
言い返す言葉が見つからなくて困っていると、コウヤさんが走ってやって来た。
「リウ! 自分が何をしているのか分っているんですか?
今すぐかけらさんにそれを返しなさい」
穏やかだったコウヤさんの表情が険しくなっている。
そして、リウさんは眉を下げて瞳を潤ませた。
「コウヤ様……。
あたしは……、ずっと……あなたの恋人になりたかった。
この気持ちを知っているのに、なぜいつも答えてくれないの?」
「それは……」
「ほら、また口籠る。
だから、あたしはコウヤ様と結ばれるために、このダイヤモンドを奪ったの。
あたしを恋人にしてくれるまで絶対に返さないから!」
「待ってください! そのダイヤモンドは……――」
リウさんは、羽織っていた上着を脱いで振り下ろし、地面にある細かい砂を巻き上げて、私とコウヤさんの視界を奪った。
目を開けた時には、リウさんの姿がなくて、見失ってしまった。
「やれやれ……。逃げ足が早いですね、わたしの臣下は……」
「おい、何の騒ぎだ?」
立ち尽くしていると、レトとセツナがやって来た。
ダイヤモンドがなくなってしまった。……なんて言えない。
ふたりには、このダイヤモンドを見せたことさえないから。
そして、どんな意味を持っているのかもまだ聞けていないから……。
「かけら様の大切なものをリウが持って行ってしまいました。
わたしがしっかりしていなかったばかりで……。
本当に申し訳ありません」
コウヤさんはダイヤモンドのことをと“大切なもの”っと言って誤魔化した。
レトとセツナには教えないのだろうか。
「なんだって!?
かけらの大切なものが何か分からないけど、絶対に取り戻さないとだね」
「あの女……。
かけらに嫌がらせをするとは、嫉妬でもしているのか?
話し合いをする前に探さないといけねぇな」
微かな風が吹いてきて、コウヤさんの銀色の髪が揺れる。
そして、寂しそうな顔をして夜空を見上げた。
「わたしは、リウに答えを出さないといけませんね」
きっと、それはさっきの告白の返事だと思う。
コウヤさんは、なんて答えるんだろう……。
しかし、ふたりの関係に立ち入ってはいけない。
もし、その時がきたらそっと見守ろう。
「かけらさん。少しいいですか?」
「なんですか?」
「耳を貸してください。
協力してもらいことがあります」
レトとセツナに聞こえないようにするためなのか、コウヤさんは私の耳元でこっそり話す。
「はい……。えっ……、それって……」
頼みごとを言われている途中で目が丸くなる。
「なっ……。本当ですか……」
「本気で言ってます。だから、よろしくお願いしますね」
つまり、私がコウヤさんの恋人になれってこと……!?
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!