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信じられない……。
まさか、こうなるとは思っていなかった。
混乱してしまって真っ直ぐに口を紡ぎ、ぱちぱちと瞬きする。
そんな私にコウヤさんは優しい笑顔を向けた。
冗談ではなさそうだ。笑顔の裏に圧を感じる。
「さっきまで、かけらは嬉しそうに泣いていたのに……。
今度は石のように固まっている。
リウさんに持っていかれたものは、そこまで大切なものだったんだね」
「生活するために必要なものだったら、そりゃあ焦るよな」
どうやらレトとセツナには聞こえていなかったようだ。
「皆さんは砂漠を歩いてお疲れだというのに……。
面倒な事件を起こしてしまって申し訳ないです。
臣下が起こしたことですので、わたしが責任を持って解決します」
「これも予言できてたんじゃねぇのか?
……お得意の占いで。
前もって知ってるなら、かけらの大事なものを盗られずに済んだよな?」
「わたしは完璧な人間ではないので」
「これは罠なのか?」
「長年、他国と争っていたのですから、恨みがあるのは普通でしょう。
でも、わたしは客観的に受け止めているつもりです。
それに……、かけらさんがいますから。
印象を悪くするようなことは避けたいです」
「なるほどな」
他の世界から来たということ以外、私には何の力もないというのに。
どうして特別な扱いを受けるんだろう。
今までの成果がこの世界の国の人たちに伝わっているとか……?
「僕は協力するよ。
一緒に探す人が多いほどすぐに見つかると思うし」
「かけらに関係することだからオレも手伝うぜ。
あの女を探し出して、大切なものを取り戻さねぇとな」
「レト、セツナ……。ありがとう」
どこまでも頼りになる仲間だ。
リウさんを見つけて、奪われたものを取り戻したら、詳しく話そう。
シエルさんから渡されたことと、あのダイヤモンドに秘められた謎を聞くために……。
「そうですね。レト王子とセツナ王子のお言葉に甘えたいと思います。
それでは、おふたりは北の方を探してもらえませんか?」
「分かりました。コウヤさん、かけらを頼みます」
レトとセツナは北の方に向かって走っていた。
私とコウヤさん、レトとセツナ。
どちらが先にダイヤモンドを見つけられるか……。
そもそも、私の管理不足で事件が起きてしまったんだから、ぼーっとしているわけにはいかない。
「私たちもリウさんを探しましょう」
「恋人になりながら、ですよ」
「リウさんからダイヤモンドを返してもらうために、私がコウヤさんの恋人になる。
それってどういうことですか?」
「本気ですよ。……っと言っても信じてもらえないと思いますが」
コウヤさんには悪いけど、ここは素直に頷く。
「ともかく、これはリウを誘き寄せるための作戦です。
かけらさんには愛する人を決める権利がありますから……。
ここは“恋人のふり”で我慢しましょう」
「これも占いの結果とか……?」
「さあ、どうでしょうね。
この件によって、わたしとリウの関係が大きく変わることだけは分かっています」
「仲が深まるとか……」
「まあ、それは置いておきましょう。
もちろん、協力してくれたらお礼をしますよ」
「なんですか?」
「かけらさんが知りたいと思っていることを教えましょう」
「知りたいこと……?」
コウヤさんは、こくんと首を縦に振ってから、左手の人差し指と中指以外の指を握った。
「それは、二つあります。
ひとつは、かけらさんが持っていたダイヤモンドの秘密について……。
もうひとつは、かけらさんがなぜこの世界にやって来たのかです」
この世界に来てからずっと疑問に思っていたことで目を見開く。
「コウヤさんは何か知ってるんですか!?」
「もちろんです。
これは占いの結果ではありません。……真実です。
でも、わたしに協力してくれなければ永久に話しませんよ」
「うっ……。ずるいですね」
「かけらさんにとって、それほど価値がある情報だと思いますので」
どれだけ自分で考えても、分からなかったことの答えがすぐそこにある。
前にいた世界の私はどうなっているのか。
なぜこの世界に来ることになったのか。
それがずっと分からなくて、この世界で生きていても自分の立っている土台がぐらぐらとしているように思えた。
真実を知ったら、何かが変わるかもしれない……。
「分かりました。やります!」
覚悟を決めて、コウヤさんの恋人のふりをすることにした。
「それでは、わたしたちは今から恋人です。
よろしくお願いしますね。かけらさん」
「はい。でも、私は今まで誰とも付き合ったことがなくて……。
どうすればいいのか分からないんですけど……」
「それっぽいことをしていれば大丈夫ですよ。
例えば、手を繋ぐとか」
コウヤさんに躊躇なく手を握られてドキッとする。
セツナと手を繋いだことはあったけど、慣れなくて顔が熱くなる。
恥ずかしいけど、私もコウヤさんの手をぎゅっと握った。
これ知りたいことを教えてもらうため……。
ダイヤモンドを取り戻すため……。
頭の中で何度も自分に言い聞かせて、恥ずかしさに耐える。
「ふふっ、無垢な子ですね。
その調子です。このまま街を歩きましょう。
ルーンデゼルトの民を驚かせてしまいますが、リウの目に止まったら必ずこちらにやって来るはずです」
「予言ができるなら、それで探したほうが早いんじゃないですか?」
「今日は集中することに疲れましたし、なんでも占いに頼ってしまったら、つまらなくなりますので。
それに、かけらさんにずっと会いたかったんですよ。ふたりきりで話すチャンスが欲しいんです」
「なぜ私に会いたいのか分かりません。
偉業を達成していませんし、有名人でもないですし、お姫様のように可愛くないです……」
「可愛いですよ。外見も中身も……。
わたしにとって、かけらさんは愛しい存在です」
なぜ知り合ったばかりの私に好意があるんだろう。
甘い言葉が嘘なのか、本当なのかも分からない。
でも、コウヤさんは優しい眼差しで私を見てくる。
まるで本当の恋人のように……。