テラーノベル
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静まり返った家の中。
目黒はゆっくりとリビングを見回していた。
ソファ。
テレビ。
キッチン。
どこへ目を向けても、少しずつ記憶が戻ってくる。
ふと視線が止まる。
窓際に置かれた、一台の机。
「……。」
阿部の机だった。
この机で資格の勉強をしていた。
ドラマや番組の台本に付箋を貼り、何度も読み返していた。
眠そうにしながらノートへ文字を書き込む姿まで思い浮かぶ。
「ここで……。」
「頑張ってたんだ。」
目黒は自然と椅子へ腰を下ろした。
何気なく引き出しを開ける。
「……?」
一番奥に、一つのケースが置かれていた。
ゆっくり取り出し、蓋を開ける。
そこには、アンクレット。
大切に飾られるようにしまわれていた。
その瞬間だった。
――ブツリ。
頭の中で何かがつながる音がした。
___________
満天の星が映し出されたプラネタリウム。
「きれい……。」
隣で阿部が小さく笑う。
上映が終わり、人が少なくなった頃。
自分の気持ちを伝え、緊張しながらポケットから小さな箱を取り出す。
『これ。』
『開けてもいい?』
ゆっくり箱を開ける阿部。
中には、繊細なデザインのアンクレット。
『……めめ。』
『ありがとう。』
泣きそうな笑顔で受け取る。
その夜、自分で阿部の足首へ着けてあげた。
『アンクレットも。』
『めめの気持ちも。』
『大切にするから。』
___________
「……あべちゃん。」
目黒の頬を涙が伝う。
全部、思い出した。
阿部と過ごした日々。
泣いた夜。
笑った朝。
初めて手を繋いだ日。
女性になった阿部を支えた日。
一緒に暮らし始めた日。
婚約指輪を渡した日。
全部。
全部。
「思い出した……。」
目黒はアンクレットを胸へ抱き締め、その場で涙を流した。
___________
その頃。
寝室で眠っていた阿部がゆっくり目を覚ます。
「……ここ。」
見慣れた天井。
二人で暮らしていた家だった。
(まずい……。)
目黒がいない今なら。
そっと、このまま出て行こう。
そう思い、音を立てないよう寝室を出る。
廊下を抜け、リビングへ入った瞬間。
目黒がいた。
机の前で立ち尽くし、何かを手にしている。
その手にあるものを見た瞬間、阿部の顔から血の気が引いた。
「……!」
アンクレット。
プラネタリウムで目黒から初めてもらった、大切なアンクレットだった。
(なんで……。)
阿部は震える。
(あれは……。)
(確かに段ボールへ入れた。)
(この家には残してない。)
次の瞬間、一人の顔が浮かぶ。
(……佐久間。)
机。
引き出し。
(置いていったんだ。)
(わざと。)
阿部はその場へ力なく座り込んだ。
逃げ道がなくなった。
その物音に目黒が顔を上げる。
「……!」
「あべちゃん!」
目黒はすぐに駆け寄った。
阿部の前で膝をつき、震える肩をそっと支える。
「大丈夫?」
その声は、さっきまでとは違っていた。
記憶を失った人の声ではない。
阿部は恐る恐る目黒を見上げる。
目黒は涙で濡れたまま、優しく笑った。
左手の薬指には、二人で交わした指輪。
右手には、大切なアンクレット。
そしてその瞳には、阿部だけを見つめる、あの日と変わらない愛情が宿っていた。
___________
「……めめ。」
震える声で、阿部は目黒を見上げた。
目黒の瞳には涙が浮かんでいる。
「……思い出したの?」
沈黙が流れる。
目黒はゆっくりと頷いた。
「うん。」
その一言だけで、阿部の心臓が大きく鳴る。
目黒は涙を拭うこともせず、真っすぐ阿部を見つめた。
「全部。」
「全部思い出した。」
「二人で暮らし始めた日も。」
「プラネタリウムも。」
「アンクレットも。」
「一緒に笑ったことも。」
「辛かった日のことも。」
「曲を作ったことも。」
「全部。」
「何一つ忘れてない。」
その言葉を聞いた瞬間、阿部の瞳から涙があふれた。
「……めめ。」
声にならない。
目黒はそっとアンクレットをケースへ戻すと、両腕を広げた。
「おいで。」
その一言に、阿部は何も考えられなくなった。
ふらふらと目黒へ近づく。
次の瞬間、優しく抱き締められた。
「あ……。」
あの温もりだった。
事故の前と何一つ変わらない。
力強くて、優しくて、安心できる腕。
目黒は阿部の頭へ頬を寄せ、小さく震える声で言った。
「ごめん。」
「……。」
「ごめんね、あべちゃん。」
「俺。」
「忘れちゃってた。」
「一番大切な人なのに。」
「目の前にいるのに。」
「毎日会ってたのに。」
「思い出せなくて……。」
目黒の声も涙で途切れる。
「どれだけ傷つけたか。」
「どれだけ寂しい思いをさせたか。」
「全部思い出した。」
「本当に、ごめん。」
阿部は何度も首を横に振った。
「違う……。」
「めめは悪くない。」
「事故だったんだか、ら……。」
そう言おうとしたのに。
涙で言葉が続かない。
目黒はさらに強く抱き締める。
「苦しかったよね。」
「一人で全部背負わせて。」
「俺が忘れてる間も。」
「俺の幸せばっかり考えて。」
「別れようとして。」
「指輪まで外して。」
「全部、一人で。」
阿部はとうとう耐え切れなくなった。
「っ……。」
肩が大きく震える。
「辛かった……。」
ようやく漏れた本音。
「すごく、悲しかった……。」
「めめがもう……。」
「俺のこと思い出せないまま……。」
「誰かと幸せになった方がいいって……。」
「何度も自分に言い聞かせた……。」
「でも……。」
「でも本当は、嫌だった……。」
「忘れられるのも……。」
「離れるのも……。」
「全部、辛かった……。」
堰を切ったように涙があふれ、その場で泣き崩れる。
目黒は阿部を支えながら、一緒に床へ座り込んだ。
「もう大丈夫。」
何度も背中をさする。
「もう忘れない。」
「もう離さない。」
「これからは。」
「俺が絶対に守る。」
阿部は子どものように声を上げて泣いた。
その涙は、この数日間、一人で抱え込んできた不安と寂しさが溶け出していくようだった。
目黒は何も言わず、そのすべてを受け止めるように抱き締め続けた。
窓から差し込む夕暮れの光が、寄り添う二人を静かに照らしていた。ようやく二人の時間が、止まっていた場所から再び動き始めたのだった。
コメント
6件
よかったーーーー😭😭😭😭
🩷や他のメンバーも🖤💚を信じてるのが痛いほど伝わってきました。 一つ一つ思い出していく🖤に、じわじわ目頭が熱くなって、記憶を取り戻した🖤に、涙と本音をぶつけて泣き崩れる💚と、全てを受け止める🖤に、涙がとまりませんでした😢 🖤💚大好き💞続きを楽しみにしています!

一気に読みました。 😭😭😭😭あ〜泣きました。 とにかく良かった 🩷💙💜有り難う特に🩷かな 強行突破的なやり方だね。 💚本音も言えた 🖤頑張ったね。
kaede🍁
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みら

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15,080
#AI
みら

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