テラーノベル
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一限目前。
教室はまだ落ち着ききらなくて、あちこちで声が重なっている。
その中で、青の視線はずっと同じ場所にあった。
紫。
見なくても、どこにいるか分かるのに、つい目で追ってしまう。
青:(……ほんと、好きだな)
もうとっくに気づいている。
認めているのに何も変えられないまま、こうして同じ距離にいる。
青:「紫ーくん」
呼べば振り向いてくれる。
紫:「ん?どうしたの、青ちゃん」
変わらない声。
それだけで少しだけ安心する。
青:「次の授業一緒にやろ?」
理由なんて特にない。
ただ隣にいたいだけ。
紫:「いいよ」
迷いのない返事。
その軽さに少しだけ胸がざわつく。
青:(……だよね)
分かっている。
紫が誰にでも優しいことも、その「いいよ」が特別じゃないことも。
「紫これ教えて」
すぐ近くで別の声がした。
紫は自然にそちらを向く。
さっきまで青に向けていたのと同じ表情で同じ距離で。
青は何も言わずその様子を見ていた。
青:(……ほら)
分かっていたはずなのに。
どうしてか少しだけ苦しくなる。
青:(僕だけじゃないのに)
そんなの当たり前なのに。
紫が笑うたびに。
それが自分じゃないだけで引っかかる。
青:(……やだな、これ)
小さく息を吐く。
それでも視線は外せなくて結局また見てしまう。
紫:「ごめん待たせた?」
何も知らない顔で戻ってくる。
青:「ううん平気」
いつも通りに返す。
ちゃんと笑えているはずだ。
紫:「じゃあ一緒にやろうか」
青:「うん」
隣に座る。
近い距離。
触れようと思えばすぐに触れられる。
青は少しだけ手を動かして。
机の上にある紫の手の近くに自分の指を置いた。
触れない。
触れないまま止める。
青:(……何やってるんだろ)
分かっている。
これは踏み込んじゃいけない距離だ。
それでも。
青はほんの少しだけその距離を詰めた。
気づかれないくらいに。
紫は気づかない。
当たり前みたいに何も言わない。
青:(……これでいい)
よくないのに。
全然足りないのに。
それでも離れるよりはましで。
青は視線を落とした。
青:(……好きなのやめられないな)
分かっているのに。
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