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私たちが最後に訪れたのは、アクセサリのお店が集まった区画だ。
武器屋や防具屋よりもその数は多く、今まで以上に目移りをしてしまう。
「お店の数がすごいねぇ」
「この街で扱うものの中では、アクセサリは作りやすいものですからね。
ほら、あのお店とか……女性がひとりで切り盛りしているでしょう?
他の商品に比べて、参入がしやすいんです」
なるほど。確かに武器や防具に比べれば、アクセサリは作りやすいものだろう。
高い技術が必要とは言っても、個人製作だってずっとしやすいだろうし……初期投資も少なそうだし。
「言われてみれば、色々な大きさのお店があるね。
大きなところもあるけど、ここら辺は小さいお店が多いのかな?」
「わたしはあんな感じの、小さなお店か好きですね!」
エミリアさんはいろいろと見比べながら、センスが良い看板のお店を指差した。
「エミリアさんはああいうのが好みなんですね。
確かに洗練されてる感じで、エミリアさんにはぴったりかも」
エミリアさんは、黙っていると本当に綺麗な人だからね。
……あ、いや。打ち解けるとお茶目なところが見えてくるってだけで、悪口では無いよ、断じて。
「私は可愛さがある、あっちの方が好みかな?
ちょっとクセがあると言いますか」
「ふむふむ。アイナさんは可愛いのが映えますからね。ああいうの、良いですよね!」
……まぁ、私はガルルンがツボに入るセンスだからね。
直球なものも良いんだけど、少し変化球が入ったものを好むところがある、というか。
「それじゃ、いろいろと見てまわりますか!」
「分かりました! たくさん見ましょう!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
気が付けば、外はすっかり真っ暗に。
「うわー、アイナさん。もうこんな時間ですよ……」
「本当だ……。見るものが多すぎて我を忘れてしまった……。
ルークも、見るものが無いのにごめんね……」
私とエミリアさんは色々と見れて楽しかったが、ことルークに関しては、アクセサリは特に欲しいものでは無いわけで。
「いえ、私はこういうお店にはあまり来ませんでしたから……良い経験になりました」
うん、そうだよね。良い経験になっちゃったよね。
「それではエミリアさん、名残惜しいですがそろそろ帰りますか。
何か買い残したものとか、大丈夫ですか?」
「はい、わたしは大丈夫です。アイナさんは?」
「私も今日は大丈夫です!」
これだけ散々見て、買ったものはゼロ。
まさにウィンドウ・ショッピングというやつだ。
「……ところで折角ですし、今日は宿屋の食堂じゃなくて、外のお店で食べていきません?」
「いいですね! そうしましょう!」
エミリアさんが速攻で賛同してくれる。
ルークはそれに少し遅れて賛同する。
「料理が美味しいという酒場があるので、そちらに行ってみませんか?」
ふむ、酒場か……。
「うん、行ってみよっか。私、お酒は飲めないけど」
「あれ? アイナさん、下戸なんですか?」
エミリアさんが意外、といった感じで聞いてきた。
「え? だって私、17歳ですよ?」
「え?」
お酒は成年になってからでしょ?
元の世界では24歳だったから飲んだことはあるけど、こっちの世界ではちゃんと控えてるよ?
「もしかして……。
アイナ様、お酒は15歳から問題ありませんよ」
ルークがそんなことを言ってくる。
「え? 20歳からじゃないの?」
少しきょとんとしながら返すと、いつもの視線を漏れなく頂いた。
「ああ、アイナ様の育ったところではそうだったんですね……」
「20歳からだなんて、ずいぶん厳格な生まれだったんですね……」
――くっ、やはりこうなったか……!
でも、17歳になれば大手を振ってお酒を飲めるんだ?
これは良いことを知ったぞ! 早速飲んでみよう!!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「それじゃ、お疲れ様でした!」
「「お疲れ様でした!」」
今日は色々と見てまわっただけだけど、それはそれでずっと動いていたからね。
しっかり休んで、明日に疲れを持ち越さないようにしなければ。
「ところでエミリアさんとルークって、お酒は飲むの?」
「わたしは信仰の関係で、飲みません」
あ、エミリアさんはそうなんだ。
「私もあまり好んでは飲みませんね」
ルークもそうなんだ? 真面目か! ……いや、真面目なんだけど。
「うーん、エミリアさんには無理を言えませんね……。
それじゃルーク、弱いので良いから飲んでみない?」
「え、えーっと……そうですね。どうしましょう……」
「私、今日はお酒デビューだからその記念に! 喜びを分かち合おう!」
「む……。そういうことでしたら、頂きましょう」
ふむ、ルークは基本的には飲まない人なんだね?
そんな感じで、私たちはお料理とお酒を注文した。
「ぷはーっ!」
お酒を煽っての第一声。頼んだのは何かビールっぽいお酒だった。
元の世界ではあんまりビールって好きじゃなかったんだけど、今回飲んでるのは何だか飲みやすくて美味しい。
「アイナさんって、豪快なのか可愛いのかよく分からない飲みっぷりですね」
「えっ」
ビールを飲んだときは『ぷはー』だと思ったのだが。
元の世界だとみんなそんな感じだったし。
ルークを見てみると、無駄なことは言わずに静かに飲んでいた。
大人か!
……いや、この世界では成年なんだろうけど。
ちなみにお酒が15歳からってことは、15歳が成人なんだよね?
「ルークはお酒、美味しい?」
「はい、美味しく頂いてます」
「あんまり飲まないみたいだけど、味が苦手なの? 悪酔いする?」
「いえ、どちらでも無いのですが……。
過去に同席した人によれば、何やら余計なことを言ってしまうそうなんです。自覚は無いのですが」
へぇ? そうなんだ?
でも、絡み酒やら泣き上戸よりは良いんじゃない?
「ほらほらー。お酒も良いですけど、こちらのお料理も美味しいですよ!
どんどん食べましょー!」
エミリアさんは嬉しそうに大皿から取り分けている。
テキパキと気が利くなぁ。
会社の飲み会だったら、男性陣からは女子力高しと認められるだろうなぁ。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
「ルークさんもどうぞ」
「ありがとうございます。エミリアさんはテキパキとしていて素敵ですね」
「……え? あ、どうも?」
あ、本当だ。これか。何か余計なことを言ってるぞ。
私はちらっとエミリアさんを見てニヤニヤする。
「アイナさん……っ!」
ふふふ。エミリアさんがこんな風に慌てるなんて、珍しいかもしれない。
「エミリアさん? アイナ様がどうかしましたか?」
「いいえ、いつも可愛い人だなと思いまして」
「もちろんですとも。アイナ様以上に可愛い方が、この世界にいるものですか」
……ッ!?
それを聞いて、エミリアさんはこちらを見てニヤニヤしている。
何というやり返し……。ぐぬぬ……。
「お二人とも、どうかしましたか?」
「「いいえ?」」
……本当にひとこと多いな! ついでに無自覚なんだな!
何だかやりにくいから、これからはルークにお酒を勧めるのは止めることにしよう。うん、それが良い。