ガルルン茸――
……それはかつて、疫病で滅びかけた村に生まれた奇跡。
神の慈悲により人間に与えられた、祝福の雫……。
「――みたいな?」
「エミリアさんの創作魂に火が付いた!?」
目の前のキノコ……ガルルンの置物に生えたキノコを、改めて眺める。
毒々しさはまるで無く、かといって地味過ぎもせず。神秘の森にあるキノコと言われれば、なるほどな……と思わせる控えめな色合い。
……ただ、お鍋に入っていたら敬遠するような感じではあるんだけど。
「でも、そんな伝説が生まれても仕方ない雰囲気がします!
このキノコを絶やしてはいけません! それがガルルン教の司祭である、アイナさんの務めです!!」
「ここに来て、私にもついに使命が……!!」
使命なんて神様からも与えられなかったというのに、まさかキノコから与えられるとは!!
……でもまぁ何だか凄そうなものだし、それはそれでありなのかもしれない……?
「アイナさんご本人がいれば、疫病なんて恐れることは無いですけど……世界の全てをみるわけにはいきませんからね。
このキノコを普及させれば多くの人の命を救えますし、ガルルン教の名前も広がるでしょう……!!」
「なるほど……!!
ところでちょっと気になったんですけど、この名前って誰が決めたんですかね?」
「名前?」
「はい、『ガルルン茸』っていう名前。
『ガルルン』っていう名前自体、私とセシリアちゃんで付けたものですし」
「うーん……。最初から命名しない限りは、『大いなる存在』がそれっぽい名前を付けるそうですよ。
一般的な呼び方にあとから置き変わることもあるそうですし、数字が割り振られることもあるみたいですし」
数字が割り振られる……っていうのは、例えば『疫病8172型』みたいな名前のことかな?
それ以外の場合だと、色々な影響が混ざり合って、名前が勝手に決められてしまう……と。
「……なるほど。
でもこういうことが起きると、この世界は自分たちで作っている……みたいな感覚になりますね」
「壮大な話になってきました……!
確かにアイナさんがいなければ、このキノコも生まれてこなかったでしょうしね」
そんなやり取りをしながらガルルン茸を見ていると、何とも不思議な気分になってくる。
……うん、とりあえず細かいことは置いておくとしよう。
「このキノコは何とか増やすことにして、とりあえずアイテムボックスにしまっておきましょう。
それで、ガルルンの置物は前回受け取った11個……その内の1個はルークにあげたから、残りの10個ですね。
これを足して、合計49個……っと」
テーブルの上には、販売できるガルルンが49個並んだ。
これは壮観……というか、それよりも何というか――
「……何だか、観光地のお土産コーナーみたいですね」
「あ、言っちゃいましたね!
言ってしまいましたね、エミリアさん!!」
「え、えぇ!?
でもそういうアイナさんこそ、同じことを思っちゃったんですね!?」
「否定は出来ません!
……うーん、こんなにたくさんあるのがまずいのでしょうか」
「そうですね……。日替わりで、少しずつ出してみるとか?」
「インパクトに欠けますが……、そもそもここは錬金術のお店ですからね。
ああ、1箇所に固まっているのがまずいのかも? それならこう、お店中に分散して置いておけば……」
「それはそれで、『ガルルン☆ワールド』みたいな感じになりそうですよね」
「うぅ、そんなアミューズメントパークに行ってみたい……。
全体的なバランスもありますし、商品陳列のときに考えることにしますか」
「案外、商品と一緒なら良い感じで収まるかもしれませんしね。
……それにしても、ガルルン教の司祭様ですかぁ……」
「え? それが何か?」
突然考え込むエミリアさん。
創作宗教とは言え、何か問題があるのだろうか。
「司祭をやるなら、ガルルン教の法衣が必要ですよね!」
「え?」
「いつもわたしが着ているのは、ルーンセラフィス教の法衣じゃないですか。
やっぱりこういうのがあると、信仰として引き締まると思うんですよ!」
「は、はぁ……」
「せっかくですので、作りませんか? いえ、作りましょう!」
「え、えぇー?」
エミリアさんは今日、白兎堂で自身の服を注文したばかりだ。
もしかして、服の注文をするのが単純に面白くなっただけなのでは……。
「お金のことなら心配しないでください、わたしがお出ししますので!
その、ボーナスから!!」
これは駄目なパターン!!
浪費癖、イクナイ!!
「今回は止めておきましょう!」
「え、えぇー?」
明らかにがっかりするエミリアさん。
いざとなれば『はったりをかます服』で代用できるし、ここは必要なところでは無いのだ。
「いつか必要になったら、ということにしましょう。そんなときは訪れないと思いますが!」
「むむぅ、残念……。
しかし諦めませんよ。わたしが諦めても、第2、第3のエミリアが……!!」
なにそれこわい。
でもちょっと、何だか楽しそうではあるかな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
部屋に戻って、少し休憩。
休んだあと、改めてガルルンの置物を出してガルルン茸を眺める。
「……うーん。やっぱりシュールな……」
ガルルンの頭から、キノコが生えている。
どうしてこうなった……という言葉がとても似合う姿だ。
まぁこれはこれで永久保存版にするとして、これからこのキノコを増やさないといけないんだよね。
キノコって確か……上の部分から胞子を飛ばすんだっけ?
それがそこら辺にくっついて、育っていくんだよね?
むむむ、今ほどインターネットの知識に頼りたくなったことは無いな……。
……とりあえずインターネットなんて無理なことは置いておいて、ここは前向きに、キノコを育てている人に話を聞いてみることにしよう。
ちょっと明日は、その関連をあたってみようかな?
でもひとまずは、自分で出来そうなことをやっておこう。
――そして、『創造才覚<錬金術>』を使うこと2時間。
いろいろと探した結果、以前作った『高栄養飼料』の素材まわりから、それっぽいものをようやく見つけることができた。
その名も……『菌床』!!
何やらキノコを栽培するときに使うもののようだ。
早速、それを作ってから鑑定をしてみる。
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【菌床(S+級)】
キノコを育てるための培地。
品質に高い補正を得る。
※追加効果:品質×2.0
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……できた!
でも何となく、これじゃ上手くいかなそうな気がする……?
たまにあるんだよね、こういうこと。スキルなのか何なのかは分からないけど、錬金術師としての勘というか……。
そういえばこの前作った『皮膚再構成の軟膏』がそうだったんだけど、錬金術で作ったアイテムが素材になることもあるんだよね。
もしかしたらこの『菌床』を素材にして、もっと上のアイテムを作れたりはしないかな……?
そんなことを思いながら、『菌床』を使って作れるアイテムを『創造才覚<錬金術>』で調べてみると――
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【『伝説キノコの菌床』の作成に必要なアイテム】
・竜の血×1
・菌床(S+級)×1
・栄養剤(S+級)×1
・高級ポーション(S+級)×1
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……何か見つけた!!
とは言え、またもや『竜の血』ですか。
こんなに頻繁にお目見えするのであれば、ドラゴン関連の素材がたくさん欲しくなってしまう……。
……ひとまずそれはそれとして、早速作ってみると、見た目は『菌床』よりも少し濃い色のものができた。
それを鑑定すると――
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【伝説キノコの菌床(S+級)】
伝説キノコを育てるための培地。
品質に高い補正を得る。
※追加効果:強靭な生命力
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……おぉ、何だか凄そうな感じ!?
追加効果が特別っぽいから、これもかんてーっ。
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【強靭な生命力】
死滅時、98%の確率で復活させる。成長に高い補正を得る
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「おお……」
キノコ初心者でも安心できそうな効果が付いてる!
これは百人力ではあるんだけど――
「……でも、そもそもどうやって使うんだろう?」
培地と言うからには、ここにキノコの胞子を付けるのかな?
ひとまずガルルン茸を、培地の上で何度か軽く叩いてみる。
……とは言っても、何か反応があるわけでもなく。
「――まぁいっか。今日はこれでおしまいにしておこう」
2時間もずっと『創造才覚<錬金術>』を使っていたから、さすがに疲れてしまった。
キノコ関係はまた明日やることにして、今日はもう寝てしまおう。
……それじゃ、おやすみなさい。
今日はとっても楽しい一日でした!
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