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説明の後、ディアブロはバタバタと出て行く。
「私はリリア様をなんとか止める……! セノくんは引き続きアダムを頼む……!」
「はい! よろしくお願いします……!」
そして、バタリと閉まるドアと同時に、セノは改めて深刻な顔を浮かべさせ、キルロンド生たちを見遣った。
「今度こそ、アザミを仕留める」
そう言い放つ真っ直ぐな眼に、ヒノトは不安気に、最後に見た光景をセノに呟いた。
「俺……転移前に見ちゃったんだ……。エルフ族長のロードさんが……アダムに両断されるところ……」
その言葉に、あまり気にしていなかったキラ・ドラゴレオも反応する。
「は!? なんでそんなこと黙ってたんだ!! じゃあ、アダム討伐班に入れられたキルは……弟は……!!」
「落ち着け、二人とも」
セノは静かに二人の間に入る。
「ロード様もキルくんも、死んでいないよ」
「じゃあ……俺の見た光景は……」
「あれは魔法の一種だ。シニア・セニョーラに映された光景は、その相手の一番最悪だと思わせる景色を見させ、精神的に弱らせる意図がある。アダム=レイスと言うのは、とことんまで手を打つ男なんだ」
「なんだ……安心した……」
「それどころか、エルフ族の森から、アダムの潜む魔族邸まではかなりの距離がある。魔法を使えばアダムに気付かれるし、未だ着いてすらいないだろうね」
ホッとする二人を見て、改めてセノはキルロンド生たちの前に出て、真剣な眼差しを浮かべた。
「本来、僕の計画では、エルフ帝国軍の足を止め、アザミを孤立させたところで、僕率いるアザミ討伐班がアザミを討伐、次いで、ロード様がアダムのところに辿り着き、増援も虚しく、アダムも打ち倒すこと……。それが僕の中で最善手だと思っていた。もしエルフ帝国にいるエルフ族がアザミに逆らえない状態だとしたら、彼らも後の戦力になれると思ったからだ」
数名の戦士は、腑に落ちたかのように頷いた。
「だから彼らは……あんなにも苦しそうに戦っていたのか……」
セノの話は続く。
「しかし、アダムは予期していた。僕たち……いや、魔族軍四天王であるセノ=リュークの裏切り、ロード様をけしかけてアザミ討伐に向かうことを……。だからこそ、アダムは転移魔法をアザミに与えていた……。あの全力でアダムにまで来られたら、ここにいる全員、絶対に皆殺しにされるからね……」
「だから緊急退避だったのか……。最早、エルフ帝国軍はアザミに操られているとして、セノの采配によっては、俺たちの敵になるか、味方になる可能性もあった……」
「そう言うこと。でも次は、アダムがこちらに関与しないよう、ロード様率いるアダム討伐隊が交戦中を狙う。そして今度こそ……確実にアザミを仕留める……!」
「でも……戦力が……。前回はエルフ帝国軍の兵士たちの邪魔が入らないように出来たけど、今度はアザミも帝国軍を手配している可能性が高い……。そうなるとどうしても今の戦力じゃ……」
バン!!
そんな声の中、再び、教会の扉は勢いよく開かれた。
「だから、俺様が来た」
薄緑色の髪に、赤いメッシュを靡かせる、ヒノトたちと同い年くらいの男。
背中に巨大な斧を、腰には長剣を携える。
その形はまさに、
「倭国の武器……?」
男の登場に、セノは笑みを浮かべさせる。
「ふっ、彼は魔族軍四天王の一人にして、リムル=リスティアーナ同様、二属性魔力に成功した男……」
「俺様の名は、織田弓弦だ!!」
「やっぱり倭国民じゃねぇか!!」
「おぉ! 君たちは倭国に行ったことがあるのか!」
織田の目はパッと明るくなる。
全員、本当に魔族軍四天王なのかと呆然と見遣る。
「それならば、統領や明地とも会ったのか!」
統領とは、倭国民を治める長、徳川勝利。
そして、織田が明地と呼ぶ人物は、剣士たちが倭国遠征に行った際、共に鍛錬した倭国の生徒、明地拓真だった。
「お前……明地のこと知ってるのか!」
一番競い合っていたキラが明地の名に食い付く。
「知ってるも何も、倭国学寮でトップ争いをしていたのは、この俺様と明地だったからな! アハハハハ!」
その言葉に、一同は同じことで頭が巡る。
『何故、魔族軍の四天王であり、和国民である織田弓弦というこの男は、倭国学寮にいたのか』
その疑問の顔に気付いたセノは言及を始めた。
「君たちの頭に強く根付いているだろう。シルフ・レイスという男……。エルフ族と魔族のハーフ。彼、織田弓弦もまた、倭国民と魔族のハーフなんだ」
「ハーフ……!?」
「まあ、生い立ちを説明している時間はない。僕たちは、アダムと対峙するロード様に合わせ、再びエルフ帝国に乗り込む必要が……」
その瞬間、セノの耳はピクピクと動き、同時に、今までの冷静さを欠くように目を見開いた。
「シグマ……!! 直ぐにディアブロさんとの交信を繋げ!!」
「お、おう……」
シグマは、戸惑いながらも地面に手を当てる。
”闇魔法・ブロックトランス”
ゴゴゴゴッ! と、地面から岩盤が飛び出ると、そこにはディアブロの姿が映し出された。
「き、聞こえているか……セノ……!」
そこには、焦る様子を浮かべるディアブロ。
その背後には、
「キルロンド王国……!?」
ディアブロの背後には、ヒノトたちの故郷であるキルロンド王国、そして、その王城が映し出されていた。
「ディアブロさん……今、キルロンドにいるんですか……?」
「そんなことを説明している暇はない……! このままでは……このままでは戦争が起こる……!!」
「ど、どういう……?」
そして、次の瞬間、
ゴォン!!
「!!」
巨大な爆音と共に、レオとリオンの家であり、キルロンドの象徴である、キルロンド城が崩壊した。
「僕たちの……家が……。王城が……!!」
「すまない……。やはり止められなかったようだ……」
そして、目を細め、苦渋の顔を浮かべるディアブロ。
「リリア様を追い掛けて来たら、真っ直ぐキルロンド王国へと飛んで来たんだ。もしやと思い、私では契約の関係でリリア様を止められない。リリア様を止められるように、使役しているモンスターを向かわせたのだが……リリア様は力の覚醒を成功させていた……」
「そんな……。こんなタイミングで……」
ディアブロの説明に、呆然とするセノ。
そして、そうこう話している間にも、ヒノトたちの目には、次々と崩壊するキルロンド王国の惨状が広がる。
ディアブロの使役している魔獣による交信では、逃げ惑う人々の悲痛な叫び声までもが、響き渡った。
「俺たちは……何も出来ないのか……?」
次々に起きていく爆発、ただ見ているだけの自分たち。
握り拳は、やがて掌に爪痕を強く刻む。
「魔族ゥ……!!」
小さくて見えないが、リリアだろう爆発源に、大きな斧を持った男が飛び出す。
「父さん……!!」
その姿は、ヒノトの父、ラス・グレイマンと、現国内最強パーティと謳われるパーティだった。
「あの……もし、もしですよ……? この四人が負けてしまうなんてことがあったら、本当にキルロンドって……」
ポソっと、ニアは今よりも更に最悪な未来を呟く。
「と、父さんが負けるわけ……」
しかし、次の瞬間、
”闇魔法・ロストエンカウント”
画面上のディアブロは、リリアに襲い掛かるラスを闇魔法で捕まえ、その心臓を抜き出した。
その光景に、全員は口を開いて脱帽した。