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深夜、二人きりの部屋。出発前の最後の夜。灯りはもう落とされていて、月明かりだけがカーテンの隙間から差し込む。
イギリス「おい、アメリカ。もう寝る時間だぞ」
(いつもどおりのツン気味な声)
アメリカ「イギリスぅ〜、いっしょに寝よぉ〜」
(甘えた声。いつもは元気なのに、今日はちょっと寂しそう)
イギリス「……しょうがないなぁ。明日にはもう出るしな」
背を向けて布団に入る。
……
アメリカ(小声)「……イギリス、寝た?」
アメリカ「へへ……チュ」
(そっと頬にキス)
アメリカ「好きだよ」
……
夜、イギリスが布団に入った後、アメリカがそっと囁く。
イギリスは気づいていたけれど、答えない。
それは、子供の「好き」であり、甘えであり、一人の少年の夢みたいな感情。
イギリス(心の声)「……お前が本当に“好き”の意味を知るのは、ずっと先だろうな」
アメリカはそのままイギリスの横で眠りについた。
まだ何もわかっていない少年のままで。
【時は流れ―数年後/独立後の再会】
アメリカはすでに一国の代表としての責任を持ち、自信と誇りを身につけた青年に成長していた。
再会の場は、ある国際会議の合間。
イギリスが紅茶を飲みながら廊下に出ていたところ、背後から声をかけられる。
アメリカ「よう、イギリス。元気してた?」
イギリスが振り返ると、そこにいたのはもう“子供”ではないアメリカ。
長身に伸びた体格、落ち着いた雰囲気――そして、あの頃よりずっと鋭くなった目つき。
イギリス「……お前、誰だ。アメリカの皮をかぶった誰かか?」
アメリカ「オレはオレだよ。でもまあ……成長したろ?」
そう言って片手でおどけてウインクする仕草は、あの頃の面影のままだった。
イギリスは思わず目をそらした。
イギリス(心の声)「まったく……いつの間に、こんなに大人になりやがって」
そして、アメリカはふと真面目な声で言う。
アメリカ「……あの夜のこと、覚えてる?」
イギリス「……あの夜?」
アメリカ「出発前に、こっそりキスしたこと。
あれ……子供の気まぐれだと思ってた?」
イギリスの手が止まる。紅茶のカップが少しだけ揺れた。
…起きてたの気づいてたのか…
イギリス(目をそらして)「……そんな昔のこと、いちいち覚えてるかよ」
アメリカ「オレは、忘れてないよ。あのときからずっと、イギリスが好きだった」
イギリスは一瞬、言葉を失った。
笑ってごまかすことも、皮肉を言うこともできない。
そのまま、アメリカが一歩近づく。
アメリカ(やさしく)「今度は、大人の“好き”として言うよ。……イギリス、好きだ」
静かな廊下に、紅茶の香りとともに、熱い沈黙が流れる。
【会議前の廊下】
アメリカの真剣な「好きだ」の言葉に、イギリスは言葉を失っていた。
胸の奥がじんわりと熱くなり、答えようと唇が動きかけた――その瞬間。
フランス「おやおや〜?
これはまさか、ロマンティックな密会じゃないかい?」
ロシア「イギリスとアメリカ、ずいぶんと……近いですねぇ?」
イギリスがびくっとして、慌てて一歩下がる。
それを見て、アメリカは小さく苦笑した。
イギリス(赤面しながら)「な、なに勝手に勘違いしてんだバカども!
おれたちはただ、話してただけで――っ!」
アメリカ(静かに)「……今は、それでいいよ」
イギリスはその一言に少しだけ目を見開いた。
【会議本番】
重い扉が開き、各国代表たちが次々と入室。
議題は「経済協力」や「地政学的連携」など、重要なテーマばかり。
その中で、明らかに中心に立っているのは――アメリカだった。
アメリカ「この案に関しては、オレが責任持って各国調整する。
反対があっても、建設的に進めるべきだ。
まずは実行してから、次の一歩を考えるべきだと思う」
堂々とした声。
理路整然とした発言。
議場の視線は、彼に集まっていた。
もう、あの無邪気な子供じゃない。
フランス(皮肉っぽく)「まったく、昔の小僧がずいぶん成長したもんだねぇ」
ロシア(にこにこ)「こわいですねぇ、ヒーローさん」
イギリスはその姿を、沈黙したまま見つめていた。
【会議の休憩中/イギリスの独白】
会議の合間、イギリスはひとり、廊下の窓辺に立っていた。
イギリス(心の声)
「……いつから、あんな風に振る舞えるようになったんだ。
昔はあんなに、怖がりで、騒がしくて……」
彼の隣で、背を預けて笑っていた頃を思い出す。
今、彼はもう、ひとりで立っている。
その隣に、自分が必要じゃないように見える。
イギリス(心の声)
「“好きだ”なんて言葉を、軽々しく投げるような奴だったくせに……
今のあいつは、本当に――本気だったのかもしれないのに……」
胸が痛い。
でも、どう返せばいいかわからない。
イギリスは紅茶のカップを見つめながら、ぽつりと呟いた。
イギリス「……バカ。どうしてあんな顔で言うんだよ」
【会議後/夕暮れの中庭】
イギリス、ひとり。アメリカの成長に心が揺れている
会議が終わり、各国が散っていく中――
イギリスはひとり、建物の裏手にある中庭で風に吹かれていた。
アメリカの姿が、目に焼き付いて離れない。
イギリス(心の声)
「……あいつ、本当に立派になった。
一人で国を動かす顔してた。
もう、守ってやる必要なんて――」
胸が、きゅっとなる。
イギリス(心の声)
「なのに、なんでこんなに寂しい。
おれは……まだ、子供だった頃のあいつを見ていたいのか?
それとも――」
その時。
???「……おひとりですか、イギリスさん」
柔らかく落ち着いた声が、背後から響く。
静かに、気配もなく歩み寄ってきたのは――日本だった。
【日本、イギリスに静かに迫る】
日本「先ほどの会議、アメリカさんの手腕は見事でしたね。
……イギリスさんが“育てた”おかげでしょうか」
イギリスは思わず眉をひそめる。
イギリス「育てたなんて、あいつが勝手に成長しただけだ。
手に負えないガキだったのが、勝手に……」
言いながら、胸がちくりと痛んだ。
日本(じっと見つめ)「……ですが、あなたはその姿を見て少し寂しそうにしていたように見えました」
イギリスはどきりとした。
イギリス「……何が言いたい?」
日本「……失礼しました。ただ、
あなたは“過去のアメリカ”さんを懐かしんでいるのか、
“今のアメリカ”さんに惹かれているのか――
その違いに戸惑っておられるように見えただけです」
静かな、しかし鋭い指摘だった。
イギリスは答えられなかった。
日本(さらに一歩近づいて)
「……わたしは、今のイギリスさんに興味があります。」
イギリスは目を見開いた。
日本は、まっすぐな目をしていた。
曖昧でも冗談でもない、彼らしい誠実な眼差し。
イギリス(小さく)「……おまえ、何言って……」
その緊張した空気の中――
少し離れた場所から、アメリカが姿を見せた。
アメリカ「……なに話してんの?」
アメリカはこっちに寄ってきて言った
声のトーンは低く、いつもの明るさが少しだけ抜けていた。
視線が、日本とイギリスの距離に注がれている。
日本「……何も。ただの会話です」
アメリカ「……そっか」
3人の間に、微妙な沈黙が流れる。
アメリカが中庭に現れた瞬間――
日本は、一瞬イギリスを見て、何かを決意した顔になっていた。
日本(静かに)「……イギリスさん」
その声に、イギリスが顔を向けた次の瞬間。
ガシッ!
日本はイギリスの手を掴んで――
イギリス「おい!? 日本、なに――っ!」
ダッ!ダッ!ダッ!
まさかの全力ダッシュ!!!
【廊下〜外庭/イギリス連れ去られ中】
イギリス(走りながら)「おまっ……なにしてやがる!? 離せ!!」
日本(前を向いたまま)「……言わなければと思っていたのです。
でも、アメリカさんがいたから、つい……逃げるという手段を」
イギリス(大困惑)「いや冷静に分析してる場合じゃないからな!?」
そして――急停止。
日本(手を握ったまま、向き直り)「……イギリスさん。
わたしは、あなたが好きです」
イギリス「….はああああああああ!?!?!?」
イギリスの顔が爆発しそうなほど真っ赤になったその時――
ドドドドドドド……!!(足音)
アメリカ「……追いついた!!!!」
アメリカ「……はー、はー……おい日本、目の前で人さらいみたいなことすんなよ」
日本「連れ去ったというより、同行していただいたまでです」
アメリカ(キレ気味)「どっちでも変わんねーよ!!
てか、イギリスが困ってるだろ!」
イギリス(真っ赤な顔で)「…………(思考停止)」
アメリカ(ジト目で)「ていうかさ、日本、今告白してたよな? “好きです”って」
日本(まっすぐな目)「はい。しました。わたしは、あなたの知らない“今のイギリスさん”に惹かれているんです。」
アメリカ(ぐっと睨む)「……オレは知ってる。
ガキの頃も、成長した今も、ずっとイギリスのことが好きなんだ」
三人の間に、ビリビリとした緊張が走る。
イギリスはとうとう叫んだ。
イギリス「おまえら全員落ち着けぇぇぇ!!!!!」
騒がしすぎる心臓を抑えながら、アーサーは声を張り上げた。
イギリス「――一旦黙ってくれ!!!」
その迫力に、2人はピタッと口を閉じる。
日本・アメリカ「……はい」
静寂。
イギリスは目を閉じて、深呼吸を一つ。ゆっくりと2人を見て、呆れ顔で言う。
イギリス「……お前ら、なんで2人揃って俺に突撃してきてんだ?
今週は“イギリス告白ウィーク”か何かか?」
(沈黙)
イギリス「まず日本、いきなり“好きです”ってどういう意味だよ、あれは。真面目なやつか? それとも茶番か?」
日本(真顔)「真面目です。
あなたの誇り高さも皮肉屋なところも含めて、好きです」
イギリスの肩がピクリと動いた。
次にアメリカを振り返る。
イギリス「……で、お前。お前はなんでここにいる。アメリカ」
アメリカ(堂々と)「言っただろ、“好きだ”って。
オレはイギリスのためなら、他のことよりこっちが大事だって思った。それだけだよ」
真正面から向けられる真っ直ぐな目。幼かった頃の面影はもうそこにはない。
イギリスはそれを直視できなくて、少しだけ目を逸らした――
そして、頬が、ふいに熱くなる。
イギリス「……っ、バカ」
顔が赤くなったことに気づかれたくなくて、後ろを向こうとするが、
背中に2つの視線をびしびしと感じる。
日本(静かに)「顔が、赤いですね」
アメリカ(にやっと)「イギリス、照れてるのか? 可愛いな」
イギリス「黙れ!!!!」
イギリスは頭を抱えた。
混乱する気持ち、あふれる感情、そして――何よりもこの2人の真剣さが、心に響いてしまっている。
イギリスが真っ赤な顔で頭を抱えていたその瞬間――
カツ、カツ、と優雅な足音が近づいてくる。
次の瞬間、聞き慣れた甘ったるい声が響いた。
フランス「――あらあらあらぁ? これはこれは、イギリスをめぐる恋の乱闘戦かしら?」
全員、振り向く。
アーサーの表情が、真っ赤から一転して死んだ魚のような目になる。
イギリス「……お前まで来るんじゃねぇよ……」
フランスは、バラを咥えてキメ顔で現れた。
背後に光まで差している気がする。気のせいじゃない。
フランス「まったく……日本、アメリカ、いい度胸ね?
でも残念だったわ。イギリスちゃんはわたしの運命の人なのよ。
昔からそうだったじゃない?」
イギリス
「誰がだ!!!!!!!!」
アメリカ(むっとして)「は!? フランス、お前まで!?
いつからイギリスのことそんな風に――」
フランス(優雅にウインク)「最初からよ?
昔はちょっと喧嘩ばかりだったけど、それも恋のスパイス♪」
日本(眉をひそめ)「……あなたまで加わると混乱が増します。
戦線拡大は控えていただきたい」
フランス(悪びれず)「恋は戦争でしょ?
というわけで、わたしも参戦するわ♡」
イギリスは――もう限界だった。
イギリス「待て待て待て!!!!
なぁ、なんでおれがこんな**“おれを巡る謎の争奪戦”**に巻き込まれてるんだ!?
おれは誰にも頼んでない!お願いもしてない!!てかフランス帰れ!!」
フランス「照れないで? さあイギリス、わたしの腕の中へ――」
イギリス(怒髪天)「⚡⚡⚡⚡⚡⚡⚡⚡⚡⚡(無言の殺意)」
【静寂。揺れるイギリスの心】
イギリスは一度、ふぅ……と深く息を吐いた。
イギリス(心の声)
「なんだよこれ……アメリカ、日本、
……フランス、全員が、俺を見てる。
“好き”って、簡単に言うくせに……どうして俺なんかに……
俺は――」
イギリス(小さく呟く)「俺は、どうしたいんだよ……」
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【イギリス、観察と混乱のはざまで】
イギリス
「……くそ、なんでこんなことに」
怒鳴っても誤魔化しても、視線の熱は消えてくれない。
イギリスは、ふと冷静に、目の前の3人を順に見た。
フランスは
バラを口に咥えたまま、まるで舞踏会の主役かのようにキメ顔で微笑んでいる。
イギリス(冷めた目で)
「まずフランス……こいつはただの冷やかしだ。
いつものことだ。たぶん5分後にはドイツにも同じことを言っている」
フランス「イギリス、私たちのラブストーリーは今始まるのよ」
イギリス「置いておこう」
ふと日本に視線を向ける。
その瞳はまっすぐで、静かで――揺れていない。
イギリス(心の声)
「日本……
こいつは冗談であんなこと言うような奴じゃないよな。」
まっすぐに自分を見つめてくる視線が、心に刺さる。
そして、アメリカに目を向ける。
大人びた顔、堂々とした姿勢、
でもその手――握りしめた拳が、ほんの少しだけ震えていた。
イギリス(はっとして)
「……あいつ、緊張してるんだ」
イギリス(心の声)
「アメリカ。
昔は感情むき出しで、突っ走るばかりの子供だった。
でも今、あいつは“言葉で、想いを伝えること”を選んでる。
震えるくらいに、本気で――」
イギリスの胸が、じわっと熱くなる。
イギリス
「……これは、マジだな。
日本の真剣な目。アメリカの、震えてる手……
くそ、冗談で済ませたいのに……」
イギリスは、ただ立ち尽くす。
言葉が出ない。
心が答えを出せない。
イギリス(心の声)
「“好き”って……弟として? 国として?
それとも、“一人の男”として……?」
どれが正しいのかわからない。
でも一つだけ確かだったのは――
“誰かの真剣な好意”を、こんなにぶつけられたのは初めてだということ。
沈黙。
誰も動かない。
でも、それぞれの“想い”は、確実にイギリスへと向けられていた。
そしてイギリスは、そっと呟いた。
イギリス(かすれた声で)
「……俺に、そんな価値があるのか?」
【ふと蘇る、ちっぽけな思い出】
イギリスの中に、ふと記憶の波が差し込んだ。
目の前のアメリカ――いや、**あの頃の“ちびアメリカ”**の姿。
小さな庭の片隅で、イギリスがティーカップを持ちながら座っていた。
そこに、土まみれの手に花を握りしめたアメリカが駆けてくる。
アメリカ(子供)「イギリスー!これ!花!君にすごく似合ってると思った!」
イギリス「はは、お前……こおいうのは好きな人にやるもんだぞ。」
アメリカ「イギリスは好きだぞ」
イギリスは、一瞬だけ目を丸くして――
でもすぐに笑って、くしゃりとアメリカの頭を撫でた。
イギリス(微笑む)「……そうか、ありがとよ」
ただの子供の、無邪気な言葉。
でも、それは確かにイギリスの胸に残っていた。
【現在:揺れる今のイギリス】
イギリス(心の声)
「……なんで今、こんな思い出が……。
こんな、ちっぽけな記憶……」
でもその「ちっぽけ」が、
今の自分の“迷い”を静かに揺らしていく。
日本「イギリスさん」
ハッと、イギリスは現実に引き戻される。
目を上げると、日本が真剣な目でこちらを見ていた。
あの記憶の中の花とは違うけれど――
日本の瞳もまた、まっすぐに“好意”を届けてくるものだった。
イギリス「……日本……」
周囲が静まり返る中、
イギリスはゆっくりと口を開いた。
その声は、少しかすれていた。
イギリス「……ごめん。
“好き”って気持ちは――すごく、すごく嬉しい。
……ほんとうに」
日本もアメリカも、黙って彼を見ている。
イギリスは苦しそうに眉を寄せながら、続けた。
イギリス「でも……」
イギリス(ぎゅっと胸元を押さえる)
「俺……“答え”が、まだ出せないんだ。
日本、お前の真っ直ぐさは胸に刺さった。
アメリカ……お前の震える手も、
昔の言葉も、全部、今も残ってる」
イギリス(少しだけ笑って)
「……こんなに真剣に“好きだ”って言われたの、たぶん初めてだよ」
沈黙。
イギリス
「でも、俺自身が……
“誰かを好き”って感情を、まだはっきり分かってない。
“昔から一緒だった”“守ってきた”“育ててきた”――
その全部が、愛情と混ざって、ぐちゃぐちゃで……」
イギリス
「だから、ちゃんと考えたいんだ。
自分の気持ちも、向き合ってくれたお前たちのことも――
全部、誠実に返したいから。」
イギリス
「……すぐには、答えられない。
だけど、逃げたりしない。
だから――少しだけ、待ってくれ」
その言葉を受けて、
日本もアメリカも――何も言わなかった。
でも、確かにうなずいた。
フランス(ぽつりと)「……なるほど、そう来たか。
さすがイギリス、悪くない答えだ」
そしてその場に、優しい風が吹いたような静けさが広がる。
【後日、会議後】
日本「……イギリスさん」
イギリスは、すぐに返事をしなかった。
けれど、ほんの少しだけ、うなずいた。
日本はそれで十分だというように、話し始めた。
日本「……会議中も、ずっと見ていました。
あなたを」
イギリスは、目を伏せた。
日本(続ける)「好きだからこそ、わかります。
あなたがどこに、誰に、想いを向けていたのか」
イギリスは、ほんの一瞬、戸惑った顔を見せた。
イギリス「……俺が?」
日本「ええ、あなたは、まだ“それ”が何か分からないのかもしれない。
けれど――その目は、もう“答え”を出していましたよ私ではない……アメリカさんに」
イギリスは目を見開いた。
否定したかった。
でも、日本の言葉は、嘘のない鏡のように胸に突き刺さった。
イギリス(心の声)
「目……か。俺の、目が……
アメリカに向ける、その目……」
思い出す。
会議中、まっすぐ手を挙げて発言する姿。
みんなを仕切り、迷わず言葉を放つアメリカ。
そして、自分が無意識に、
どれだけの時間その背中を見つめていたか。
イギリス(小さく息を呑んで)
「……ああ」
日本(そっと目を伏せて)「わたしの“好き”は、きっと、届かないものです。
でも……気づいてもらえただけで、少し満たされました」
イギリス「……日本……」
日本「どうか、自分の気持ちに嘘をつかないでください。
あなたには――その価値があります」
そう言って、日本は静かにその場を離れた。
その背を見送りながら、イギリスは、胸に手を当てた。
イギリス(心の声)
「俺の目は……もう、答えを出してる……
アメリカ……」
その瞬間、
遠くから聞こえてくる、元気なアメリカの笑い声が耳に届いた。
胸の奥で、何かが確かに――熱く、灯った。
【イギリスの呼びかけ】
広場の一角。数人の国たちが冗談を言い合い、ざわめく中――
イギリスはその中のひとり、アメリカの背中を見つけた。
喉の奥が痛いほど乾いていた。
けれど――叫んだ。
イギリス「アメリカ!!」
数人が振り返る。
アメリカも驚いたように視線を向ける。
アメリカ「イギリス!? どうしたんだよ!」
イギリスは肩で息をしていた。
額にはうっすら汗、顔は赤く、呼吸は荒い。
イギリス(震える声)「……来てくれ……っ」
その一言に、アメリカの表情が変わった。
冗談も茶化しもない――真剣な、あの目に。
アメリカ「えっ、あぁ……わかった」
一瞬で、彼は話していた他の国たちに「ちょっと抜ける!」と手を振り、
イギリスについていった。
人気のない中庭へと、小走りで移動するふたり。
何も言わないまま、それでも互いに近い距離で歩く。
イギリスの呼吸はまだ整っていない。
アメリカ「おい、大丈夫か……?」
イギリス(小さく)「……だまれ。しゃべらせてくれ……。俺の番だ……」
アメリカが静かに口を閉じる。
イギリスは壁にもたれて、深く一度、息を吐いた。
風のない午後。
人気のない中庭。
イギリスの瞳は、どこか潤んでいた。
イギリス「俺は……ずっと分かってなかった。
お前の“好き”も……自分の“気持ち”も……
怖かったんだよ」
拳を強く握りしめる。
イギリス「昔のお前が残ってて……
弟分のままでいてほしかったのか……
守っていた自分に、意味があったって思いたかったのか……
……わからなかった」
その声は、だんだん震え始めていた。
イギリス「でも……」
イギリスは一歩、アメリカに近づいた。
顔が、俯いたまま、影に隠れていた。
イギリス(かすれた声)「でも……お前が“好きだ”って言ってくれて……
それから……ずっと、苦しかったんだ……」
ポタッ
音もなく、一滴、涙が頬を伝った。
イギリスはそのまま、
歯を食いしばるようにして言葉をしぼり出す。
イギリス「バカだろ、俺……
今さらになって……泣いてまで言うなんてさ……でも……」
イギリス(涙を流しながら、やっと顔を上げて)
「好きだ、アメリカ……お前が、好きだ……!」
アメリカは、ほんの一瞬、言葉を失っていた。
泣いて告白するイギリスなんて、想像もしなかった。
でも、だからこそ、
その想いの深さと、痛みの重さが、全部伝わった。
アメリカ(小さな声で)「……ありがとう、イギリス」
ゆっくり、優しく、イギリスを抱きしめる。
イギリスの肩が少し震えた。
アメリカ「今の、ぜんぶちゃんと受け取った。
泣いてても、顔が赤くても、全然かっこ悪くないよ。
……最高にかっこいい」
イギリスは、黙ってその腕の中で目を閉じた。
涙は止まらなかったけど――心は、少しずつ、軽くなっていった。
泣いて、好きだと伝えた。
それは、イギリスにとって人生で一番――
“自分の弱さを許した”瞬間だった。
【夜、イギリスの部屋】
静かな夜。
月明かりがカーテンの隙間からベッドに差し込んでいる。
ベッドに横たわるイギリスの背は、暗がりに包まれていた。
アメリカ(そっとドアをノック)「……イギリス? 入ってもいいか?」
なぜか返事はない。
それでも、アメリカは待った。少しの間、返事を求めて。
アメリカ(少し不安げに)「……返事してくれ……入るぞ?」
静かにドアを開けたその瞬間――
ダッ――
イギリスが走り
アメリカに抱きついて、迷いなくキスをした。
頬にでも、おでこでもなく、
ちゃんと唇に。
アメリカは驚きで言葉を失う。
けれど、イギリスは一歩も引かず、
月の光の中でまっすぐに見つめて言った。
イギリス「……あの時のお返しだ」
⭐️END