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124
蒼月
766
グリルタ
72
消音器(サイレンサー)越しに放たれた一発のゴム弾が、男の額を的確に撃ち抜いた。「がっ……!?」
炎を宿しかけていた男の手元から火花が途絶え、巨体がグラリと揺れる。
脳揺れを起こして膝をついた男の前に、俺は樹上から着地した。音もなく、重力すら感じさせない着地。
「……はぁ」
欠眠のせいで頭が重い。俺は盛大に気怠げな溜息をひとつ吐くと、ポケットに両手を突っ込んだまま、ゆったりとした足取りで倒れかけた男へと歩み寄った。
「な……なになに、が……」
男は必死に焦点を合わせようと、血走った目で俺を仰ぎ見てくる。
重厚な甲冑を纏い、威圧感だけは一人前のエリート魔族。だが、俺から見ればただの「無防備な標的」でしかない。大技の準備に気を取られ、真上への警戒を完全に怠っていた。
「言っただろ。お前の方が甘いって」
俺は男の正面に立ち止めると、気怠げな動作で外套の裾を押しやり、ゆっくりと腰を落とした。
相手の胸元に輝く『刻印』のプレートを見つめながら、怠そうに手を伸ばす。
「ひ……ひぃっ! く、来るな……ッ! この……不潔なハーフがぁっ!」
男は恐怖で顔を歪め、力の入らない腕を振り上げて強引に魔力を練ろうとした。
掌に小さな火炎が灯る。――遅い。遅すぎる。
「――『局所加速』」
俺は胸の奥の微小な魔力を一瞬だけ解放した。
伸ばした俺の右手の時間だけが、コンマ数秒、世界の速度を置き去りにする。
男が炎を放つよりも遥かに速く、俺の指先が相手の喉元を鋭く突いた。
気道を軽く圧迫された男は「ぐふっ!」と短い悲鳴を上げて呼吸を詰まらせ、手元の炎はあっけなく立ち消えた。
そのままの手つきで、胸元の『刻印』をフックから滑らかに外し、自分のポケットへと放り込む。
「……終わりだ。お前、もう喋るなよ。顎を鳴らすのも鬱陶しい」
「く……そ……っ」
刻印を奪われ、完全に戦意を挫かれた男が地面に突伏す。
俺は立ち上がり、ポケットの中で冷たい刻印の金属感を確認した。これで規定のノルマは十分にクリアだ。
「よし……これで『本戦』の切符は確保したな」
手首の時計に目をやる。
サバイバル戦の制限時間までは、まだたっぷりと時間が残っていた。
周囲の森からは、相変わらず脳筋どもがぶつかり合う派手な魔法の爆音と、地雷を踏んだ悲鳴が遠く聞こえてくる。
俺は拳銃をホルスターへ戻すと、再び重い足取りで近くの大樹へと歩き出した。
「あとは……予選終了の合図が鳴るまで、誰にも邪魔されずに二度寝するだけだ」
枝の上に飛び乗り、外套を深く被り直す。
幼少期の苦い夢の余韻も、冷たい空気の中に溶けて消えていく。
俺は今度こそ邪魔されないことを祈りながら、静かにまぶたを閉じた。
コメント
1件
うわぁ…第8話、めっちゃカッコよかったです…!🥀 主人公の「欠眠でだるい」感じと、戦闘中の正確無比な動きのギャップがたまらなく好きです。「局所加速」で時間を置き去りにする描写、すごくクールで鳥肌立ちました。 最後の「二度寝するだけ」って台詞も、このキャラの掴みどころのなさが出ててグッときます。次が気になる…!