テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
n a ♡︎︎ *
124
蒼月
766
グリルタ
72
一度閉じたまぶたの裏で、再びあの冷たく湿った暗闇が広がっていく。また、夢だ。
完徹の疲労のせいか、今度は幼少期の鍛錬よりも、さらに根深く俺の胸を抉る記憶の引き金が弾かれていた。
◆
『見ろ、ルシアンのあの溢れんばかりの魔力を! まさに我がヴァルネ家の最高傑作、将来の魔王にふさわしい器だ!』
豪華な謁見の間。父親や屋敷の者たちが、幼い双子の兄――ルシアンを取り囲み、惜しみない賛辞を贈っていた。
指先一つで眩い高熱の炎を操り、周囲の空間すら歪めてみせるルシアン。その姿は、子供でありながら既に圧倒的な「覇者」の風格を纏っていた。
そして、その光輪の陰で、俺は冷ややかな視線に晒されていた。
『それに引き換え、クロードはなんだ……。ハーフの出がらしめ。魔力測定器すら反応しないスカスカの出来損ないが』
『同じ日に生まれたというのに、月とすっぽん……いや、神とゴミ屑だな』
冷笑、失望、そして徹底した無視。
幼い俺がどれだけ必死に本を読み、体術を鍛え、泥に塗れて足掻こうとも、評価の基準は常に「魔力(破壊力)の大きさ」ただ一つ。どれほど努力しようと、ルシアンという太陽の影で、俺の存在は最初から「比較されるための落ちこぼれ」としてしか扱われなかった。
『……クロード』
取り巻きの輪から抜け出してきたルシアンが、俺を見下ろしていた。
その瞳に宿っていたのは、憎しみでも蔑みでもない。ただの「無関心」と、絶対的な強者が払う「哀れみ」だった。
『お前はかわいそうだな。魔力もないハーフとして生まれて。……だが安心しろ。お前のようなゴミでも、俺が魔王になったら生かしてやるよ』
助けを求めたわけでもない。惨めさを訴えたわけでもない。
ただ「同じ血を引く存在」として、完全に階層の違う生き物のように扱われたあの瞬間。
胸の奥で、静かで冷酷な何かが、決定的に冷え固まったのを覚えている。
(……見下してろ、ルシアン。お前たちが崇めるその「大雑把な魔力」の隙を突き、鉛の弾丸でその頭をぶち抜いてやる日まで――)
◆
「――これより、一次予選『サバイバル戦』を終了する!!」
大樹を揺らす、教官の拡声魔法の怒号で目が覚めた。
「……ッ」
ガバッと跳ね起き、即座に懐の拳銃のグリップを握りしめる。
呼吸を整えながら冷や汗を拭うと、夢の中で背中に突き刺さっていたルシアンの「哀れみ」の視線が、まだ不快な熱を持って皮膚にへばりついている気がした。
「……チッ。胸糞悪い夢ばかり見せるなよ、この樹海は」
吐き捨てるように呟き、外套の埃を払って樹上から飛び降りる。
集合場所である樹海出口の広場へ向かうと、そこには満身創痍の候補生たちが倒れ込んでいた。
服はボロボロ、顔は泥と爆薬の煤で汚れ、足元をすくわれたトラップの恐怖に震えているエリートたち。俺が昨夜仕掛けた「庭」を、彼らは命からがら通り抜けてきたらしい。
「集まれ、脳筋ども!」
壇上に立った担任教官が、殺気立った目で生存者たちを見回す。
「無様に泥を舐め回しながらも、規定の『刻印』を集め切り、本戦トーナメントへの切符を掴み取った『学園代表8名』を発表する!」
教官が魔法の羊皮紙を広げ、次々と名前を読み上げていく。
「――氷結のセリス・フォン・ヴァルハイト!」
「――雷鳴のエレナ・ボルト!」
「――爆発のシャーロット・フラム!」
「――風のシエル・グレイス!」
名前を呼ばれたサブヒロインたちが安堵の息を吐き、セリスは腕を組んだまま不機嫌そうに俺の方を睨みつけてきた。その視線には「生き残っていたのね」という安堵と、激しい対抗心が混ざり合っている。
そして、教官は最後に、心底不快そうな声でその名前を口にした。
「……そして最後の一名。ハーフの出来損ない――クロード・ヴァルネ!」
ざわっ、と集まった生存者と観客たちの間に動揺が走る。
「な……あいつ、本当に残りやがったのか!?」
「一度もまともな戦闘シーンを見かけなかったぞ! 一体どんな手を使ったんだ!?」
周囲の雑音や冷ややかな視線など、俺にはどうでもよかった。
ポケットの中で、奪い取った何枚もの『刻印』の冷たい感触を確かめながら、俺はフッと短く息を吐く。
「これで……本戦(コロシアム)のリングへ進出だな」
大勢の観客と、魔界中の視線が集まる本戦トーナメント。
俺の暗殺戦術と現代兵器が、どれだけ魔界の常識を叩き潰すか。そして、あの高みの見物を決め込んでいる双子の兄・ルシアンの首元に、いつ銃口を突きつけるか。
俺は深くフードを被り直し、静かに本戦の舞台へと歩みを進めた。
コメント
1件
読み終えました……第9話、胸がぎゅっと締めつけられました。 クロードの幼少期の記憶、ルシアンに「哀れみ」で見下されるあの瞬間の冷たさが、今の彼の静かな怒りと復讐心に直結してるんですね。魔力ゼロでも「刻印」を奪い取って本戦に進む手腕、かっこよかったです。氷結のセリスに睨まれる関係性も気になる……! 次、コロシアムでどんな仕掛けを見せてくれるのか、本当に楽しみです。続き、待ってます🌙