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水と桃は、アパートでの生活が三年目に突入した頃、ゆっくりと「外の世界」を閉ざし始めた。
最初は小さな変化だった。
桃が「今日は仕事休もう」と言って、水を抱きしめたまま布団から出なかった日が増えた。
水は最初、抵抗した。
でも、桃の温かさに負けて、一緒に寝続けた。
「外、怖いよな。俺たちだけでいいよな」
桃が囁く。水は頷くしかなかった。
外の世界は、確かに怖かった。
人の目、期待、失敗の可能性。
それよりも、狭い部屋で桃と二人きりの方がずっと安心できた。
仕事を辞めたのは桃が先だった。
「もう行きたくない」と泣きながら言って水の腕にすがった。
水は桃を慰めながら自分も辞めた。
ドアに鍵をかける回数が増えた。
カーテンは常に閉めたまま。
窓を開けることも、ほとんどなくなった。
部屋の中は、二人の世界だけ。
朝起きて、抱き合って、キスして、食べ物を分け合って、テレビやスマホをぼんやり見て、また抱き合い 眠る。
「俺、お前がいないと生きていけない」
桃が言うたび、水は胸が締め付けられるような幸福を感じた。
「僕も。桃ちゃん以外、いらない」
外に出る必要がなくなった。
買い物はネットスーパー。
宅配員が来ても、玄関に置いといてもらう。
インターホン越しに話すことすら、避けるようになった。
ある日、桃が鍵にチェーンをかけた。
「これで、誰も入れない」
水は少し不安になったけど、桃の笑顔を見て、頷いた。
「うん。僕たちだけでいい」
電話も切った。友達 のメッセージも全部無視。
スマホの電源を落としたまま、何日も経つ。
部屋の中は、薄暗くて、静かで、温かかった。
外の音が聞こえない。時間が止まったみたいに。
桃が水の手首に、リボンを巻いた。
「これ、俺からのプレゼント。外に出ない約束
のしるし」
可愛いピンクのリボン。
水は笑って、受け入れた。
足首にも。首にも。柔らかい布で、優しく縛る。
「逃げないでね」
「逃げないよ。どこにも行かない」
水は本気でそう思っていた。
桃のそばから離れるなんて、考えられなかった。
桃は水を、部屋の中心に置いた。
ベッドに座らせて、抱きしめて、離さない。
「俺がお前を守るから。ずっとここにいて」
水は静かに頷く。
外の世界は、もう遠い記憶。怖い夢みたいに。
食事が減っても、眠れなくても、構わなかった。桃がいる。それだけで十分だった。
ある夜、桃が耳元で囁いた。
「もしお前が俺から離れようとしたら俺、どうなるかわからないよ」
水は震えた。でも、優しく桃の背中に手を回した。
「離れない。絶対に」
鍵は二重、三重になった。
チェーンは外れなくなった。
部屋の中は、完全に閉ざされた。
二人の息遣いだけが、響く。
外の世界は、もう存在しない。
ここは、水と桃だけの王国。
誰も入れない。 誰も出られない。
水は時々、窓の隙間から外の光を見る。
でも、すぐに桃に抱きしめられて、目を閉じる。
「俺たち、ずっとこうしていよう」
「うん。ずっと」
監禁されているのは、どっちなのか。
水が桃を開じ込めているのか。
桃が水を閉じ込めているのか。
もう、わからない。
ただ、二人は離れられない。
この狭い部屋で、永遠に。
外の時間は流れ続けている。
でも2人はここで止まったまま。
水と桃の物語は、もう外には続いていない。
ただ、暗い部屋の中で、静かに、密やかに、続いている。
誰も気づかない。
誰も助けに来ない。
それでいい。
二人は、そう思っている。
ずっと、ずっと。