テラーノベル
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68
白い粒子が、静かに降り続いていた。
崩壊しかけていた施設は、
嘘みたいに穏やかだった。
生命演算樹は停止している。
もう脈動もしない。
ヴェルトラウムは終わった。
本当に。
全部。
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「立てるか?」
モトキが聞く。
リョーカは、
モトキに支えられながらゆっくり起き上がった。
「……ん」
少しふらつく。
ヒロトがすぐ反対側を支えた。
「おっと」
「ありがとぉ」
リョーカは自分の手を見る。
開いたり閉じたり。
不思議そうに。
「……変な感じ」
「どんな?」
「軽い」
モトキとヒロトが顔を見合わせる。
リョーカは胸に手を当てた。
「前まで、ずっと中で誰かの声がしてたんだけど」
「今、すごく静か」
寂しそうではなかった。
むしろ
安心しているみたいだった。
「……そっか」
モトキが小さく呟く。
リョーカが、
ふと首を傾げた。
「ねぇ」
「ん?」
「ボク、ちゃんと人間になれたのかな」
ヒロトがニヤッと笑う。
「知らねぇ」
「えぇ!?」
「でも」
ヒロトがリョーカの頭をぐしゃぐしゃ撫でる。
「少なくとも、お前はお前だよ」
リョーカが目を丸くする。
その横で、
モトキも小さく笑った。
「それで十分だろ」
リョーカの目が、
少し潤む。
「……うん」
その返事は、
前よりずっと柔らかかった。
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施設脱出までの道は長かった。
崩れた通路。
止まった機械群。
白い静寂。
けれど、
三人で歩くその時間は、
どこか穏やかだった。
途中
ヒロトが突然振り返る。
「そういやリョーカ」
「ん?」
「お前、今再生できんの?」
「あ」
リョーカが固まる。
数秒後
「……どうなんだろ」
「試すなよ絶対」
「試さないよぉ!?」
モトキが溜息を吐く。
「お前らな……」
でも
そんな会話すら、
愛おしかった。
失うと思っていた。
二度と戻らないと思っていた。
それが今、
隣にいる。
それだけで十分だった。
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やがて
三人は地上へ出る。
扉が開く。
眩しい光。
思わず目を細める。
外は、
朝だった。
青空
雲
風
崩壊後の世界では珍しいくらい、
綺麗な朝。
リョーカが空を見上げる。
「……わぁ」
その声は、
本当に嬉しそうだった。
風が、
長い三つ編みを揺らす。
ヒロトが伸びをする。
「生きて帰ってくると、朝日って感動するよなぁ」
「毎回死にかけてるからな」
「否定できねぇ」
モトキが少し笑う。
その時
リョーカが、
そっと二人の服を掴んだ。
「……ねぇ」
「なんだ」
少し恥ずかしそうに、
視線を逸らす。
「これからも、いていい?」
その瞬間、
モトキが即答した。
「当たり前だろ」
ヒロトも頷く。
「今さら追い出せるか」
リョーカの目から、
ぽろっと涙が落ちる。
でも
今度の涙は、
苦しそうじゃなかった。
嬉し涙だった。
「……そっかぁ」
笑う。
朝日に照らされながら。
その姿はもう、
兵器でも、
失敗作でもなかった。
ただ
青リンゴ商会の、
リョーカだった。
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そして
その少し後。
地下旧都市の監視カメラに、
最後の記録が残る。
停止した生命演算樹。
静かな白い空間。
その中央で。
誰もいないはずの場所に、
一瞬だけ光が揺れた。
まるで
誰かが、
優しく笑ったみたいに。
コメント
1件
うわ……読み終えて、しばらく動けませんでした。第36話、本当に良かったです。 特にリョーカが「軽い」「声がしない」って言ったところ、胸がギュッとなりました。ずっとあの重さを抱えてたんだなって。それで「人間になれたのかな」って聞くリョーカに、ヒロトが「お前はお前だよ」って返すのが、もう……言葉以上に深い肯定だと思いました。 そして最後の監視カメラの光。あれ……誰かが笑ったように揺れたんでしょう? この物語、静かに、でも確かに救いを受け取ったんだなって感じられました。素敵なエピソードをありがとうございます。