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そして、朝が来た。


これからは兄弟達と迎える朝や夜は当分無くなる。

そう思いながら俺は体を起こした。

普段俺は朝に弱いのだが、今日は全く眠くもなかった。


俺が体を起こすと、先に起きていたのであろう隣に居た日本が寝転がったままその小さな手で俺の袖を握った。


無言で俺を見上げるが、次第にその目に涙が溜まっていった。

何を言いたいのか定まらないのか、言うと辛いから何も言わないのか……


見ていて俺も悲しくなった。


恐らく幼い日本と寝れるのはこれで最後だろうし、これからする出発の準備は急げばいい。


俺はまた体を布団に寝かせて日本を抱き締めた。

胸の中で苦しそうに息を殺して嗚咽する日本をなだめながらしばらく俺は日本を抱き締め続けた。


日本の逆隣に居た海も起きていて、悲しそうな顔をしてこちらを見つめていた。


そして十五分位経った頃だろうか、俺の逆隣のにゃぽんの隣に居た空が


空「……そろそろ下りようか」


と言って皆を居間に移動するように促した。




朝食を済ませ、身なりを上等な着物で整えた。


やがて迎えの船が来た。

港にあった俺の荷物と、一緒に行けることになった愛馬の花菜(かな)と伝書用の鳶(とんび)の白梅(しらうめ)も船に乗せられていった。


港には日本家の全員と、近くの日本家の管轄外の 島の領主である友人達にこの島の大勢の人達が見送りに来てくれた。


父上も俺に向こうに行くまで付き添ってくれるので隣に居てくれている。


見送ってくれる人々に沢山お礼を言って、空兄さんと海と抱き合って、最後にずっと泣き続けているにゃぽんと日本もぎゅっと抱き締めて二人に大きくなったら会いに来る約束をした。


そして俺と父上は大きな船に乗っていった。




手を振る皆とふるさとの島が小さくなるに連れて、不安な気持ちが膨らんでいったと同時に今までに感じたことがない程の寂しさに包まれた。


やがて昼になり、屋内で俺は父上の肩を借りて少し休んでいた。


日帝「……すみません、なんだか疲れてきてしまって……」


江戸「いいだよ、こんな時位は沢山甘えなさい……

もう簡単には会えなくなるんだから……」


日帝「……………………………………」


嗚呼……本当に会えなくなるんだ………


そう強く感じると、急に涙が溢れてきた。


日帝「…………………ごっごめんなさい……急に悲しくなってきてしまって………」ぽろぽろ………


もごもごと言う俺を父さんはいつものように撫でてくれた。


貴族に産まれた以上、もしかしたら自分もこの故郷を離れてどこかに嫁ぐかもしれない というのは昔から覚悟していた。


だが、いざその最中にいると押し寄せる悲しさと不安と寂しさに耐えれ切ることはできなかった。


自分の本性を見せられる相手が傍にいれば尚更だった。


辛い、悲しい、寂しい、まだ皆と居たかった。


それらの気持ちがここに来て溢れた。

昨夜空兄さんと海に慰めてもらったのに、まだ俺は足りていないらしい……


情けなさを少し感じながらも、しばらく俺は父さんに慰めてもらった。


できればこの時間が、ずっと続いて欲しい。

そう思わずにはいられなかった。













そして、空が暗くなり始めた夕刻に船は大陸に着いた。

この港には小さい頃に何度か来たことがったが、今までに見たことが無い程に人が集まっていた。


沢山の、特に知らない人達に注目されるのは苦手なのに……


すると目の前にあったイギリス家の家紋が入った馬車の後ろに居た大きな帽子を被ったフットマンの人が「こちらへ」と馬車にエスコートしてくれた。









馬車は街の大通りをさっさと抜けると、イギリス家の城につづく道へと入っていった。


森に入ると段々坂道になっていった。

山に入る時にはイギリス家の立派な門があった。

つまりこの大きな山はまるごとイギリス家の私有地、 庭であるのだろう。

こんなに凄い一家に嫁ぐのだと改めて思うと緊張が増していった。


江戸「……大丈夫かい?」


日帝「………はい」


息を整えているうちに城が見えてきた。

今まで街から見ていたその城はいつも小さかったが、目の前のそのいつも見ていた城は高くて想像よりも大きなものだった。

今日からここに住む。

そう思うだけで本の少し足がすくんでしまう。

うまく生きていけるだろうか……

そう思っていたらもう馬車は城の入り口の正面に停まった。

そこには玄関までの道の両脇に綺麗に整列したメイドさん達や執事さんの方達等……沢山の召し使いの方々と、その真ん中の奥にシルクハットを被った人とその脇に四人の人達のシルエットが見えた。

先ほどのフットマンさんが馬車の扉を開けて手を差し出してくれた。

俺はゆっくり呼吸をしながら帽子を被り直し、震える手でフットマンさんの手を握ってゆっくり馬車から降りた。


日帝「………」


そのすぐ後に父上も降りると、並んでいた召し使いの方々が全員同時にぺこりとお辞儀をして


『イギリス家に、ようこそいらっしゃいました』


と言ってくれた。


その場で俺は軽くだが頭を下げた。

そして奥にいたシルクハットを被った人物がまっすぐこちらへ歩いて来た。


その人物は紛れもなく、当主のイギリスさんだった。


イギリス「よく来てくださいましたね。日帝さん

そしてお久しぶりです、江戸さん」


日帝「お初に御目にかかります、日帝です。

これからよろしくお願いいたします」ぺこり


イギリス「えぇ、こちらこそよろしくお願いいたします 」



……………



どうしてだ?嫁ぎ先の家に来たのに、旦那になる人は見当たらない……


イギリスさんの後ろに居る四人のうち三人はアメリカと同じ男性だが、アメリカにしては面影が無さすぎるしそういうわけでは無さそうだ。アメリカ本人とは思えない。


だとしたら彼はどこに居るのだろうか……



この国で一番有力な貴族だ、真っ先に会うのが当主なのでもおかしくないのかもしれないし、それに彼は次期当主だから今はそれどころではないのかもしれない……


そう推測することにした。



……まぁ仮にも夫なのだから、嫁が来た時位真っ先に出迎えては欲しかったかな……



なんて考えながら俺は視線だけ辺りをきょろきょろとしてしまった。


イギリス「……あぁ、安心してください。

アメリカにはすぐに会えますよ」


日帝「(ギクッ)そ、そうですか………」


イギリス「えぇ、ではとりあえず江戸さんは私に、日帝さんはこちらの家来に着いていってください 」


日帝「はい」


江戸「……………………………………………」


イギリス「安心してください江戸さん、日帝さんはアメリカのもとへ案内するだけです」


江戸「……まずは二人きりで対面させるということですか?」


イギリス「えぇ、本人の希望でです。日帝さんもそれでよろしいですか? 」


日帝「ぁ、はいっ、大丈夫です!」


イギリス「……そんなに緊張しないで下さい、アメリカは昔から変わってませんから」


日帝「…そうですか……」


イギリス「ではそこの家来、頼みますよ」


家来「はっ」


その家来さんは先ほどまでエスコートしてくれた、フットマンさんだった。


家来「では、私に着いて来て下さい」


日帝「……はい」


父上は城の中へ、そして俺は意外なことにこのまま庭の方へ案内された。






案内されたのは人の気配が全く無い、静かで美しい花園の中心だった。


そこは石造りのガゼボを薔薇の木が多い尽くす様に生えて、真っ赤な薔薇が咲き誇っていた。

その中に案内され、入ってやっとこれは薔薇の木ではなく石でできたガゼボなのだと気づいた。


中では薔薇の良い香りが存分に楽しめた。




フットマンさんは立ち止まり、こちらに向き直って俺の目を見つめながら話だした。



フットマン「……日帝様、お願いしたいことがございます」


日帝「?、なんですか?」


フットマン「私はこれから貴方のおそばにつかせてもらう者なのです。そこで、貴方に私の顔をよく知っていてもらいたいのですが……正直私はとても緊張しているのです」


日帝「……はぁ………そう……ですか………」


フットマン「そこで、私もこの帽子を取りますのでどうか貴方様も同時にその帽子を取っていただけませんか?」


日帝「!!」


……帽子を取るのか………


つまりコレを見られる……



隠したい。


そう思っているが……


これから俺はここで生きていく。

だからきっとこの城に住む人達にも、遅かれ早かれコレらを見られる時は来るのだろう……


……だから………





日帝「……………、……わかりました」


フットマン「……ありがとうございます。

………では」


そう言ってフットマンさんは被っていた白い一本の羽が飾られた大きな帽子のつばを両手で掴んだ。

そして俺も被っていた帽子のつばを両手で掴んだ。


日帝「……、………」


フットマン「では、せーの 」


スッ…×2












日帝「…………………………………、」


俺は帽子を取ると同時に、無意識に視線を下にしてしまった。

フットマンさんがどんな表情をしているのか、見るのが怖かったのだ。















「………やっと会えた……」





日帝「えっ?」



顔をあげると、そこには見覚えのある金髪と青と赤の瞳の顔が見えた。



目の前に居る彼は、あの時の面影がしっかりあるがすっかり大人びた姿で、優しい顔をしている………アメリカだった。





アメリカ「……オレのこと、覚えているか? 」



日帝「…………」


あぁ、覚えている………というか忘れたことはない。


……と言いたいのだが、とんだサプライズとすっかり大人になった彼の姿に呆気に取られていた。


だが、今はとりあえず返事をしないと………



日帝「……えっと………久しぶり……だな、」


アメリカ「うん……日帝は……元気にしてた?」


日帝「あぁ……」


アメリカ「……約束、覚えてる?」


日帝「!……勿論覚えているぞ」


アメリカ「……よかった」にこっ


日帝「……アメリカ、もしかして俺を許嫁にしたのって!」


アメリカ「あぁその、それもあったんだけど…………………」


日帝「………」


アメリカ「まずは、お前の意見も聞かずにいきなり許嫁にしてすまなかった」


日帝「……、………理由は?」


アメリカ「……実は……ほら、うちの家柄的にオレは20歳になる3年位前から、毎日見合い話とかを持ちかけられまくってて………」


日帝「あぁ……」


アメリカ「でも……正直オレは一緒にやっていくのにはお前意外に考えられなかったんだ」


日帝「……」



……なんか恥ずかしい………


てかそれよりも❗


日帝「いやいや!俺とお前は出会ったのはあの時だけだろ⁉️それだけで……」



アメリカ「日帝、オレは……お前程一緒に居て楽しくて、優しくて、かっこよくて、頼もしくて、美しくて、心が惹かれるやつに会ったことは今までに1度もないんだ。

将来を共にするなら、お前以外は考えられなかった」


日帝「……、………?///」


アメリカ「実はオレ、許嫁云々言われるようになってから、もし将来を共にするならって考えたらお前のことを思い出して……それからちょっとお前のこと調べさせてもらったんだ。勿論プライバシーは守っている範囲でだぜ!? 」



日帝「…………!?///………………!?!?/////」


アメリカ「それで、お前も実は貴族だったとか色々知ったんだけどオレはそういうの関係なく、お前がどんなヒトなのか知っていくうちに気づいた時にはお前が好きだったんだ!」



真剣な眼差しで熱烈に語るアメリカは、俺の片手を持つと帽子を胸に当ててその場に跪いて俺を見上げた。




アメリカ「まだお前はオレのことを恋愛的に見てくれていないと思うけど、

無理矢理お前を許嫁にした以上、オレはお前を振り向かせるし、幸せにしてみせる。


……だから………



改めて、


オレと結婚してください!!!!」



日帝「…………………………」



こいつと結婚すると、国一番の貴族の跡取りの妻として、きっとこれからもっと色々頑張ることになるのだろう……





日帝「………随分とかっこよくなったんだな」


アメリカ「……………」


日帝「………アメリカ、 これは俺の人生にも大きく関わることなんだ」


アメリカ「わかっている」


日帝「結婚はする。今更断ることはもうできないしな。

でも、お前が言った通り俺はお前のことを恋愛的には見ていない。

大人になったお前がどんなやつかも、そもそもお前がどんなやつかもしっかりとは知らないしな 」


アメリカ「……………………………………………………」




日帝「だから、絶対に俺がお前を一番好きになるようにしてくれ」



アメリカ「!!!! それって!」


俺はアメリカが握っている俺の手を握り返し、跪いている彼を立たせた。



日帝「どうか、これから末長くよろしくお願いいたします」にこっ


アメリカ「………っ!///こちらこそ、喜んで!!(笑顔可愛いッ///)」


こういう時はどんな顔をすればいいのかよく知らなかったが、アメリカを悪い奴とは思っていなかった。

期待の意味を込めて笑顔でアメリカに答えた。


再会の約束を果たした俺達は、また新たに約束をしたのだった。







それが、この夫婦の始まりであった……


おまけ↓(雑絵です)

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貴族の世界線のカントリーヒューマンズ

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