テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
やがて午後三時を回ったころ、私の呼吸を止めるような来客がやって来た。
面長の顔に、うっすら白髪の混じった髪。目尻にはしわがあるけれど、メガネのせいかあまり目立たない。私に似た奥二重の瞳と上唇が大きい口。良く見慣れたその顔は、私にこの辞令を出した張本人だ。
「深山社長はおられるかな。株式会社TOHTAの遠田です」
「社長……」
それは、まさに疑惑の社長の登場だった。しかも、いつもは傍についている秘書も専務も一緒ではない本当のひとりで。
今まで二年も同じ会社に勤めながら、実際話をしたのはこれが初めてだ。
「あの、しょ、少々お待ちください」
私は慌てつつ、社長室に内線をかける。遠田社長来訪の旨を伝えると、『応接室に案内して差し上げて。受付は不在にしていいから、俺が行くまで相手をしていてくれないか』と言われた。
「そんなの無理です。深山さ……」
『今は俺が上司だ。命令は絶対。頼むぞ』
有無を言わさず電話を切られる。
私は仕方なく、社長をちらりと見た。彼の表情には変化がない。辞令を出したにも関わらず、気遣うような言葉も、ひと言もない。
私、ちゃんとTOHTAの社員だと認識されているのかしら。
それすらも怪しく感じるほど、社長の態度が自然すぎる。
「あの、……こちらです」
「ああ、ありがとう」
社長室の隣にある応接室に行くには、社内スペースを横切らなければならない。
今日突然来たばかりの私が、見知らぬ年配の男性を連れて歩いているのは当然目立つし、一般社員からは好奇のまなざしが注がれる。いたたまれない気分とはこのことだ。
応接室をノックしてから入るも、誰もいない。社長を上座に案内し、お茶を淹れるために一度退室した。
給湯室でお湯を沸かしながら、思い出すのは深山社長の言葉だ。
鷹槻れん

17,797
鷹槻れん

34,256
#年の差
水無月 京
84
#大人の恋
月詠 涼
1,024
コメント
1件
久しぶりに会社に顔を出したら、まさかの遠田社長がひとりで来訪――しかも辞令を出した本人ですからね。主人公の「私、ちゃんとTOHTAの社員だと認識されているのかしら」という心の声にすごく共感しました。深山社長の命令が絶対なのも気になるし、社長の自然すぎる態度が逆に不気味で。応接室に案内する間の好奇の視線も、いたたまれなさがひしひし伝わってきて、続きが気になります。