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何年かぶりに思い出したあのことを、誰かに話すのは初めてかもしれない。
「俺の父さんは、ごく普通の会社員だった。収入も安定していて、毎日家に帰ってきて、僕の話を親身に聞いてくれる優しい人だった」
「それは、いい親だこと」
「ううん、一般家庭だよ? 天野も、おなじような環境じゃないかな?」
「私、の、家族……」
そう言って天野は考え込んだ。
あれ、触れてはいけない話題だっただろうか……
「ごめん、なんか変なコト言ったよね」
「あ、いや、こっちこそ。私、親が何度も何度も変わってるから良く分からない」
「それは……」
ドロドロの人間関係、だろうか。
それとも、人外である天野特有の悩みだろうか。
そこまで深く踏み込むことはしないように。
「話戻すね」
気まずい空気を割り切る。
「それで、事故の日も、朝僕を見送ってから会社に向かった。その後すぐに、事故に遭って死んだ」
天野は神妙な顔をしている。
「……死因は、聞いてもいいのか?」
「うん。線路に、誰かに落されて、死んだ」
「犯人との面識は?」
「部下だったらしい」
「なるほどね。でもなんで君の父さんを殺したのだ?」
「父さんに、恨みがあったから」
恨まれたり、妬まれたり。そういう感情は、人間誰にでも起こり得る。
だけれど、それを理由に起こされた殺人だなんて。
その被害者が俺の父親だなんて。
そんなのあんまりじゃないか。
__嫌、今更こんなことを思っても仕方がない。
「恨みっていうのは、父さんの家庭のことだったらしくて」
「……普通、第三者の家庭環境に恨みをもつ人なんているのか……?」
天野は考え込んだ。
実際にそのような人がいて事件が起こったのだから、俺は否定できない。
「その恨みの矛先が、俺だったってだけだよ」
「__嗚呼、だから、君は死にたいんだ」
そうだ。
父さんが死んだ原因は、俺、だったんだ。
俺が居なけりゃ、犯人は父さんに恨みをもつこともなかったし、父さんが死ぬこともなかったのだ。
「具体的に、どんな風に恨まれていたんだ?」
「その犯人にも家庭があったんだけど、犯人の奥さんは、子供を産んだと同時に亡くなって、子供も生まれてすぐ死んだ。家庭が崩壊したんだ。」
「……」
天野は何も言わなかった。
「それで、上手く家庭を築いている俺の父さんを恨んだんだ」
「それ、一歩違ったら、他の家庭の父親が殺されていたんだな」
確かにそうだ、天野の言う通りだ。
数ある家庭の中で、俺の父さんが選ばれた。
この世は、なんと皮肉なんだろう。
初めて人に告げた家庭環境。俺が死にたい理由。
こんなもの抱えても、どうせ誰も同情してくれないし、分かってくれないと思っていた。
でも今、こうやって逃げ道ができた気がする。
人間不信な俺が、こうやって他人に、自分の話をできている。
どうしてもそれは、現実味がないことだった。