テラーノベル
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放課後の教室は、不思議と朝より静かだ。
部活へ向かう足音。
友達を呼ぶ声。
机を引く音。
少しずつ人が減っていく教室を眺めながら、俺は鞄へ教科書をしまっていた。
「きょーさん帰ろー。」
振り向くと、らっだぁがもう支度を終えて立っていた。
「早いな。」
「帰宅部だからね。」
「それもそうか。」
「約束したし。」
「約束?」
「昼休みに。」
「あぁ。」
『放課後もっと話そ。』
確かにそんなことを言っていた気がする。
律儀なやつやな、と少しだけ思った。
二人で校舎を出る。
夕方の空はまだ明るく、風も昼間より少しだけ涼しかった。
「今日さぁ。」
らっだぁが歩きながら言う。
「寄り道してもいい?」
「寄り道?」
「コンビニ。」
「急やな。」
「アイス食べたい。」
「ならしゃあないか。」
「でしょ。」
らっだぁは満足そうに笑った。
学校から五分ほど歩いた場所にあるコンビニ。
冷房の効いた店内へ入ると、思わず肩の力が抜ける。
「うわ、迷う。」
アイスケースの前でらっだぁが腕を組む。
「そんな悩むか?」
「悩むよ。」
「全部同じに見える。」
「それは人生損してるって。」
「大袈裟やな。」
結局、らっだぁはソーダ味。
俺はバニラを選んだ。
会計を済ませて店を出る。
「いただきます。」
「アイスにも言うん?」
「一応。」
袋を開ける音が重なる。
「うま。」
「そんな美味しいんか?」
「一口食べる?」
「え。」
「嫌ならいいけど。」
「いや……。」
少しだけ迷ってから、一口だけもらう。
「……ん、美味い。」
「でしょ!」
子どもみたいに嬉しそうに笑う。
そんなに嬉しいのか。
感情豊かだな、と思いながら、舌の上のソーダ味を飲み込む。
「バニラも食べたい。」
「はい。」
今度は俺が差し出す。
らっだぁは遠慮なく一口食べた。
「ん、」
「どう?」
「王道。」
「褒めてる?」
「めちゃくちゃ褒めてる。」
なんでもないやり取りなのに、気付けば自然と笑っていた。
コンビニを出て、また歩き出す。
「あ。」
らっだぁが急に立ち止まる。
「猫。」
道路脇の塀の上。
白と茶色の猫が一匹、こちらを見ていた。
「可愛い。」
そう言ってしゃがみ込む。
猫も逃げる様子はない。
「おいでー。」
らっだぁが手を伸ばす。
……来ない。
「振られた〜⋯。」
「当たり前や。」
「昨日会ったら来たのに。」
「昨日?」
「あ。」
らっだぁが固まる。
「……気のせい。」
「気のせいなんかい。」
「ちょっと記憶喪失してたわ。」
少しだけ慌てたように笑った。
俺は特に気にせず歩き出す。
らっだぁも立ち上がって隣へ並んだ。
「きょーさんって、家帰ったら何してる?」
「ゲームしたり、動画見たり。」
「俺もー。」
「似てるな。」
「だね。」
少しだけ沈黙が流れる。
気まずいわけではない。
心地よい静けさ。
夕方の風と、車の音だけが聞こえていた。
「……なんか。」
らっだぁがぽつりと言う。
「こういうの、いいね。」
「こういうの?」
「何もしないで帰るだけ。」
「毎日こんなんやろ。」
「でも、一人と二人じゃ違うじゃん。」
その言葉に、返事はできなかった。
確かに違う。
昨日までの帰り道は、もっと静かだった気がする。
人がいるだけで、放課後はこんなにも変わるものだろうか。
駅前の分かれ道へ着く。
「じゃ。」
らっだぁが手を振る。
「また明日。」
「あぁ。」
「ちゃんと早く寝なよ。」
「お前が言うな。」
笑い声だけ残して、らっだぁは歩いていく。
その背中が見えなくなるまで、なんとなく見送ってしまった。
「……」
家へ向かって歩き出す。
手には食べ終えたアイスの棒。
頬にはまだ少しだけ春の風が残っていた。
昨日までなら、一人で歩いていた帰り道。
今日は少しだけ短く感じた。
たぶん、それは。
隣で誰かが笑っていたからなんだろう。
NEXT=♡1000
ちなみにらっだぁさんが非猫アレルギーの設定にしたのは、らっだぁときょーさんで猫を眺めるシーンを書きたかっただけです。
特に他意はございませんので(人 •͈ᴗ•͈)
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