テラーノベル
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僕は魔法使いだ。
そう言うと、みんな少しだけ笑う。
冗談だと思っている。あるいは、冗談であってほしいと思っている。
僕の指先からは火が出る。
僕の口からは嘘が出る。
僕の胸の奥には、誰にも見せられない小さな針が、毎日一本ずつ増えていく。
「ねえ、僕のこと好き?」
彼女にそう尋ねたのは、雨の降る夜だった。
彼女は黙っていた。
だから僕は、答えを待つ代わりに魔法を使った。
「好きって言って」
指を鳴らす。
彼女の唇が動いた。
「好き」
きれいな声だった。
僕が作った、きれいな声。
うれしい。
うれしいはずなのに、胸の針が三本に増えた。
「もう一回」
「好き」
「もっと」
「好き、好き、好き」
彼女の声は、壊れたオルゴールみたいに繰り返された。
僕は笑った。笑いながら、彼女の頬に触れた。
冷たい。
魔法で作ったものは、どうしても少し冷たい。
だから僕は、今度は温度を与える魔法を使った。
彼女の体温を上げた。
上げすぎた。
彼女は赤くなった。
頬も、指先も、目の奥も。
「ねえ、僕のこと好き?」
「好き」
「本当に?」
「好き」
「僕が魔法を使っても?」
「好き」
「僕が君を壊しても?」
そこで初めて、彼女は黙った。
しまった、と思った。
魔法は命令しかできない。
愛情は作れない。
心臓を動かせても、心までは動かせない。
僕は慌てて指を鳴らした。
「僕を好きになって」
彼女の目から、涙が落ちた。
「僕を好きになって」
涙は止まらなかった。
「僕を好きになって!」
部屋の壁が震えた。
窓ガラスが割れた。
床に黒い花が咲いた。
それでも彼女は、僕を好きにならなかった。
魔法使いの僕には、できないことがある。
誰かに愛されること。
自分を許すこと。
そして、魔法を使わずに「助けて」と言うこと。
だから僕は、最後の呪文を唱えた。
「全部、なかったことになれ」
世界が白くなった。
気づくと、僕はひとりで椅子に座っていた。
向かい側には、空っぽの椅子。
誰かがいた気がする。
とても大切な誰かが。
僕はその椅子に向かって微笑んだ。
「ねえ、僕のこと好き?」
返事はなかった。
けれど、胸の奥で針が一本、抜けた。
痛くなかった。
その代わり、僕の中から何かがひとつ、消えていた。
ゆろ
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コメント
3件
# 感想 めっちゃ重くて、めっちゃ美しい話だった…😭✨ 「好きって言って」で指を鳴らすシーン、ゾッとしたけど、その後の彼女の涙が止まらなかったところがもう…心臓ぎゅってなった。魔法で何でもできるはずなのに「愛されること」だけはできないって、すごく切ない。 最後の「針が一本抜けた」で、なんか救われたような、でも消えた何かが気になるような…余韻が胸に刺さるよ。 ゆろさんの言葉選び、短いのに映像が浮かぶし、すごい。続き、待ってます🔥