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幻想郷の地下の地下。そこは旧地獄という、悪鬼羅刹が跋扈する空間。 というのは昔の話で、今の地下は繁華街が如く盛り上がっている。
そこへの出入り口の近く、森の中。
少女が、そこに居た。
しかしその眼には何も映らず、意識さえ定かではない。
「〜♪」
ふと、鼻歌を歌いながら、見慣れない人物が座っていることに気付く。
肩には小鳥が止まり、小動物達が警戒なく近づいていた。
「?」
白い長髪の少年と目が合う。
今の自分を認識できる人間なんてそうは居ない。
なので。
「連れてきちゃった♪」
「なんてこったい……。こいし、あなた……いよいよ人間をさらってきちゃったの!?」
薄く緑がかった癖のある灰色の髪で、セミロングに緑の瞳。鴉羽色の帽子に、薄い黄色のリボンを付けた、こいしと呼ばれた少女が楽しそうに話している。
身体の各所から線が伸びており浮遊した丸いそれは……閉じた瞳のようなものである。
それとは対照的に、驚いている少女はピンク色の髪と瞳、フリルの多くついたゆったりとした水色の服装をしている。
こちらも同じく、浮遊する物体が身体と繋がっているが、瞳と同じ色で、目が開いている。
「攫ってないよ? ホントだよ!森で迷ってた感じだったから連れてきたの!」
「それって拉致では……?」
「でもでもこの子!私の姿を認識してたんだよ?」
妹であるこいしは【無意識】の能力を持っている。故に自身も無意識下で行動したり、周りからは認知されなかったりするはずだが……。
そう思いつつ、こいしの姉、さとりは、片目を瞑り【心を見る】能力で、こいしが連れてきた人間の心理を診る。
(お腹……すいた……)
呆れた。
ここまで連れて来られて、出た感想が呑気すぎる。
机に突っ伏してうなだれるさとり。
「おねぇちゃんどうしたの??」
「いやもぅ……地底には変人しか集まらないのかしら……?」
頭を抱えて困惑する。
するとこいしが顔を覗き込み、真剣な表情で話す。
「おねぇちゃんおねぇちゃん」
「どうしたの……」
「地底に人は居ないんだよ?」
「問題点はそこじゃないのよ、こいし」
そう言い終わると、さとりは問題の人間のほうに向く。
「えー……と、まずは自己紹介からでしょうか…?私は古明地さとり、地底の主をしている者です。そしてこっちが─」
「妹の古明地こいしだよ!よろしくね」
自己紹介するも、依然として少年は何も考えていない様子でボーっとしている。
こちらの声が届いているかすら、定かではない。
さとりは、片目を閉じ、能力を使いながら質問する。
「えー……貴方のお名前を伺っても良いかしら?」
何処かを見ていた瞳が初めて、さとり達に焦点を向ける。
「なまえ……。つちや……ひびき」
生気の無い声で話す少年。
色白で今にも倒れそうな程の細腕、髪は白く地面に着く程、その長髪をヘッドバンドで前の視界を確保しているように見える。紫色の瞳はどこを見ているか分からない。
「ヒビキ!!よろしくね!!!」
「ありがとうございます。ヒビキさん、貴方の帰る場所はわかりますか?」
「???」
こちらの意図が理解できないのか、キョトンとした顔で見てくる。
「きづいたら……あそこにいた」
「迷子……身元の捜索をするべきでしょうか?」
相変わらず、困り顔のさとりとは別に、いつも通りの天真爛漫な様子でこいしが話しかける。
「あなたのお家はどーこー??」
「おうち……は……もりのなか」
あまりにも以外過ぎる返答に困惑する二人。
昔に比べて平和になった幻想郷とはいえ、森や魔力が濃い区域には、瘴気や妖怪妖精になり損なった、いわゆる魔物や魔獣が生息しているからである。
親に捨てられ、森の中で育った故の返答だとして、生きていられるはずが無いのだが……。
「ねぇねぇおねぇちゃん、ヒビキを迎え入れてみるのはどうかな?」
「こいしあなたね……この子がどういう人かも分からないのよ!?」
「それなら、おねぇちゃんの第三の目で見ればいいんじゃない?」
こいしに言われて、先ほど心を観た内容を思い出す。そこで出た結論は、【問題なし】であった。
「ここに迎え入れるのは良いけれど、霊夢さんからの許可が必要になって来ますね……」
「私が行ってくるよ〜!」
そう言いながらこいしは無意識の能力を、発動しながら扉を出ていった。
「あ、ちょ!こいし!! あなたまたふらつくでしょ!!」
そんな声はこいしには届かず、無慈悲に扉が閉まる音だけ残して、そのまま出て行ってしまった。
「……大丈夫かしら」
困惑したまま、念には念を入れる。
「お燐、居る?」
「さとり様ぁ! 何かありました? お、この子が新しく入ってくる子ですかぁ?」
そう言いながら入って来たのは火車の妖怪、火焔猫燐。
赤色の髪と瞳、猫の耳が生えているが尻尾が2つある。瞳孔も猫のように少し縦に伸びている。服は黒が基調で緑色のフリルが手首と、スカートの終わりに付いている。
「色々と察しがよくて助かります。霊夢から住人としての許可を貰いに行ってくれますか?」
「分かりましたぁ!お燐にお任せください!」
そう言うと、こいしと同じように、楽しそうな足取りで出て行った。
「……さて、ヒビキさん、貴方外の世界の人間ですよね?」
「?」
依然として、心の方は食欲以外になにも見つからない。
しかし、さとりにはその格好に見覚えがある。
(とりあえず、危険性は無さそうですが……暫くは監視が必要ですね)
そう考え込みながら、改めてヒビキの方を向く、そこには疲れたのか床で爆睡しているヒビキが居た。
「……うん、危険性、無いわ」
謎の確信を得てしまった。