テラーノベル
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空から落ちる感覚がする。 久しく感じていない、うたた寝している時のような、心地良い感覚を思い出す。
でも今は。
「実際に落ちてるんですけどね?」
遥か雲の上、地上すら見えない高度から落下している。
まず間違いなく、このまま衝突すれば死ぬだろう。
だが気が付けば空の上、準備などあるはずもない。
「おや?誰か落ちてきてる。とう!!」
とてつもない轟音と共に、少女が宙を跳び上がる。
「珍しいな!こんなところ人が居るの」
「!?」
目の前にあり得ない光景が繰り広げられ。
困惑する。下から少女が飛び上がって来たと思えば、笑顔で落下しながらこちらと会話しているのだ。
「えっと……あの、助けて下さい!?」
何を言っているんだ僕は。
この高さから落ちてるのに、助けても何もないだろう。
そのような思いとは裏腹に、少女はさらに笑って話す。
「どうした?着地できないのか?なら任せろ!!」
そう言うと少女は僕を抱きかかえ、ドオオオォンッ……!!
という凄まじい轟音と振動が響く。
驚いたことに、少女も僕だって無事。
なんなら少女は楽しそうにしている。
「アッハハ!! 楽しいなぁ!」
「な……何が……?」
困惑していると、また一人、誰かが近付いてくる。
「天子様!一体何が……」
深い青の髪色と緋色の目、服は白と赤の長いフリルが全身を巻くように付いている。
格好からして偉い人のように見えた。
「上からこの子が落ちてきたから、キャッチした!」
共に落ちてきた少女は、にこやかに話すが先ほどから気になっていたことを口に出す。
「えぇ……と、助けてもらったのは嬉しいのですが……下ろしていただけると……」
背後から抱きしめられている形の為、背中から慣れない感覚が広がる。
「おっと……」
「それで?貴方は何者ですか?」
赤髪で緑と赤のオッドアイ少年を睨む衣玖。
「僕の名前は雨瑞 観月です」
「……何故、空の上に?」
懐疑……いや、警戒の眼差しを向けられる。
「それは……気付いたら空の上に居たとしか……」
「何の話??」
助けてくれた少女は、事態を把握していない様子だ。
隣で召使いのような人が、電気のようなものを帯び始める。
「天子様、恐らくこの方は外の世界の人間かと……即刻排除すべきです」
「まぁ、待ちなさい衣玖。話だけでも聞いてあげようじゃない」
「…………」
天子と呼ばれていた人物の一声で衣玖の戦闘態勢が解除される。
何が何だか分からずに困惑している。
「まぁまぁ、まずは自己紹介だ!
私の名前は比那名居 天子!幻想郷で最も偉い種族、天人だ!」
水に近いような青の髪色と、赤色の瞳。
桃の装飾が施されている帽子を被った。
少女が、自信満々に自己紹介をする。
「また紫様に怒られますよ」
自信満々に話す彼女とは裏腹に、困ったように静止する衣玖。
「……申し遅れました。私は永江衣玖、天子様に仕える、人間と龍の間に住む妖怪、龍宮の使いです」
不服そうに、仕方ない様子で自己紹介と挨拶をする、衣玖という人物。
「ここはどこなんですか……?」
そんな質問をすると、待っていましたと言わんばかりに、天子が話し始める。
「よくぞ聞いてくれた!ここは天界!! 幻想郷の遥か上!一番偉い場所!!」
辺りを見渡せば雲だと思っていた場所は白い地面のようなもので、ふわふわに見えて足を踏み出すと安定するという不思議な状態。
雲の上だからか、空は晴天そのもの、文字通り雲1つない。
周囲には何もない、途中で切れてる雲から落下すれば恐らくそのまま今度こそ地面に衝突するだろう。
「偉いわけではないですね」
冷静に、衣玖と言われていた人物がツッコミを入れる。
続いて、天子と呼ばれていた人物が話す。
「変人は多いでしょ?」
天子が確認をすると、衣玖は思い出すように目線を動かしてから。
「……否定はしません」
……どうやら本当に多いようだ。
「変な人が多い……ですか?」
その一言で少し惹かれる、僕のような。
人間がいるのかもしれない、そんな期待が沸き立つ。
そんな気持ちを察してか、天子がこちらを向き。
「なぁ!このままここに住んでみる気はないか!?」
「はい!?」
余りにも突拍子の提案に驚く衣玖。
そんなものは眼中に無いと、天子は続ける。
「ここは幻想郷!変な人間妖怪が入り交じる、忘れられた者の楽園!」
驚愕している衣玖とは裏腹に好奇心が、期待感が僕を襲う。
それに、天界なら……もしかしたら……。
「僕も……ここに住みたいです!」
「おぉ!!それじゃあさっそく─」
「待ちなさい!」
衣玖がストップをかけ、怪訝な表情がさらに深まる。
「何故、ここに住みたいか答えて下さい。返答によっては、この場で処分します」
「ちょっと衣玖!それはあまりにも!」
何かを言いたい天子を、押し退け、話し続ける。
「天子様も知っているでしょう!数年前の大異変!外界戦争を!あれでどれだけの被害が出たと思っているのですか!」
今にも臨戦態勢に移りそうなほどの怒気を放つ。
だが、天子は大丈夫と言わんばかりに笑い、堂々と答える。
「良いじゃない、それはそれ。これはこれ、何かあったら私がどうにかするわ!それにね、私はこいつのことそんなに悪いやつだと思ってないし!!」
「ですが……!」
「衣玖、例え外の世界の人間が攻めてきたからって、全員がそういうわけではないでしょ?
常に偏見だけで判断してたら更に争いを生み出すだけよ!」
何かを言おうとした衣玖をなだめるように遮る、真剣な眼差しに気圧される。
どこから来ているのか、絶対的な自信と確信を得た目が僕を見てくる。
「確認だ!天瑞観月!君はここに住みたいんだな!?」
「えっと。は、はい……!」
「…………はぁ、では先ず博麗の巫女、霊夢さんから許可証をもらってきてください」
諦めたのか、額に手を当て眉をひそめながら、天子にアドバイスを送る衣玖。
「分かった!! じゃあ行くぞ!」
ガシッとこちらの手を握る、嫌な予感がしつつも振り払えない。
そして雲の切れ目へと走り出し。
「……あ、天子様!その子は人間なのでそれは!!」
落下する。
「うわアアアアアアアアアァ!?!?」
「ヒャッホォォォゥ!!!!」
本日2度目の落下、うたた寝のような心地よさは無かった。
それと同刻。
最後の一人が、幻想郷へ入った。
「おや?参拝の方ですか!?」
「えー……と迷子になっちゃって……」
紫色の髪と綺麗な金色の瞳。
後ろに垂れるほど長いマフラーで神社に居そうな和風の服を着ている人物が階段から上がってくる。
「……うん?もしかして君、外の世界の人間?」
「おぉ!早苗以外にも居るとはな!」
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