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おお…第124話、一気に読んだわ。めっちゃ熱かった!! まずアーシアが真究極合体魔法『オムニ・マギアブレイク』を放つシーン、鳥肌立った。キラの「お前の『心』が引き寄せた必然の奇跡」って言葉がもう刺さりすぎて…。エドガーへの劣等感を抱えてたアーシアが、最後に自分を信じて切り開く姿に胸が熱くなったよ。 そしてラストのマリアの本性がヤバすぎる。「弱者に情けを与える偽善という快楽」って、あれだけの転生者を死に追いやってまで崇められたかったのか…。キラの怒りは当然だし、逆にマリアの純粋悪への嫌悪感がめっちゃ伝わってきた。 ただ、キラの頭の中で何かが暴走しそうな不気味な終わり方が気になる…。次回が待ち遠しい🔥
漆黒のドラゴンの長首に、アーシアの氷魔法が衝突する。
豪快なそれが見掛け倒しとは思えないが、ドラゴンは怯まない。傷のひとつでも与えられないどころか、逆鱗に触れてしまったのか凶悪な咆哮をあげて一層激しく暴れまわり始めてしまった。
「くっそ、このままじゃ城が大変なことになっちまうぞ!?」
「もうなってるわよ!!」
瓦礫の奥から、戻ってきた衛兵たちが弓矢や魔法の礫でドラゴンを攻撃しているのが見える。
そんな彼らの助力も呆気なく、丸太みたいな尻尾の一振りで吹き飛ばされてしまった。
「……アーシア、オレがエドガーを玉座の後ろまで連れていくからしばらく耐えててくれ!」
魔力を使い切り、だらんと腕を床に垂らして膝から座り込んだエドガーを引っ張り立たせて、後ろへ連れていく。
「しっかりしろよっ、お前の妹が頑張ってんだぞ、見えてねえのか!」
「……アー、シア」
「そうだ! 前を見ろ!」
前方には、ドラゴンに対して複数の魔法で応戦する勇敢な女剣士の姿。
「あれが、お前が下に見ていた妹だよ。 あいつはお前との間に劣等感を抱いてた。 そりゃお前がスゲーからだよ。 でもな、妹の心に気付けねえ、気も遣えねえ! そんな兄貴がいい兄貴なワケがねえだろ! その目ェ開いて、しっかり妹のスゲーとこも見ててやれよ!!」
アーシアの細い剣に光が宿る。
エドガーほどの超魔力ではないが、ドラゴンは怯んでいる。どうやら片目を傷つけられたことがトラウマにでもなっているのか、警戒しているようだ。
「極初期型合体魔法、『三属性解放剣』! 白の十四、強化術式を付与!」
魔法剣の光が更に強まる。
近くにいたら意図せず周りまで巻き込んでしまいそうなサイズの刃が、ドラゴンへ向けられる。
「アーシア!」
「キラ、危険だから後ろにいて!」
「オレが囮になる! オレがあいつの注意を引っ張るから、その内に一発食らわせてやれ!」
「駄目よ! それにドラゴンは私の魔法剣に注目しているから囮作戦なんて効かないわ!」
「その時は逆だ、すまねえがお前が囮になってくれ。 オレが死角からぶん殴って破壊できねえか試してやる……!」
オレの破壊がこっちの世界でも通用することは分かってる。でもそれがドラゴンなんつー存在にまで効くのかは不安なラインだ。
それでも、やる価値はある。
破壊がどこまで適用されるのかは分からないが、オレのワンパンで脅威を消し去れるかもしれないなら、やらねえ手はねえ。
「気をつけて……、エドを倒した貴方の奇跡でも、流石に伝説級のドラゴンには……!」
「日和ってる暇はねえ、来るぞ!」
天井を翼で削りながら前進してくるドラゴンの視線を、アーシアの魔法剣が引き寄せる。
その隙を見て瓦礫の影を渡って、なんとか側面まで辿り着いた。
「キラっ!」
アーシアの掛け声と共に魔法剣が強く発光する。ここぞとばかりに飛び出す。死角から迫る。貯水タンクみたいにデカい胴体に、拳の先から飛びつく。
「ぶっ、壊れろ!!」
願い通り、破壊は起きた。
ただし、それはドラゴンの巨大な体躯を一撃粉砕するような英雄的で大規模なものではなく。
ダイヤ形の外皮の鱗を一枚、粉々に潰すくらいのちっぽけな破壊だった。
鱗の一枚を失っただけでも痛覚が働いたのか、ドラゴンが唸りをあげて尾を振るう。
幸い、反射神経が反応したことで横っ腹への衝突はを弱めることが出来た。が、その威力は充分。吹き飛ばされてタイルを転がり、瓦礫に背中をぶつける。
「痛っ……、て……」
接近する前に気が付くべきだった。
オレの破壊は、何でもかんでも簡単に壊せる便利な代物ではない。条件がある。
触れた物を破壊する力。
その逆説を唱えるならば、触れていない物は破壊できないということだ。
ドラゴンの鱗や爪みたいに、一枚一枚が独立して皮膚に引っ付いてるだけのものは、その本体までをセットで破壊することはできない。つまり、しっかり繋がってないものはその全体までは破壊できない。
内に隠した柔らかい肉部分を覆い護るという本来の役目からして、ドラゴンにとって鱗は鎧だ。オレがやったのは、その鎧に穴をあけたにすぎない。
穴があいたところで内側の本体が出血することはないし、それで活動が停止することはない。これじゃあオレの破壊で殴って倒すなんて、不可能だ。
「ぐっ……。 まったくどうしてっ、権能はこんなにも使い辛えんだよ……!」
視界左上の残り体力ゲージが赤色の危険域に入り、点滅している。
正直、エドガーとの決闘もあって身体はボロボロだ。致命的な怪我こそないものの、こんな親切設計がなくたって全身が悲鳴をあげていることくらいはオレがよく分かってる。
顔を上げると、ドラゴンの背ビレがほんのりと明るくなっていることが見て取れた。
手のひらを太陽に透かしたみたいな優しい明るみの裏に、何か不吉を察知する。
「キラ! 痰火が来るわ、逃げてっ!!」
「はっ!? シャウトって何――――、」
問答を待たず、ドラゴンの膨らんだ頬に溜められた熱の塊が放たれる。
飛んでくる圧縮された熱火球に対してオレが出来ることと言えば、破壊の手を伸ばすことだけだった。
突き出した手に、岩でもぶつけられたみたいな確かな衝撃を感じた。そして次の瞬間に、それは砕けて散った。火球は壊れて消えた。
が、今度は壊れた後のその欠片が爆裂する。
直撃の丸焼きこそ避けたものの、弾けて溢れた火の小爆発、その高熱の爆風が周りを焼く。
一瞬で右腕の肌に無数の火傷を負ってしまい、熱から逃れるべく脊髄反射で瓦礫の上を転がり距離をとった。
「くっそッ……! 」
村でアーシアに着せられていたロングケープの先が爆炎に引き裂かれ、燻っている。
もしうまく破壊が働かず、あんなのが直撃でもしたら……、今度は火傷や丸焼けじゃあ済まない。良くて消し炭、悪くて跡形も残らず焼失だ。
しかしドラゴンはお構いなしに大きく息を吸い始め、再び背ビレは光を宿し、加熱していく。
危険を察知したアーシアがオレの前に立ち、魔法剣を床に突き刺す。
「今度のは一発撃ちきりの痰火じゃないわ、持続放射の息吹よ! 伝説級の火炎放射は岩をも溶かす………! 私の白の防炎魔法ですら耐えられるかどうか……」
「なら、このままオレが囮になる。 なんとか逃げ回ってっから、その内に……、」
「もう、これ以上……! 貴方を危険に晒せない。 逃げて! 元の世界で、元の生活を取り戻して……! 貴方には、その権利があるはずよ!」
「…………いや、まだだ」
アーシアの肩を引き、前に立つ。
「まだ、帰れねえ。 アーシアがあのドラゴンに一撃キメる好機を作るまでは……、まだ現実に帰れねえよ」
「どうして!? どうして……、そこまで私を信じるの? 私の未熟な魔法剣じゃあ、あの伝説級に傷を与えるのがやっとよ。 魔力を全開放しても、通用するかどうか……」
「……アーシア。 兄にっ、負けたくないんだろ?」
彼女の濁った目がキラに向く。
「お前は兄貴に対して劣等感を抱いてたよな? 剣と魔法の技術も、為政者としての素質も、何もかも劣ってるって。 でもよ、お前の方が勝ってることだってあるんだぜ? ……『心』だよ。 お前の優しい国を取り戻してえって強い気持ちだけは、絶対に兄貴にも負けてねえ! そいつを武器にするんだ!」
ボロボロのまま、破壊の腕を伸ばす。
「いいか、オレが息吹を耐える。 その内に、お前はさっきエドガーが言ってた、魔王でも倒せるっつー究極の魔法剣を使ってくれ。 あのドラゴンに、叩き込んでやれッ!」
「むっ、無理よ! 確かに私も魔法剣の発動はできるけれど、魔力が乏しすぎる……。 剣の形を数秒留めるだけでも限界で……、」
「お前はこれまで散々願ってきたはずだ! 自分の考えを理解してもらいたい、国をいい方向に進めてもらいたいって願いで! 兄と自分の差を埋めてえって想い続けてたんだろ! 劣等感ってのは、人と比べちまいたくなるくらいの理想があるから抱いちまうんだ。 そんだけ強え願いの力があるなら、きっと叶う! 今度はお前が奇跡を起こすんだよ!」
「奇跡…………」
アーシアは葛藤しているみたいだった。
力の足りない現実と、届きもしない夢。
その狭間で、潤いを持って揺れ動く瞳。
「……起こしたいよ、私だって奇跡、起こしたい。 でも、そんなの、夢物語だよ!! 夢は、夢だから、夢なのよ……! お兄様と同じ品質の魔法剣を作るだけでも、私の持つ三倍は魔力が必要で……、伝説級ドラゴンの外皮魔力装甲を破るのにはもっと多くの魔力が……! 私なんかじゃ全然……、太刀打ち出来ない……。 膨大な消費速度に耐えうる魔力が、私には、ない……」
「分かってねえな、そんなものは必要ねえッ!」
ドラゴンが開口する。
黒煙と共に、消防隊のホースみたいな高出力の火炎が喉奥から放たれる。
向かってくるレーザービームを、火傷だらけの右腕で迎える。そして、破壊を願う。叩き壊れるような破裂音が響く。
しかし、炎なんて不定形なものだからか、それとも勢いが強すぎて間に合っていないのか。
破壊が成功しても、次の破壊が始まる。
破壊、破壊、破壊、破壊、破壊、破壊。
超連続する破壊の愉悦と、強い衝撃が全身を駆け巡る。
なんとかレーザーを受け止められているものの、あまりの威力と熱に、これでは腕がもたない。
全ては、アーシアに掛かってる。
アーシアの強い気持ちが乗っかった魔法剣なら、きっと奇跡を起こせる。
現実はきっと、夢よりつまらない。
思い通りにいかないし、いつも痒いところに手が届かないし、有限で、そこまで綺麗でもない。
でも、たまに上振れがある。
強い想いが作用して、これどんな確率だよ、何がどうなったらこんなことが、って言いたくなるような出来事が起きることがある。
それは、抑圧だらけが通常運転の現実だからこそ楽しめる、非日常的な極上の黄金体験。
人はそれを、奇跡と呼ぶ。
「現実と夢の乖離に絶望すんな! 確かに、誰だってヒーローやヒロインになれるなんてのは大嘘だ! どれだけ望んだって、願ったって、叶わないことってのは無数にある! 馬鹿にされて潰れちまう夢もある。 人知れず折れちまった夢もある! でもなッ、本気で夢を信じたお前を馬鹿にしていい権利なんて誰にもねえ! そんなのは例え神様にだってねえんだよッ!! だから……、どんだけ挫折したって、どんだけ苦しんだって、どんだけ裏切られて失望したって! ボロボロのままもう一度立ち上がれ! 夢と現実の両方に立ち向かえ!! 夢を信じ続けて現実と戦い続けたお前の『心』は、思い出は! きっと何にも比べられねえくらいに貴いもんになってるハズだ! もしお前が、どうしても自分の力を信じらんねえ、奇跡なんて起こせねえってって白けちまってんなら……、お前なら出来るって信じてる、このオレを信じろ。 エドガーを越えろっ! 駄目だ駄目だって下向くなら、せっかくだから最後に全部ぶっこんで挑戦しろッ!!」
ドラゴンの吐きつける火炎が蒼くなる。
極太の柱みたいな蒼炎が、キラの腕を焼く。
「……もう、どうなっても知らないからっ! 既存黒魔法の全てを昇順に並列敢行。 どれだけの属性を混合出来るか分からない。 エドお兄様の魔力でも起動に足りないものを、私が扱えるとは思えない。 それでも……、やれるだけやってみせる! これが私たち、ヴィクトーリア王族の発明と鍛錬の完成形!!」
青く輝いていた魔力の剣が、真っ白な細い一線の形に絞り伸びる。
最早それは剣ではなく、ピアノ線のような光り輝く直線と化していた。
「真究極終着合体魔法、『全属性解放剣』ッ!!」
背後で跳躍したアーシアが、細い光を思いきり横に振るう。
今でも折れてしまいそうなそれが、空中に横一直線を描いて残る。
一見、それは失敗のように見えた。
迫力もなく、何も起きないのかと。
しかし、直後にその認識は塗り変わる。
「何、この魔力……! どこから、こんなっ……!?」
空中に残った光跡から眩い光が漏れる。
辺り一帯の空間が全て押しのけられてしまいそうな反重力の波が広がり、次の瞬間。
まるで伸び続ける大幅のカッター刃みたいな光の帯が拡大し、ドラゴンの首から脚までを切断した。
細い直線から放たれたとは信じられない超出力の光の激流が、そのまま怪物の翼も、胴体も、あらゆるパーツの全てを消し飛ばしていく。
ヴィクトーリアの光は、数秒で閉ざされた。
それでも城壁には真四角の大穴があき、同様にクッキーの型で抜かれたみたいな胴を失ったドラゴンの肉片がタイルに転がった。
静寂。
さっきまで火を吹いて大暴れしていた怪物が、たったの一瞬で息絶えた。
「本当に……、できた……! 討伐クラスSSのドラゴンを……、倒せた。 でも、何で……?」
「……奇跡だよ。 お前の信じた気持ちと、オレが貰った加護が、重なって……、奇跡を起こしたん、だ……」
オレは息吹が光に飲まれて止まる、その瞬間まで火炎を破壊し続け、耐えていた。
全身ボロボロ、服は焼け焦げ、その場に倒れ込む。
「キラっ、大丈夫!?」
「……多分、な。 だいぶキツいけど……、死ぬほどじゃねえ。 と、思う……」
「加護って……、『転生者』が女神から与えられる加護のこと? 貴方、何も特別な力は貰ってないって言ってたのに……」
「……ああ、貰ってない。 つもりだったんだけどな。 どうやら違ったらしい……、これ、アーシアには見えるか?」
天井を見て倒れるオレの指先には、ゲーム画面に現れるダイアログみたいなテキストボックスが表示されていた。
【 RESULTS 】
経験値 : 0
獲得金 : 0
ドロップ : なし
パッシブスキル『不必要』が発動したため、
報酬は獲得できませんでした。
「……何か、そこに見えてるの? 私には何も……」
「そっか……。 オレ、話したろ? マリアンヌにどんな力が欲しいかって聞かれた時に、そんなの必要ねえって答えたって」
必要のないという発言が、どうやらそのまま力として与えられていたらしい。
経験値も、お金も、アイテムのドロップもない。どう考えてもマイナスだらけな邪魔なスキル。RPGの主人公がこんな性能だったら、そりゃ確定でクソゲーだろうな。
「でも、どうやらこの『不必要』って力は、何もマイナスばかりじゃあなかったらしいんだよな」
【 SKILL 】
発動された『不必要』の効果によって、
NPCアーシアの消費魔力が0となりました。
「ここは女神マリアンヌの作った異世界で……。 あいつはオレに、魔王に対抗するための特別な力を、何でも一つだけ与えてやるって言ったんだ。 その文言を丸ごと信じるなら、全知全能の神様クラスの効力を及ぼす力だって与えられるってことだろ? オレは『不必要』なんて力を選んじまったワケだが、そんなスゲー権限持ってる女神様が直接与えてくださった力なら、きっと効力の及ぶ範囲はオレだけに留まらない。 きっとオレ以外の奴にも効果を発揮させられるって……、思ったん、だ……。 それで、思いついた。 アーシアが魔法を使う時に、魔力を消費せずに使える特別存在に出来るんじゃねえかって。 そうなったら、まるで『無限』だろ? 無敵の魔法剣使いが出来上がるんじゃねえかって……」
天井が歪む。
頭が、痛い。
「でもよ、それでも最後はアーシア頼みだったんだぜ。 お前がオレを信じて、お前自身を信じてチャレンジしてくれなかったら、『無限』の奇跡は起こせなかった。 ……でもお前はやってくれた。 だからこれは偶然が連続して上手くいった神懸り的な奇跡じゃない。 お前の『心』が引き寄せた、必然の奇跡、だ……!」
「キラ! しっかりして、元の世界に帰るのでしょう!」
視界左上の体力ゲージは数ミリほどで真っ赤に点滅し、その下には炎のアイコン表示が複数。
重度の火傷ステータスをいくつも負っちまってるらしい。
「ああ、どうやら……、もう今すぐにでも帰らねえとヤベェらしい。 アーシア……、オレと妹を助けてくれて……、ありがとう、な……!」
なんとか立ち上がって、アーシアの肩を借りて『窓』まで向かう。
彼女の目から、大粒の涙が流れる。
「キラ……、感謝するのは此方よ……! 貴方のおかげで、エドの行き過ぎた考えも少しは落ち着くはず。 私のこと、少しは話聞いてくれるようになるはずだから……! それに、魔法剣が完成した! お兄様でもマスター出来なかった力を……。 私の力じゃないって分かってても、ほれでも自信になる。 私でも、エドの隣に立つことを目指してもいいのかもって、思える」
「かも、じゃねえって。 良いに決まってんだろ。 兄貴の背中しか見えねえ兄妹関係なんてさ、どう考えても……、間違ってるからな……」
思えばこっちの世界に来てからは、理紗の安全を確認するためにずっと急いでいた。
だから、城の天井から覗く青空も、夜でもないのに薄く浮いている月の親戚みたいな星も、まじまじと見たことなんてなかった。
「……こっちの世界は、スゲー綺麗だな。 景色も、人も、何もかもさ。 オレの元いた現実世界じゃさ、アーシアみたいに赤髪で、澄んだ青い目をしてる人は滅多にいないんだぜ。 前の村人の人達だって、オレからしたら美男美女揃いだった。 何もかも新鮮でさ、なんか、楽しかったよ」
「また来てくれたらいいじゃない。 貴方はやっぱり、間違いなく勇者様だった……。 怯えていた私を勇ましく率いて、勝てるはずのない戦にも勝ち、ヴィクトーリアに光を宿した。 今度貴方が来た時には、本物の砂糖漬けを用意しておくわ。 食べたことないのでしょう?」
「お前が変な諺で言ってたやつか。 楽しみにしとくぜ。 きっといつか、また会いに来るからな……!」
いつの間にか随分と小さくなっていた空間の割れ目に手をかける。
身体が、重量ごとゆっくりと吸い寄せられる。
「じゃあ、また――――、」
最後の挨拶を終える間もなく、オレを飲み込んだ『窓』が急速で修復されていき、アーシアの顔が見えなくなる。割れ目が、閉ざされる。
伝えたいことはまだまだ沢山あった。
でも、なんとなくまた会える気がして。
その時に伝えればいいんだと、そう思えた。
「アーシア……」
「――――此方を、お向きなさい」
飛行機の胴体が捻り曲がるような不快音で構成されたその声を聞くと同時に、浮かんでいた身体に普段の重量が帰ってきて、落下する。
透明なガラスみたいな床が無数に貼り付けられた空間に脚から着地して転んだ。
「少々、貴方を過小評価していました。 魔王ジャギゼロを征伐することなく異世界を脱出するとは。 『転生』の条件は現実から異世界へ、異世界から現実への移動を達成することにあります。 確かに貴方はこの条件をクリアし、あとは現実に帰還するだけで命を取り戻し、復活する。 しかし、これでは試験を越えたとは言えませんね?」
青黒い空間に浮かぶ、放棄され穢れきった自由の女神像。
その顔面に、ヒビが入る。
「貴方は狡猾ですが、私の目が黒いうちはその様な非正攻法は許しません。 特別追加試験です……、この私に、貴方の力を見せてみなさい!」
頭部の青銅が一瞬で崩壊する。
中からキトンのような白布に身を包み、胸に手をクロスさせたマリアが現れ、ゆっくりと降下し、着地した。
「……お前がやってきたことを見てきたぞ」
「やってきたこと、とは?」
「すっとぼけんなよ。 あの荒野に並んだ『転生者』の墓の数々、知らねえとは言わせねえぞ。 お前が現実から連れてきた奴があんだけ死んじまってるってことだろ!? お前は……、どうしてこんなことをしやがったんだ。 オレを異世界送りにしたのは『少数派』からの最終試験をするためだって言ってたよな? じゃあ他の『転生者』たちは何のために送り込まれて殺されたって言うんだよ!?」
「その言い方では、まるで私が人殺しみたいな言い方ですね」
「そうだろうが!!」
マリアが腕を伸ばすと、床のガラスタイルに光が宿った。
光は、テレビモニターのように様々な景色を映し出す。
ある一面は真っ暗な部屋を。
ある一面は学校のトイレを。
ある一面はビル群の屋上を。
ある一面は朝の駅ホームを。
次々と映る仄暗い景色の各所に、絶望したみたいな表情で下を向いた老若男女の姿が映り込んでいることに気がついた。
「これは……?」
「『転生者』、の皆様ですよ♡」
次の場面で景色は淀む。
暗い部屋の、天井から吊られた縄が映る。
個室トイレは、首にあてられた工作カッター。
屋上は、金網の外で目下の地上を。
駅は、接近するヘッドライトと線路を。
「見て、お分かりですね? 私が導いてきた方々というのは、そういう方々なのですよ。 あとほんの少し風が吹けば簡単に背中を押されてしまいそうな、限界に立っている人間。 私は、彼らにやり直しの機会を与えているのです」
「やり直しの機会だと……?」
「私が『転生者』に選び導いてきた方々は、現実に嫌気がさして、飽きて、白けて、疲れてしまった人達なのです。 苦悩後悔ばかりが積み上がる毎日、存在意義の見つからない毎日、生涯孤独の意味のない毎日、仕事人生の色のない毎日。 そして彼らは一様に、『窓』を探したのです。 こんな毎日から飛び出して、非現実の虚構世界に飛び込みたいと求める望み。 私は、その望みを叶えて差し上げたのですよ。 『最悪の奇跡』による、異世界転生。 彼らの退屈な毎日に終止符を打ち、新たなる夢の世界へ導く。 この行為を殺人だと呼ぶには、あまりにも女神的すぎるとは思いませんか?」
景色が、バラバラにブラックアウトしていく。
宙吊り。
首切り。
飛降り。
轢摺り。
ブラックアウトしていく、バラバラな景色。
「現実に、神なんて存在しません。 奇跡なんて起きません。 運命なんて有り得ません。 皆、灰色のつまらない世界で鬱屈と生き続けています。 まるでロボットみたいに。 いつか報われる日が来ることを祈って。 自分が主人公であると信じて。 日常を切り裂いて、突然の非日常が自分の存在意義、環境、生活、全てを一新してくれる日がくるって。 私はそういった方に希望を与えているのです。 異世界は美しい。 誰もが夢見る幻想の世界です。 私は死にたいほどつまらない者に声をかけ、その者の人生に革命を与える。 異世界転生の機会を差し上げる慈善活動……。 そう、これは必死に生き続ける現代人へ向けた、私なりの愛なのです!」
「何が愛だよ……、お前のどこが女神だよ!? お前の異世界転生の顕現の発動条件は死だ。 死んでいなければ、まず転生もクソもないからな。 だからオレと理紗を異世界転生送りにする時、銃で撃ったんだろ。 殺さなきゃ『窓』は通れないから! つまりお前は、他の『転生者』達にも同じことをしたんだ! 風でも吹けば簡単に背中を押されてしまいそうな人達だと? その風を吹かせたのはお前だろ!! 『窓』を開いて、風を呼んだ! 夢に誘って殺したんだ!!」
「解釈は人それぞれ、ですよ♡」
アーシアとヴィクトーリアへ向かう途中の荒野で見た、聖地に並び立つ夥しい数の墓標。
あの数だけ、マリアは人を殺している。
「精神が弱っている人に付け入って、唆して! こんな危険ばっかが跋扈する異世界なんかに連れてきて! 生き残れるワケがねえだろうが!! ゲームじゃねえんだぞ、HPゲージとか経験値とか……、そんなんじゃどうにもならないんだぞ! どうして、なんでそんなことをしたんだよお前は! お前に何のメリットがあるってんだよ!?」
「……ふふ♡」
マリアの石仮面から、血液が流れる。
白いローブみたいな服の色が褪せていき、真っ黒に染まっていく。
下腹部に、開眼。グロテスクに痙攣するその黒目から、あのマスケット銃が飛び出す。
「みなさん、異世界に転生される直前にね。 とっても幸せそうな顔をして私に感謝するんですよ。 待ってました、女神様って。 私のことを最高位の存在として崇めてくださるのです。 私、もうそれがどうしてもどうしても替えがたいほどに興奮してしまうのです……。 貴方にも経験がありませんか? 世界の裏側で貧困にあえぐ子供たちへの募金の経験。 電車やバスでご老人に席を譲る経験。 不登校になったクラスメイトのためにプリントを家まで配達してあげる経験。 弱者に情けを与える偽善という快楽の経験! 弱者は外から助けの手を伸ばされることを求めている。 しかし、その機会はほとんど訪れない。 そんな方々に愛を分かち、与えるとどうなると思いますか? ……そう、彼らにとって私は、それこそ神様みたいに崇められるのですよ♡」
人を助ける。
助けられた者は喜ぶ。
助けた者も、それで心が暖かくなる。
これは、善だ。
しかし、マリアは違う。
人に夢の存在を見せて誘う。
夢を求めた者は死を選ぶ。
約束の果たされた死者は、マリアを崇める。
その先に待つ異世界が、現実より死傷の近い残酷な世界だと理解するのは、その後の話。
マリアにとって、そんなことはどうでもいい。彼女は崇められたその瞬間の快楽が最高で、『転生者』が死地に向かった頃にはもう、次の快楽を求めて新たな『転生者』を探しているからだ。
これの、どこが善だと言うのだ?
「あなたの妹さんの時もそうでした。 遂に私がヒロインになれる番が回ってきたっていう、あの顔……。 嗚呼、思い出しただけで濡れてしまいました……♡」
「それもお前が愛の力とかいうので洗脳してただけじゃねえか!! 結局は自分が他人から特別視されてえってだけのエゴが真ん中だ。 他人を救ってるみたいな言い方してるが、あんな魔物がウヨウヨいる世界に飛ばしといて何が女神だ! 『転生者』の数だけ、お前は人を殺してる。 勝手に死んでったワケじゃねえ、お前がその手で殺してンだ! オレの妹も危ないところだった、このオレもだ! 弱ってる人間ばかりを狙う殺人鬼が!!」
「何とでも仰ってください。 私が善か悪かなんて分かりきったこと、気にもなりませんから。 だって、私は私にとって常に善ですもの♡」
話にならない、吐き気を催す邪悪。
それが、女神ぶったマリアの本性。
その純粋悪が、頭に来る。
「義憤に駆られていらっしゃるようですね」
「あァ……、」
怒りで理性が飛びかける。
それが、頭痛の奥にいる何かの思考介入を許してしまう。
「テメェは……、オレがこの手でぶっ壊して喰ってやンよ」
JACK KINGSLAVE
2,431
274
睡蓮
606
#異能力バトル
名無の男2
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