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( ᐛ )
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#異能力
ここと🌹🫶
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麟兎
25
人間という生き物は、間違っていると断定したものに対して制裁を加える際に脳の快楽中枢が刺激され、分泌された快楽物質が身体を駆け巡ると言われている。
煌は前に図書室で読んだ、とある小説の知識でそれを知っていた。
しかし、そんな興奮のプロセスについて考えていられるほど、その時の煌は理性的な頭ではいられなかった。
「マリア……ぁ!」
押し寄せる衝動。
破壊を求める、暴力的欲求。
滲む視界。
ポタリ、ポタリと流れる黒い涙。
「…………雰囲気が変わりました。 一体何が、」
それを聞き遂げることなく、身体が動いた。黒く染まった床を蹴り、前傾姿勢で風を切って突っ込む。
マリアはマスケット銃を持ち上げ、そのまま予告なく弾丸を放つ。
羽虫を退けるが如く、左の手の甲で破壊し、払う。
「やはり効きませんか。 噂の通り厄介ですね、『特例』の破壊の権能は。 では……、」
マリアの背後に、アーティファクト地味た転輪のような物体が出現する。
その輪はマリアの前にグルンと移動し、その内側に渦巻く光を灯す。
そして、何かが起こる。
「『マリヤ福音書』第一頁、独自捏造。
其れは奇跡であった。
息を吹き返したその方は、
救済そのものであった」
マリアの引用が終わると、転輪から黒い大棘が突き出した。
その正体は巨大なドラゴンの頭部。その一角。
ヴィクトーリア城でアーシアが倒したはずの黒い飛龍が、小さな転輪から顔を出したのだ。
「異世界の女神である私にとって、死した生命を蘇らせ、使役することなど容易なこと。 絶望しましたか? そうでしょう、そうでしょう! あれほどまで撃退に苦労したドラゴンと再び相対する。 これ程までに絶望的な状況が――――、」
「ガタガタうるせェぞ」
ドラゴンの牙間から、口膣で猛る火炎の明かりが漏れる。
が、そんなことをイチイチ気にしてやれるほど、こっちは冷静じゃあない。
「ぶち、まけろ!!」
今にも火炎放射しそうなドラゴンの牙に、拳が突き刺さる。
それは歯茎ごと上顎を破壊し、そのまま舌の奥まで突き進んで崩し進んでいく。
喉に溜まっていた火炎が損失した上部へ向かって爆発的に噴出する。首が炸裂し、ドス黒い血液と共にドラゴンは頭部を失った。
「……私の『引用』に一抹も臆せず、正面から殴打。 無謀なことをされますね。 しかしながら遮蔽物のないこの空間で、もしドラゴンに息吹を放たれれば一巻の終わりだったことは事実。 貴方の行動は正解だったとも言えます」
「理紗が現実で待ってンだ、悪ィが一瞬で終わらすぜ」
「そうは仰られますが、貴方のその表情はこの特別試験をいち早く終わらせようとしているようには見えませんよ? むしろ、その正反対の印象です」
爆散したドラゴンの亡骸の下をくぐり、転輪の奥へ。
マリアに向かって、一直線に進む。
「貴方は――――、この戦いが楽しくて楽しくて堪らないのではないでしょうか?」
こういう興奮時は普通、視野は狭窄するものだが、オレの眼はいつもよりクリアで、広く、鮮明に、安定して視覚できている。
唾液を感じる。早くあいつを、ぶっ壊してやりたい。この手で引きちぎって!
「『マリヤ福音書』第二頁、独自捏造。
而して罪はそこに残留し、
交配する偶蹄目の放牧された
乳と蜜の流れる広大な地すらも、
いずれ全焼の贄に捧げる者が現れん」
引用の直後、新たなる転輪がマリアの背後に出現する。時計の様なデザインのそれには中心を軸にした針が取り付けられており、緩やかに回転している。
「これは、貴方が神へ捧げる贄とされるまでの時間制限を示しています。 この針が一周と半刻を刻んだ時、貴方の肉体は内側から炎上し、白骨となるまで止まらない……。 これは貴方の力では対策できませんよ。 破壊の権能は直接触れなければ発動できない。 これは、貴方自身が接触したと認識していなければいれないということですよね? でしたら、目視することのできない肉体の内側の炎は破壊することが出来ないのではないですか?」
「どォやらオレを殺すために必死になって色々考えたみてェだな? 異世界でドラゴンと戦ってンのを盗み見してガリ勉かよ、努力家すぎて笑っちまうぜ」
「それが最終試験官としての役目ですから♡」
時限で身体の内側から発火を起こす『引用』、どう考えても厄介な力だ。
まともな思考をしていたら、対処法を考えてジタバタしてる間にやられていただろう。
が、今のオレは違う。
キラは悩まない。
「さあその身を焼きなさい。 最後の審判はまだ先です、その日まで残すはずだったその肉体は、罪焼きの火によって――――、」
「ガタガタうっせえっつってんだろうが! 何が時間制限だ、そんなのはテメェを速攻でぶっ殺しちまえば関係ねェだろうがッ!」
大脳で考えず、脊髄で反射する。
理性を捨てて、破壊を追求する。
「……愚直ですね、貴方はもっと賢い方かと思っていましたが。 では越えてみなさい、私の与える試練を! 黒の五十、詠唱破棄。 『泡沫睡蓮』!」
女神ってのは、異世界の魔法だって自由に使えるらしい。
マリアの指が宙に陣を描くと、そこからウォータースライダーみたいに自在に曲がりくねる重力無視の滝が出現した。
「これは只の水流ではございません。 その流れの中には、鋭角な雹が幾千、幾万も行き交っております。 滝に飲まれれば高圧により身体は潰れ、雹のナイフによって切り刻まれる。 貴方の破壊は個別の物しか破壊できない。 そして恐らく、一度に多量の物を対象にはできない。 その絶対破壊の権能と言えども、この魔法までは耐え凌ぐことは出来ないでしょう! さあ、どう抗うのか私に見せて下さい!」
滝は蛇の塒を巻くようにキラを取り囲み、マリアへの接近を阻む。
触れれば勢いに持っていかれ、中に入ろうものなら氷の刃に刻まれる。しかし、魔法が消えるまで待っていたら今度は『引用』による死の時間制限で炎上する。
そんなキラが取った行動は、
「……私の話を聞いていましたか? どうして自分から水流に触れようとしているのです?」
「テメェの言う通りだ。 オレの破壊はドラゴンの鱗みてえに全体に繋がってねェもんや、炎みてえに不定形な対象には上手く作用しねェ。 だがなァ、そンなのはいくらでもどうにかなんだよボケ女が」
キラの指先が、水流に触れる。
指先の火傷していた皮が擦り切れる痛みを合図に、破壊を走らせる。
「この水そのものじゃあなく、水流に宿り、形成し、水を束ね操っていた魔力を破壊する」
破壊が成る。
光るヒビ入りが表面を走り、砕けた。
滝は崩壊し、バケツをひっくり返したみたいな大雨がキラの頭上から降り注いだ。
「……異世界で魔力の存在を知ったことが功を奏しましたね。かつての貴方では対処不可能だったことでしょう」
水を吸って重くなった羽織りの黒布を、片手の破壊で引きちぎって捨てる。びしょ濡れでマリアを睨む。
「……どうやら変わったのは、雰囲気だけではなかったみたいですね。 アルビノ患者の様な色の抜けた白髪、結核患者の眼の様に深い隈……、先程までとはまるで別人です」
「どォでも良いだろ、そんな事はァ!!」
濡れた前髪で隠れていたキラの顔面に、マリアも気付かぬ間に鉄仮面が張り付いていた。
その穴から覗く眼が、紅く煌めく。
「『爆弾造り』。
『名もなき与罰蕾鞭』ッ!」
罪人に罰を与える肉裂きの痛鞭!」
濡れた床に左の拳を叩きつけ、拳骨の皮膚を傷つける。そして拳を引き上げると、流れる血液が縄のように垂れ下がった。
血液は織物か綾取りみたいに織り重なっていき、手の甲から繋がる一本の赤黒い鞭と成る。
キラはそれを投げ縄でもするみたいにブルンと振るわせて、マリアへ振るった。
その距離では到底届きはしない。そう高を括り、次の魔法の準備に入ろうとしたマリアの手首に、突如として全長を伸ばした黒鞭が巻きついた。
「捕まえたぜ……!」
鞭の先端に付いていた蕾が、自我を持ったみたいに絞める力を強めて手首から内側に入り込もうとする。
その痛みは凄まじく、マリアは声も出せぬまま膝から崩れ落ちた。
キラはその隙を見逃さない。
鞭を手繰り寄せ、前進し、握り拳をためて、
「女神だの何だのしらねェけどよォ、仮面ぶっ壊しちまえばテメェはただの非力なサイコパスに成り下がンだろうが! ガタガタ言ってねえで神頼みのひとつでもしてろ、クソシスターッ!」
そのまま女神みたいに優しい顔立ちをした石仮面を、右の拳で、思い切り、ぶん殴って叩き割った。
破片と共に、マリアの身体が後ろへ飛ぶ。
が、キラの猛攻はこれだけでは終わらない。
伸びていた鞭を、今度は一気に縮める。巻きついていたマリアの腕が引っ張られ、仰け反っていた上半身が付いてくる。
「こんなもんで終わりだと思ってンのかよ、アァ!?」
そのままマリアの髪を引っ張り、顔面を床に叩きつける。
バチン、と張扇で叩いたみたいな高い爆発音。それを聞いたキラは恍惚に身を捩らせる。
「ハハハッ! スゲー良い音した。 野球だったらサヨナラホームランクラスの打球音だろうな?」
「……ご、ぼぅ、」
「アァ? はっきり喋れよッ!」
キラが左腕を振るうと、繋がれたマリアの身体が浮いて転がる。
仰向けになった所で腕の巻き付きを解き、胴体に向けて黒鞭を叩き込み始めた。
鞭の先の蕾が、マリアの皮を服ごと引き裂いていく。
「オラオラオラァ!! どうしたよ『少数派』! あンだけ息巻いてたのにいざ喧嘩になりゃこれかァ? 遠くから他人操って良い気になってただけだもんなァ!?」
五、六度ほど鞭を振るっただけで、マリアはボロボロになっていた。服は破け、はだけた豊満な胸元を曝け出し、裂けた皮膚からは血が流れる。
それなのに、マリアは笑っていた。
「……いいのですよ、貴方の欲求を、私にぶつけなさい。 全て、受け止めてあげますから。 ……父に慣らされました。 痛みや汚れを受け止めることは、相手方を愛することだと。 私は、貴方も、愛して差し上げます……、から……」
「あァ?」
鉄仮面を引き剥がして捨てると、鞭が液状化してマリアの上半身に降った。
その細い首を両手で掴み、絞め上げる。
「何を余裕な顔してンだ? 興醒め狙いかよ、くだらねえ! オラ笑えよ、笑って見せろ!!」
「ぐ、ぅ……、あなた、は、気づいています、か? この戦いの目的、が、現実に帰る、ことから……っ、私を痛め、つけることに変わっている……、ことを……」
「いいや、忘れちまったねェ。 不運なことにオレは忘れっぽいタチらしくてなァ」
「……いい、のです。 いいのです、よ。 私は、それでも貴方を……」
首を絞めるキラの手の甲を、力が抜けたマリアの震える指が撫でる。
直後、彼女の顔に再びエメラルドグリーンの女神の仮面が現れた。
「愛して、愛させてみせますから」
マリアの目が紅く煌めく。
それは、紛うことなき権能発動の挙動だった。
「『実像崇拝』……♡」
マリアの権能。
礼拝堂で聞いた話の通りなら、その効果は愛の強制。
他人の心を操る、接触型の洗脳タイプ。
「怒りで我を忘れて私に触れたのは、失策でしたね……。 触れなければ、私なんかを愛することなんてなかったでしょうに……♡」
「あ、愛……!」
手の力が抜けていく。
マリアの首に触れている事実に、胸が高鳴る。
「さあ、その手を離しっ、てぇッ……!?」
キラの手は、マリアを愛する前よりもずっと強く首を締め上げていた。
それこそ、そのまま殺してしまいそうな程に。
「あァあァ!! 愛してンぜマリア様よォ!! 愛して愛して愛しすぎてさァ! もう我慢できねェよ殺しちまうよォ!」
「ぐ、ぁ……!」
「なぁマリア様ぁ、オレの愛を受け取ってくれよ!! 愛が溢れて仕方がねェよなぁなぁなァ!!」
キラはマリアの石仮面を舌で舐め上げ、優しく破壊する。
静かに割れ落ちた仮面の下で、マリアは顔を真っ赤にして口をぱくぱくと動かしていた。発声すら出来ず、ただただ身を艶めかしく捩らせ続ける。
「愛の形は無限大とか言ってたよなぁ!? そンならよォ、オレの愛の形はこれだぜ! 愛したもんをぐちゃぐちゃにぶっ壊しちまわねェと気がすまねえンんだよ!!」
マリアの血で赤くなった手を、自分の額にあてるキラ。
そのまま手を下ろし、顔面を血で撫でる。
すると、キラの顔にはマリアと同じ青銅の仮面が血濡れの状態で現れた。
仮面に刻まれた表情は女神からは程遠く、歪な笑顔、吊り上がった眼、尖った歯並び……、それはまるで、
「あ、く…………、ま」
「テメェから奪ったこの仮面をつけた瞬間、オレの中に流れ込んで来たぜ。 お前の過去のビジョンが! 子供ン頃に父親に嬲られたのか? それを愛だと思い込まされて? ハハハ! カルト宗教地味てンなァおい? じゃあよォ、折角ならその頃の再現でもしてみようじゃねえの。 もう察しついてんだろ?」
マリアの愛情を湧かせる権能は、自由自在にあらゆる形の愛を強制させることができる。
肉体の愛、友情の愛、崇拝の愛……。
ならば当然、血縁的な親子愛を湧かせることも可能ということになる。
「『実像崇拝』。
さァ思い出せ、父親に痛めつけられた日々を!
聖職者どもに犯され続けた陵辱の過去をッ♥」
マリアの肌が、より赤く変色していく。
絞首による血流停滞が、まるで愛の火照りみたいに。
そう見えてしまうのは、マリアが笑顔を絶やさないからだ。彼女のそれは、苦痛を受けている表情ではない。
痛めつけられていても、暴行されていても、決して苦しい顔をしない。抱擁の笑顔を続ける。
そうするように、父親たちに教え込まれたから。
それがマリアにとっての、家族愛の形だったから。
コメント
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うわっ……第125話、一気に持ってかれた……。 キラの変貌ヤバすぎる。「愛してるから♡♡♡」って、もう完全に狂愛の域だよね。マリアの過去もエグすぎて、彼女の「愛され方」の歪さがキラの破壊衝動とシンクロしてる感じが鳥肌立った。 「ぶちまけろ」の破壊力、脳内で映像が流れたよ。 この戦い、ただのバトルじゃなくて、お互いの傷をさらけ出す儀式みたいで、すごく重くて美しかった……。