テラーノベル
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僕はここで働きたかった。
殺されたくないからって言うのもあるけど
幼い頃、両親を交通事故で亡くして妹と一緒に生きていた。
貧しい生活だったが、一人じゃないという安心感で幸せだった。
…それが幻となったのは先月
あんなに元気だったのに
いつも僕を見かけたら抱きついてくれたのに
その後、僕は一人で生きてきた。
貧しい生活で心身ともに疲弊してくるときもあった。
だから孤独は嫌だった。
この「働かせて下さい」と言った理由は
だから僕はこんな決断をした。
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かと言っても、こんなのは叶えてくれないだろう…と思っていると
「ふむ…承知」
「え?」
驚いた…
こんな願いも叶えられるのかと思った。
「それではお代を頂戴しよう…と思うのですが… 何か自分の宝物がありますか?」
「宝物…」
願い事を叶えるには相当の代償が必要なのだろう。
僕の宝物は古びた絵本
両親によく読んでもらった覚えがある。
その後古くなっても妹によく読み聞かせていたな…これが一番の宝物。
でも宝物だから渡すのも何か嫌だった。
手が震えて力が出ない…
そんな僕の様子を察したのか、女の人は言った。
「…じゃあ貴方の
ゲームの時間か…放課後ってことかな
趣味の時間を減らすのは少し悲しいけど
こんなの家族の大事な思い出の品を無くすよりはマシだった。
「はい…それでいいです!」
「了解しました。それならこれからは毎日ここに来てください」
「どうやってですか…?」
(選ばれし者は1回しかその店に行けないと噂の話では聞いたが…)
「ご安心を。またここに来れば店は現れますので…ただし」
女性は険しい顔でこう言った。
「これは絶対に他の人に言わないこと」
(やっぱり扱い方を誤っちゃ駄目なんだ…)
僕はしっかりと脳に言い聞かせて
首を縦に振った。
彼女の微笑みは怖いが
意外に優しい人なんだなと感じた。
ドアの鈴がチリンチリンと鳴る
眩しい真っ白な光がドアの隙間から差し込んできた…
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気がつくと元の帰り道に戻っていた。
「あれ…夢だったのかな」
黄昏時の茜色の斜陽が街を照らす。
僕は不思議に思いながら帰った。
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その頃《店では》
~♪~♪
店内にオルゴールが鳴る
ごちゃごちゃな音楽だがこれがまたいい
耳を澄ませオルゴールを聴きながら、商品の制作を開始した。
「まだ使えるものなのに…可哀想」
中には新品のおもちゃや指輪、ネックレスなどの高価なものも混じっていた。
その中に込められた感情・表情を想像しながら裁縫を始めた。
嬉しい、楽しい、幸せというものもあれば苦しい、憎い、不幸というものもある。
そんなものが込められた宝物
思い出がたくさん詰まった宝箱ともいってもいいかな
願いよりも宝物の方が価値が大きい
でも人は欲に溺れるから
そんなこと知りやしないだろう
今日のお客様ば意外なことを言った
生涯孤独は流石に不幸といってもいい
だが
形見は流石に貰えない
形見は死んだ人がまだ生きている証拠といってもよし
まあ明日も来るだろうから
家事頼もうかな
明日のお客様は
私は裁縫用具を作業机に置いた。
「できた」
新しい商品を窓際に置く。
オルゴールを全部止めて
掃き掃除をパパッとすれば終わり。
暗くて見えずらい裏口に手を掛けた。
カチャリと音が鳴って
中の部屋に入る。
…欠けた満月は銀色に輝いていた
紺色の空に淡い白の星が浮かんでいる。
静かな街
賑やかな酒場
そして暗いお店
明日は誰が来店するのか
いらっしゃいませ
さあ、言ってみて下さい
何でも叶えます
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