テラーノベル
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「遅いわよ 早く来なさい、そんな速度じゃ日が暮れるわよ」
「ハァ、ハァ…んなこと言われても、背中の傷が痛むんだよ!」
心臓は締め付けられ、走る度に息をすることもままならなくなる
首からかけた懐中時計で刻を見つめながら異様なスピードで山道を歩くゼット。
それと杖をついてゼェゼェと満身創痍で歩く俺。
その光景は異様そのものだ
何故こんなことになったかと言うと
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回想
龍神大和はベットに寝ていた。
背中には薬液に浸した包帯が巻かれており、少し痛みが引いていっている
ゼットによると、〘ハングリーエレガンス〙の唾液から作った特性薬だそうだ
俺は全人生を賭けてそれを回避しようと逃げ回ったが、傷が足を引っ張って捕獲された俺は無事ハングリーエレガンスの犠牲となった
(なんでハングリーエレガンスなんだよ…どうせならマリニャンとかハラグロXの唾液が良かったよ…)
決して、決っして他意はないがそんなことを考えていた時
(ビーストフォークとか、スノフェアリーのデッキとかの可愛いデッキも作ってみたいな…今まではドラゴンがカッコイイからモルネクばかり回してきたが…って)
俺はとあることに気づき、コーヒーをを煎れているゼットに声を掛ける
「なぁ、俺のカバン知らないか?大事なもの入っるんだけど」
あのカバンの中には俺が一から育てたモルネクデッキが入っている。
ここに来る時、確かに一緒に飛ばされていたはずだ
「あぁ、落ちていたわよ…これのこと?」
そう言ってゼットが掲げたのは青色の肩掛けカバン
所々に泥が着いており、ほつれている所が多々あるが長年の相棒をそう忘れるものではない
急いで駆け寄ってひったくるようにカバンを開けると、中にはヴァリケリオスムサシのデッキケースが入ってあった
「そうだ!これこれ!やっぱ同じ所に飛ばされてたんだな!」
俺は再会の喜びに思わず飛び上がる
…背中の包帯のことも忘れて
直後、俺の背中に鋭い痛みが突き刺さる!
「!!…いってぇ!」
「馬鹿なの?」
ゼットの辛辣な言葉を返す余裕もなく俺は床に蹲る
「貴方をここに連れてくる時、意識がないはずなのにずっとこれにしがみついてたのよ、余程大事なものが入ってるのね」
「いってぇ…あぁそうだよ!俺の全てが詰まってるんだよ!」
冗談抜きにこれは俺の青春の全てだ
俺は今の人生の大半をこのカード達に捧げてきた
高校の同級生がバレンタインの日に浮ついている時も俺はカードのことを考えていたし、クリスマスに友達が彼女とデートしてる時も俺は家に引きこもってカードのことを考えていた。
まさにデュエマは俺の人生そのものだ
…なんで涙が出てくるんだろう
「泣くほど嬉しいのね」
「いや…ちが…もういいや」
なんか勘違いされてるが訂正するのも面倒臭いし悲しいからそのままにしておくことにしよう
遅れた紹介だが俺の名前は龍神 大和
ついさっき謎の穴に吸い込まれ、デュエマの世界に転移したごく普通のDMPだ。
あれから分かったことがあるので整理していこう
この世界だが、やっぱりデュエマの世界で間違いないようだ
インビジブル大陸よフィオナの森という地名、レッドゾーンゼットという名前で薄々気づいていたが、さっき水がないか聞きにいった時に窓から見えたものを見て確信した
「ぐええええぇぇぇ!」
「……」
飛行機と同じサイズの鳥みたいな生物が飛んでいた
それを見て、俺は確信した。
あれは始祖目 フェニクドラだと
あれはデュエマのクリーチャーであり、ジュラシックコマンドだと
紙ではバニラの雑魚カードでも、実際に見るとひ弱な自分は一瞬で蹂躙されるということが嫌でもわからされる
やはり、自分はデュエマの世界に転移したようだ
そして、もう1つ分かったことがある
それは俺をここに連れてきたあの穴のことだ
あの穴は曰く〘超次元ホール〙と呼ばれるものらしい。なんの予兆もなくどこからともなく現れては巻き込まれたものを別次元に移動させるらしく、この世界で予測可能回避不可能の災害として恐れられているらしい
詳しいメカニズムは何も分かっておらず、巻き込まれた者が命を持って見つかった例は聞く限り俺が初めてだという
それを聞いて俺は少なからずもブルった
そりゃあみんな行方不明になってる現象に巻き込まれたけど貴方だけは無事だったと言われたらビビらないほうが不思議だろう
残してきた家族のことは心配だが、とりあえず自分の体の無事に改めてホッと胸を撫で下ろした
そんな時だった
「出かけるわよ」
いつの間にか部屋に入ってきたゼットがそう言ったのは
回想終わり
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「…回想してもやっぱりよくわかんなかった」
「急に何を言い出してるの、早く歩いて」
「歩いてるわ!なんなら走ってるわ!ていうかなんでお前は歩いてるのにそんな速いんだよ!競歩かよ!!」
前を進むゼットは涼しい顔で歩いているというのに、肩で息をしながら走っている俺の2倍近い速度で進んでいく
オリンピックでなよ
「貴方が遅すぎるだけよ、私これでもトップスピードの5分の1くらいにまで落としてるわよ、貴方に合わせて」
「…嘘だろ」
その時、俺の背後で雷が落ちたような衝撃があった
流石に女の子に貴方に合わせているなんて言われたくなかったよ…
てか、これで5分の1って…本気を出したらどれくらい速いんだ…?
バイクの名は伊達じゃないってか
…というか、ゼットはクリーチャーなのか?
走りながら思案する
見た目は何の変哲もない人間だが、この俊敏性とスタミナは明らかに人間のものではない。
それこそ、元となったバイクのような機動力だ。
これだけならゼットはクリーチャーで確定ということになるがすると、引っかかる所が出てくる
俺たちはこの山道を走っている間に何体かクリーチャーを遠目で見ていた
双撃目アロサウロや、どんぐり軍団など主に自然のクリーチャーを見かけたが、その全てデュエマのカードイラスト通りの見た目だった。
それならこいつがレッドゾーンZならカードのままのメカニックなロボの姿になるはずだ。
女Ver.のカードなんて見たこともないし、なんならレッドゾーンZは再録すらされてない
「なぁ、ゼットって…うぉ!?」
何者なんだ…と聞こうとしたら、ゼットが目の前で止まっていた
考え事をしていたせいで前を見ておらず、 勢いよくゼットの背中にぶつかってしまう。
「いってぇ…どうしたんだよ急に」
「目的地に着いたからに決まってるでしょ、何を余所見しているの」
呆れた顔で倒れた俺を見下ろすゼット
男子高校生の俺が思い切りぶつかったのに、体制を崩していないどころか表情すら涼しい顔のままだ
体幹どうなってんだよ…
「よいしょっと、ここが目的地なのか?」
「そうよ」
そこにあったのは山の中には不似合いな錆び付いた建物
風に吹かれてギシギシと音を立てる姿はさながらお化け屋敷を連想させる
「今更すぎるけど、俺たち何処に来たんだ?」
「あら、言ってなかったかしら」
「聞く暇もなく連行された」
「…ここはフィオナ研究所よ ここには色んな学問に精通している ある博士がいるから貴方のその背中の傷の状態とか、超次元ホールのこととか色々聞こうと思ってね」
華麗に俺の皮肉を躱したゼットは、表情をかえぬままあっけらかんとそう言い放った
「そんな人がいんのか…ていうか、研究所?こんなボロいのがか?」
「ボロくて悪かったな」
「うぉ!?」
直後後ろから嗄れた声が聞こえ、回転するように後ろを振り向くとそこには腰を曲げ、杖をつき、ふっとい白眉毛で目を隠した細身のおじいさんがいた
「だっ…誰?」
「貴方がボロくてダサくて風が吹いたら飛んでいきそうと言った研究所の博士よ」
「「そこまで言ってないだろ」じゃろ」
無意識に俺とじいさんの声がハモる
初対面なのに無駄なコンビネーションだ
てかこの子、何真顔で罪を上乗せしようとしてるんだ?
そんな焦りから浮かんだ青筋に返ってきた返事は1つだった
「冗談よ、立ち話もなんだし一旦入りましょう」
「ワシの研究所ぞ!?お前が言うのか!」
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「ほう…超次元ホールから生きて出てきたか人間か…珍しい」
「何か分かることは無いかしら」
その後、建物の中に入れられた俺たちは応接間らしい部屋に通されていた。
ちなみに らしい とつけているのは建物の中に散乱している書類が部屋を覆い尽くしており、どこがどこなのか全く分からないからだ
手っ取り早く言おう
散らかりすぎて、建物内の構造が全く分からなかった
まぁ、そんなことはどうでもいい
「あの〜ゼット…」
俺はソファに座り、思っきり床に落ちてる書類を踏みながらミステリー本を読むゼットに声を掛ける
「?…どうしたの」
「このおじいさんは結局なんなの?」
「後で教えるわ」
ただ一言そう言って再び本に顔を落とすゼット
「なぁ、ゼット」
「…次はなに」
「今、俺は何をされそうになっているの?危なくないよね?」
俺は何故か診察台らしい物に寝かされていた。
…何故か手と足を枷で括り付けられながら
「安心せい、この名博士『サイドウ ケン』にかかればなんの心配もないぞ!…多分」
「多分ってなんだ!?おい大丈夫なんだよなゼット!?俺何されるの!?」
「……」
「黙るなぁ!**おい離せジジイ!**待て、その注射は何?待って、ごめんって、ちょっとほんとに…アァァァァアァァァァァ”ァ”ァ!?」
謎の注射針を腕に刺されると、突然眠くなっていった俺はそのまま意識を手放した
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制作裏話
この話に登場する双撃目アロサウロのAIの概要に、攻撃的な要素を加えるために使われることが多いと書かれていたので、そっとバットマークを押しときました
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