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翠玲
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生徒会室には、静かな時間が流れていた。
窓の外では、部活動へ向かう生徒たちの声がかすかに聞こえる。
夕焼けは少しずつ赤みを増し、部屋の中を柔らかな光で包んでいた。
こさめは俯いたまま、制服の裾をぎゅっと握りしめていた。
🦈「……そんなに。」
小さな声が漏れる。
🦈「そんなに前から、見ててくれたの……?」
👑「うん。」
みことは迷いなく頷く。
👑「一年生の頃から。」
🦈「……。」
👑「だから、こさめちゃんが誰にも入札されないたびに、すごく悔しかった。」
🦈「どうして?」
こさめは顔を上げる。
頬は少し赤くなっていた。
🦈「こさめなんて、普通だよ?」
🦈「勉強もすごくできるわけじゃないし。」
🦈「運動も普通。」
🦈「委員会もやってないし……。」
🦈「ポイントも全然持ってない。」
🦈「だから誰も入札しないのは、当たり前で……。」
👑「当たり前じゃない。」
その一言に、こさめは言葉を止める。
👑「この学校は、ポイントばかり見てる。」
👑「でも、人の価値はポイントじゃ決まらない。」
👑「俺はそう思ってる。」
みことの声は穏やかだった。
けれど、一つ一つの言葉には揺るがない信念があった。
👑「こさめちゃんは、人のために動ける。」
👑「見返りなんて求めない。」
👑「誰かが困ってたら、自然に手を差し伸べる。」
👑「そんな人、そうそういないよ。」
こさめは何も言えなかった。
褒められているはずなのに、胸の奥がじんわり熱くなる。
🦈「でも……。」
こさめは小さく笑った。
🦈「それでも、誰も選んでくれなかった。」
その笑顔はどこか寂しい。
👑「……違う。」
みことはゆっくり首を振る。
👑「選べなかった人もいる。」
🦈「え?」
👑「この学校のオークションって、一回参加すると途中で降りられないでしょ。」
🦈「うん。」
👑「だから、多くの人はポイントを貯めることばかり考える。」
👑「文化祭ペア券。」
👑「デート券。」
👑「告白権。」
👑「人気のある子。」
👑「勝てそうな相手。」
👑「そういうものばかりにポイントを使う。」
🦈「……。」
👑「こさめちゃんを選ばなかったんじゃない。」
👑「選ぶ勇気がなかった人もいたと思う。」
🦈「勇気……?」
👑「うん。」
みことは少し考えるように窓の外を見る。
👑「こさめちゃんって、優しいから。」
👑「誰にでも同じように接するでしょ?」
🦈「……そうかな。」
👑「そうだよ。」
👑「だから『自分だけ特別になれる』って自信が持てなかった人もいると思う。」
🦈「そんな……。」
こさめは首を横に振る。
そんな風に考えたことは一度もなかった。
👑「でも、俺は違った。」
みことは再びこさめを見つめる。
👑「俺は、こさめちゃんを誰にも渡したくなかった。」
🦈「……え。」
👑「もちろん、縛りたいって意味じゃない。」
👑「でも。」
みことは少し照れたように笑った。
👑「卒業まであと一年もない。」
👑「このまま何もしなかったら、きっと一生後悔すると思った。」
👑「だから全部使った。」
👑「後悔しないために。」
こさめはみことの顔を見つめる。
その表情には打算も見栄もない。
本当に、そう思っているのだと伝わってきた。
👑「でもね。」
みことは少しだけ真剣な表情になった。
👑「ここからが一番大事。」
空気が変わる。
こさめも姿勢を正した。
👑「昨日、落札された時。」
👑「契約書を見た?」
🦈「……少しだけ。」
🦈「恋人契約、って書いてあった。」
👑「そう。」
みことは机の引き出しから、一枚の書類を取り出した。
学校の印が押された正式な契約書。
そこには細かな規約がびっしりと並んでいる。
👑「普通、この契約は絶対。」
👑「一年間確定は解除できない。」
👑「落札された側は、落札者の恋人として学校生活を送る。」
こさめは小さく頷く。
それくらいは知っている。
👑「でも。」
みことは契約書の一か所を指差した。
👑「生徒会長には、一つだけ特例権限がある。」
🦈「え?」
👑「双方の同意があれば、契約を無効にできる。」
こさめは驚いて目を見開く。
🦈「……そんなの。」
🦈「知らなかった。」
👑「知らない人の方が多い。」
みことは苦笑した。
👑「だから。」
みことは契約書をそっとテーブルへ置く。
👑「こさめちゃん。」
👑「俺は、この契約を強制する気はない。」
🦈「え……?」
👑「もし。」
👑「今日話を聞いて。」
👑「やっぱり嫌だと思ったなら。」
👑「今ここで終わりにしよう。」
生徒会室が静まり返る。
👑「ポイントは返ってこない。」
👑「二億も全部なくなる。」
👑「でも、それでいい。」
👑「俺が勝手に決めたことだから。」
👑「だから。」
みことは優しく笑った。
👑「こさめちゃんが自由に選んで。」
その言葉を聞いた瞬間。
こさめの胸がぎゅっと締めつけられた。
🦈(自由に……。)
昨日までの自分なら。
迷わず契約を解除していたかもしれない。
知らない先輩と恋人なんて、不安でしかない。
だけど。
今は違う。
一年もの間、自分を見ていてくれた人。
誰にも気づかれない優しさを知っていてくれた人。
誰にも競り負けないように、全財産を使った人。
そんな人を前にして。
🦈「……嫌じゃない。」
自然と言葉がこぼれた。
みことが少し驚いたように目を瞬かせる。
👑「こさめちゃん?」
🦈「まだ……。」
こさめは恥ずかしそうに笑う。
🦈「恋とかは分からない。」
🦈「でも。」
🦈「みこちゃんのこと、もっと知りたい。」
初めてだった。
こさめが「みこちゃん」と呼んだのは。
その呼び方に、みことの目が大きく見開かれる。
👑「……今。」
🦈「え?」
👑「みこちゃんって。」
🦈「あっ……!」
こさめは自分で言ってしまったことに気づき、耳まで真っ赤になる。
🦈「ご、ごめん!」
🦈「その、つい……!」
慌てて謝るこさめ。
しかし。
👑「ふふっ。」
みことは嬉しそうに笑った。
👑「謝らなくていい。」
👑「すごく嬉しい。」
その笑顔につられて、こさめも笑ってしまう。
張りつめていた空気が、ふっとほどけた。
その時だった。
コンコン。
🍵「みこちゃん。」
扉の向こうから、すちの声が聞こえる。
🍵「そろそろ職員室へ提出する書類があるんだけど……。」
👑「あ、ごめん!」
みことが立ち上がる。
👑「今行く!」
🍵「ゆっくりで大丈夫だよ。」
すちの優しい声に、二人は思わず顔を見合わせて笑った。
生徒会室には、穏やかな空気が流れる。
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