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「しょうもないとは何ですか! ツインテールこそ至高! ですよねムームーさん!」
ラクスが真剣に反論した。その目には、何やら熱いものを感じ取り、パフィ達が思わず少し怯んでしまった。
「いや、そん──」
「ムームーさんは分かっていらっしゃる! このトランザ・クトゥンにも貴女程の素晴らしいツインテールはそうそういません! ツーサイドアップ派の愚か者共を滅亡させる為にも、貴女方にはぜひ我々のツインテール派に入っていただきたいのです!」
「必死ねぇ……」
ムームーに拒否する余裕を与えないよう、ラクスは話すタイミングを合わせてまくし立てる。
勢い任せで自分のペースに巻き込んだラクス。そう、勢い任せである。
「なんなら皆様、全員でツインテールになりましょう! きっと可愛いですよ!」
「え、俺!?」
いきなり横を通った男性を捕まえ、ツインテールを強要しだした。巻き込まれた男性は驚きのあまり目を白黒させている。
「俺は自分でするより見る方が……」
「じゃんっ! ここに取り出したのは、髪型をツインテールにセットするアーマメント!」
「聞けよ!」
どこに持っていたのか、色々なギミックが搭載された椅子を置き、ラクスは意気揚々と男性を座らせた。そして起動。
「アーマメントって武器とかだけじゃないのよね。家具のとか結構便利そうだし、欲しいなぁ」
「そういう物なのよ? そういえば昨日もいろんな道具を見たのよ」
なぜか道のど真ん中でヘアスタイルをセットされている男性を眺めながら、ネフテリア達はアーマメントの話を始めた。
「歓迎会の時も、飲み物を簡単に入れる道具を見ましたね」
「料理とかに使えるのもあるのよ?」
「混ぜるのとか、細かく切るのとかは見た事あるよ」
「へー」
「その辺はラスィーテ人には微妙よね……まぁ後で色々見てみましょ」
「他には~……」
楽しそうに盛り上がっている。
しばらくすると、セットが終わった男性が椅子から解放され、不本意感丸出しの顔で立ち上がった。そしてネフテリア達を見た。
『……っ』
「いっそ笑ってくれ! なんでこんな……」
『ぷすーっ! あはははは!』
ネフテリアだけでなく、集まってきた人々が、こらえていた笑いを一斉に吐き出した。
「似合っているわよ」
「ついでに女装するか?」
「しねえよ! こっちみんな!」
「いいじゃん。はみ出るか試してみようよ」
「いやいやいや待て待て待て落ち着け! それは誰得なんだよ!」
「いつの間にこんなに見物人が……」
のんびりしている間に、ネフテリア達はたくさんの人達に囲まれている事に気が付いた。
(うーん、人通りの多い所で何かをやっていたら、そりゃ立ち止まって見物するよねぇ)
思わず苦笑したムームーと視線が交わった時、ラクスは笑みを浮かべた。なにやら自信ありげな態度で、改めてムームーに近づく。
「流石はムームーさん。やはり只者ではないとは思っていました」
「ん?」
「お察しの通り、我々がツインテール派のメンバーです。ここにいるのは、ツインテールをこよなく愛し、そしてツーサイドアップを滅ぼす為に集まった同志達」
「え? そーなの?」
「そーなんで……えっ」
何故察していると思ったのか。ムームーもネフテリアも、ただ見物人が多いなーと思っていただけである。そもそも察する為のヒントが無い。
「あのほら、ムームーさん程の方であれば、ムームーさんがいた世界でも、ツインテール派に誘われたりするでしょう?」
「でしょう?って、アイゼレイルにはそんな組織無いけど……」
「そんなバカな!」
ラクスの目が驚愕で見開いた。近くにいたツインテール派の者達も、一緒に驚いている。
「パフィ、ツインテールを愛する集団って見た事ある?」
「無いのよ。なーんで全リージョンにツインテールの派閥がある前提で話をしてるのよ?」
「な、なんてこと……」
ヨロヨロとふらつき、ラクスは膝をついた。他のリージョンにツインテールを志す仲間がいない事を知り、相当ショックだったようだ。
しばらくの間、ツインテール派の集団は、悲しみ、嘆き、そして励まし合っていた。
その中でただ1人、今の状態でどう嘆き悲しんだらいいのか分からないのか、ツインテールにされた男性は気まずそうに、そして目立たないように動いていた。自分のアーマメントを使ってツインテールを隠すという、涙ぐましい努力をコソコソと行っている。
「ぱひー?」
「ああ、何でもないのよ。ねぇムームー、話は続きそうなのよ?」
「いや私に聞かれても……。あの、もう行っていいですか?」
アリエッタに急かされたわけではないが、流石に子供には退屈だろうと思い、パフィ達はこの場所から去ることにした。
しかし、それで我に返ったラクスが、焦ってムームーに縋り付く。
「いえあのっ! やはりツインテールを愛さないというのは、人生の殆どを損していると思うんです!」
「どれだけツインテールが人生占めてるとゆーのよ」
「ですから、一緒に布教しましょう! ほら、まずはファナリアという魔法の世界から!」
「わたくし達のリージョンに変な宗教持ち込まれても……」
「何を言うんですか! ツインテール魔法少女ですよ! 伝説の!」
「伝説!?」
魔法の無い世界なので、本物の魔法を使うファナリア人は空想の存在そのものである。もっとも、それ以外のリージョンの事は知らないので、魔法の世界の王女であるネフテリアは当然、ムームーを含む残り3人も魔法少女だと思っていたりする。
「王女様もそう思いますよね! あ、魔法少女とは魔法を使う少女の事です!」
「いや、(魔法少女の意味は)分からなくもないけ──」
「ほら! 流石は王女様! (ツインテールの良さを)分かってくれていらっしゃる!」
「なんか違うと思うけどっ」
(テンション高いなぁ、この人。何喋ってるのかよく分からないけど)
意味が分からず傍観しているアリエッタは一番冷静である。だからこそ、ムームーを助ける手段を手に取っている。
「ぱひー、ぱひー」(やっていいか聞かないと)
「うん? どうしたのよ?」
「これ」
「おおぅ……んー……うん、いいのよ」
保護者から何やら許可が出ると、アリエッタの顔がぱあああっと笑顔になった。
その笑顔の直撃を真正面から喰らったパフィは、目にハートを宿して完全停止してしまう。
「えっ、パフィ何やってんの」
ネフテリアが不穏な気配を発したパフィを見た時、アリエッタが動き出した。
向いた先にはムームーと詰め寄るラクスがいる。
「アリエッタちゃん? うげっ、それって……」
「むーむー、めっ」(むーむーには、くぉんがいるんだから、浮気は駄目だよっ)
ネフテリアがそれを見て顔を歪ませた後、アリエッタはそのスイッチを押した。
「さぁご一緒に! ツインテールこそ覇者のあ──」
「ツ、ツイン……ん?」
いつの間にやら折れかけていたムームーは、途中で言葉が途切れたラクスを改めて見た。言葉だけでなく、動きも止まっている。
この現象に心当たりがあるムームー。当然アリエッタの方を見た。隣にいるネフテリアが、沈痛な面持ちで頷く。
「助かったけど、どーするんですか? コレ」
「えーっと……」
ラクスが突然止まった事で、ムームーだけでなく、周りのツインテール派のメンバー達がザワついている。テンション高く喋っている最中に口を開けて止まってしまった姿を見て、何が起こったのかまったく理解出来ていない。
「ラクス? どうしたの? ちょっとラクス?」
ようやく動き出したツインテール派達。それを見て、ネフテリアが決断した。
「……よし、れっつショッピング!」
「えぇ……」
買い物。またの名を逃亡である。
「それじゃムームー、パフィを運んでくれる?」
「いいんですかね」
「うん、なんかメンドイし」
「理由が雑っ!」
ネフテリアに言われた通り、ムームーは目をハートにしているパフィを縛り上げて背負った。縛った隙間から柔らかい2つの塊が激しく主張をしてしまい、一部の男性陣の目を引いてしまうが、そんな事はお構いなし。
(うわ、ぱひー、えっちいよ)
「まぁ大変。後でそのオブジェ揉ませてくれる?」
「真顔で何言ってるんですかね!?」
結局、停止させたラクスをそのままに、ネフテリア達は意気揚々と次の商業施設へと向かうのだった。
ツインテール派の面々は止まってしまったラクスを見て混乱。ネフテリア達の動きには数名気づいていたが、何をされたのか全く分からず、声をかける勇気が無く、見逃すしかなかったのだった。
「えっ、ちょっと、ラクスちゃんこのまま?」
勢いが良いまま止まってしまったので、あまり無関係の人の目には晒したくない乙女の顔。なぜか動かす事も出来ない人体を隠すべく、大きな布の調達が始まるのだった。
ラクスの姿が見えない場所まで来て、ムームーが疑念を口にした。
「ラスクさん、あんな所で止まったら、いろんな人に変な事されるんじゃ……」
動けないのに何かされるのは流石に不憫ではと、ラクスの事を心配するが、ネフテリアは全く心配していない。気の毒だとは思っているが。
「大丈夫。色々試したけど、この子の止める能力は、空間ごと止めちゃうのか知らないけど、その場から動かせないし、触っても鉄みたいに硬いのよ。手触りだけは布とかのままだけど」
「動かないクリエルテス人みたいな感じ?」
「そんな感じかな。だから、揉んでもこんなに柔らかくないし、何より女性もいたじゃない? そのうち動かせば大丈夫でしょ」
アリエッタの時間停止は特殊で、触ろうが爆破しようが、対象は一切動かないし壊れないのである。原理はアリエッタ本人にも分かっていない。
しかし、アリエッタの能力とは関係無く停止したパフィは、その限りではない。
「って、何しれっとパフィ揉んでるんですかっ」
「バレたか」