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あけましておめでとうございます️️꙳⟡
lr×fw
⟡ 交通事故
⟡ 伏字なし
⟡ ご本人様とは一切関係ございません
第一話:最悪な一日
fw視点
その日は、特別な予定なんて何もない、ただのデートだった。
仕事を終わらせて、久しぶりに二人で外を歩く。
夕方の街はまだ少し明るくて、人通りも多く、どこにでもある平凡な時間。
信号待ち。
横断歩道の点字ブロックの前で、二人は並んで立つ。
会話をしている間に、信号は青に変わった。
二人は同時に一歩、前へ出る。
その瞬間だった。
耳に届いたのは、異様なエンジン音。
ブレーキの気配がない、速度を落とす様子もない、不自然な音。
不破は反射的に、音の方向を見た。
車が来ていた。
まっすぐ、横断歩道に向かって。
減速せず、迷いもなく。
「ロレ!!」
声を出した時には、もう遅かった。
車の進行方向にいたのは、ローレンだった。
ほんの数歩、不破より前に出ていた、その位置。
不破の頭の中で、考えはなかった。
計算も、恐怖も、全部後回しだった。
ローレンの腕を強く引いて、前に出る。
同時に自分がその位置に入る。
「っ……!」
衝撃が来る直前、ローレンの目が見開かれた。
何が起きたのか理解する前の、混乱した表情。
そして、視界が一気に揺れた。
音が、遠くなる。
地面が近づいて、世界が反転する。
ローレンの名前を呼ぼうとしたけれど、声は喉で途切れた。
次に不破が意識の端で捉えたのは、
地面に倒れたローレンの姿だった。
腕を引いた時の衝撃で気を失ったのだろう。
目を閉じている。
動かない。
「…ロレ……っ」
かすれた声が、空気に溶ける。
サイレンの音が、どこか遠くで鳴り始めた。
人の叫び声、足音、混乱した街の気配。
その中心で不破の意識はゆっくりと薄れていく。
最後に残ったのは、
「守れた」という、ただ一つの感覚だけだった。
第二話:救急搬送/目覚めない不安
lr視点
目を開けた瞬間、最初に感じたのは匂いだった。
消毒液の冷たくて無機質な匂い。
ゆっくりと視界が明るさに慣れていく。
天井。
白い照明。
点滴のスタンド。
「…病院……?」
声を出そうとして、喉がひどく乾いていることに気づく。
身体を動かそうとすると、頭の奥がじん、と鈍く痛んだ。
「ローレンさん、気がつきましたか?」
横からかけられた声に、ローレンはそちらを見る。
看護師が穏やかな表情でこちらを覗き込んでいた。
「…俺、どうして……」
言葉を探す途中で、記憶が一気に流れ込んでくる。
横断歩道。
青信号。
異様なエンジン音。
「湊!! !」
思わず身体を起こそうとして、ロレははっとした。
視界の端、隣のベッド。
そこに、不破がいた。
仰向けで、目を閉じたまま。
顔色は少し悪くて、胸が上下しているのがやっと分かるくらい静かだった。
「…っ……」
喉の奥が震える。
「不破さんは、ローレンさんを庇って事故に遭われました」
看護師の言葉は、淡々としていた。
けれど、その一言一言がローレンの胸に深く突き刺さる。
「車が横断歩道に突っ込んできて、
不破さんが、ローレンさんの腕を引いて不破さんが前に出たと」
ローレンの脳裏に、はっきりと思い出される。
強く引かれた感覚。
視界が揺れて、湊が遠のいた瞬間。
「あの時、俺……」
「ローレンさんは、その衝撃で気を失われていたかと思います」
言葉の続きは、耳に入ってこなかった。
視線はただ不破に向けられていた。
眠っているだけのように見える、その姿。
「……生きて、るんですよね…?湊は大丈夫ですか、? 」
自分でも驚くほど、弱い声だった。
看護師は、少しだけ間を置いてから答えた。
「今は、まだ様子を見ています」
それだけだった。
肯定でも、否定でもない、その曖昧さがローレンの心をえぐった。
それからの看護師さんの話はすごく長く感じた。どうやら俺は事故の時に頭を打ち、軽い脳震盪になっているらしい。
少しの間、経過観察を見るためローレンも不破と同室で、入院をすることになった。
それからの日々は長かった。
朝が来て、夜が来て。
点滴が替わり、看護師が様子を見に来て、また静かになる。
不破は目を覚まさない。
ローレンは自分のベッドから降りられるようになると、 ほとんどの時間を不破の隣で過ごした。
「なあ……」
返事がないと分かっていても、声をかける。
「庇うなよ…」
言葉が喉で詰まる。
「俺の方が前に出るべきだった。
なんで…なんで湊が……」
自分を責める声は、誰にも聞かれないように小さかった。
けれど、胸の内では何度も何度も繰り返される。
もし、あの時。
もし、気づくのが一秒早ければ。
もし、立ち位置が逆だったら。
湊はいつもみたいに笑っていたのかもしれない。
夜になるとローレンはほとんど眠れなかった。
目を閉じると、あの瞬間が蘇る。
不破が迷いなく前に出た背中。
自分を守るために、選ばれた行動。
「起きろよ…」
不破の手に、そっと触れる。
温かい。
それだけが、まだ繋がっている証拠だった。
「起きたらさ…
ちゃんと怒るから」
声が震える。
「勝手にいなくなるな。
俺を置いて、そんな選択はするな」
答えはない。
それでもローレンは、そこにいた。
何日経っても不破が目を覚まさなくても。
祈るように。
縋るように。
この静かな病室で、
ローレンはただ、不破が戻ってくるのを待ち続けていた。
第三話:戻ってきた声
退院の日、ローレンは病院の玄関で立ち止まった。
軽い脳震盪。
経過観察のための数日間の入院。
医師は「もう問題ないよ」と言ったけれどローレンの中で終わった感じは、少しもなかった。
それからの日々は、同じことの繰り返しだった。
朝、仕事の合間に来て。
夜、配信を終えてからまた来る。
「今日も来たよ」
「外、ちょっと寒くなってきた 」
不破は眠ったまま。
変わらない呼吸。
変わらない静けさ。
数週間が過ぎた。
「……なあ」
その日は、いつもより声が低かった。
「俺、ちゃんと待ってるから」
指先がわずかに震える。
それが自分の手なのか、不破のものなのか、分からないくらいに。
「だから…早く帰ってこいよ」
祈るように握った手。
何度も何度も。
―その時だった。
ほんの、ほんのわずか。
指が、動いた。
「……え……?」
ローレンは息を止めた。
見間違いだと思った。
期待しすぎて、幻を見たんだと。
けれど。
もう一度、確かに。
不破の指がローレンの指を弱く掴んだ。
「みなと……?」
声が震える。
まぶたがゆっくりと揺れた。
重たいものを押し上げるみたいに、少しずつ。
焦点の合わない瞳が、天井を映して、
やがて、ゆっくりとローレンを捉える。
「……ロ…レ、…」
かすれた声。
それでも、間違いなく不破の声だった。
その瞬間、ローレンの胸の奥で何かが崩れた。
「……っ」
言葉が続かない。
喉が詰まって視界が滲む。
「やっと……やっと……」
涙が落ちるのも構わず、ローレンはその手を強く、でも壊れないように握った。
「目、覚ました……」
不破はゆっくり瞬きをして、弱く笑った。
「…にゃはは」
その笑い声でローレンは耐えきれなくなった。
「……ほんとに……」
声が、震えて、途切れる。
「…本当によかった」
不破の指が今度は少しだけ力を込めて、ロレの手を握り返す。
「…にゃはは、待たせた……?」
その言葉に、ロレは首を横に振った。
「いい。全然いい。
生きててくれたなら、それで……」
言い切る前に嗚咽が混じる。
「……もう、二度と…
庇って俺の前に出るな」
不破は少し困った顔をして、それでも目を逸らさずにローレンを見る。
「守りたかっただけ」
その一言が、胸に刺さる。
ローレンはそっと額を下げた。
額が不破の手に触れる。
「今度は俺が守る番だから」
小さく、でも確かな声で言った。
病室の窓から、柔らかい光が差し込む。
長い沈黙の果てに、ようやく戻ってきた日常の気配。
不破は確かにそこにいる。
生きて、目を覚まして、
ロレの声を聞いていた。
2025/1/1
最後までお読みいただきありがとうございました。
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