テラーノベル
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ギリギリの🏺に気づいて、🟦のところまで連れていく🦊/家守様より
ハイライトのうなじに鳥肌が立った。キーンと耳鳴りがして、視界の端に砂色のパトカーが映る。電撃の様な悪寒だった。咄嗟に振り返って、ほとんど転ぶように扉から離れる。
瞬間、車が銀行に突っ込んだ。鉄の塊は猛スピードのままガラスを破壊し、瓦礫が舞い散る。轟音で顎が揺れた。奥歯がガチンとぶつかる。視界が回る。頭を庇った腕に小石が跳ねる。砂ぼこりがパチパチ床にあたって、やがて静かになった。
酷い事故だった。
狐面ごとかぶりを振ってめまいを払う。起き上がれば、パトカーの前輪が目の前で空回りしていた。車体の前方がカウンターに乗り上げている。凄まじい衝突だったのだろう、破損したエンジン部分からガソリンの臭いがした。
こんなことをする警察をハイライトは一人しか知らない。
「やばぁ〜。オイオイ、つぼ浦ー?」
特殊刑事課つぼ浦匠。法執行機関の鉄砲玉。ひしゃげて潰れた砂色ジャグラーの持ち主だ。
ぶっ壊れたパトカーは口惜しげに赤と青の光をかろうじて明滅させている。サイレンは途切れていた。代わりと言わんばかりにクラクションが押しっぱなしになっている。
つぼ浦の返事は無い。ハイライトは狐の被り物の中で舌打ちを一つこぼした。
「つぼー。オイ、喉締まってるぞ」
ガラスを踏み越え運転席に回り込む。文句のひとつでも言おうと思った口がひゅっと息を飲んだ。
鉄の臭いが立ち込めている。黒いシートベルトが伸びきってハイライトの視界を斜めに遮っていた。耳が痛くなるほどの警音。キラキラと、割れたフロントガラスが酷薄に光る。
つぼ浦が死んでいた。
ガラスが半分になったサングラスから、虚ろな目が見えた。遠くを見るような表情なのに、瞳孔が開いたままになっている。割れた額からつう、と血が垂れた。まつ毛を超えて、涙のように頬へ落ちる。半開きの口、ハンドルにもたれた上半身、腹に突き刺さったナイフ。
日差しが黒い影を落としている。暗がりの死体はあまりにも静かで、よくできた置物のようだった。つぼ浦がぶっ壊した入口から夏の嫌な温度が入り銀行内の冷房と交じる。
「まじか」
ハイライトは恐る恐るつぼ浦に手を伸ばした。
口の前に手を添える。何も感じない。
そっと手首に触れる。ハンドルを握りしめていた左手はマネキンのようだった。だらりと脱力して重たい。指をいくらずらしても、脈はなかった。
重たい唾液を飲み込む。
別に、特別な関係などなかった。ハイライトはこの街に蔓延る犯罪者の1人であって、つぼ浦は何人もいる警察の1人だ。IRISの仲間や今のギャング、それにパティに神子田など、もっと大切な人がいくらでも思い浮かぶ。
死体など幾らでも見てきたのに。幾多の犯罪を犯してきた大悪党なのに。何故だか寂しいと思った。
脳裏を思い出が過ぎる。
銀行強盗に毎度駆けつけるアロハシャツの男。どんな大きな事件が起きていようと、つぼ浦はやってきた。顔見知りになって、贔屓の飲食店を紹介して、逃げて、捕まって。記憶の中のつぼ浦は眩しいほど溌剌としていた。それから、つぼ浦が駆けつけるとき、自分はいつも笑っていたことに気がついた。
胸がジンと痛む。空洞に風が吹き込むようだった。つぼ浦の肩を掴んで、手の甲ごしに額を寄せる。
「つぼつぼ。……つぼ浦。なぁ、起きろよ……」
かたり。つぼ浦の足元に携帯電話が落ちた。白いディスプレイがほのかに光っている。
『1-999-724-654-5537』
通話をかける直前だったのだろう。緑色のボタンが画面下で押されるのを待っていた。どこへかけようとしたのか、見知ったの警察官の顔が思い浮かんでは消える。
つぼ浦の最期の連絡先だ。ハイライトは重たい気持ちのまま、画面をタップした。
呼出音は鳴らなかった。代わりに、目の前の死体がカヒュ、と息を吐いた。
「ゲホッゲホ、あっぶね。死ぬかと思ったぜ」
「は、」
「あ、イデデデデデ、イテェ! 腹も頭も痛えー!」
「つ、つぼつぼーっ!」
「ハイライト! テメェか、助けてくれーっ!」
「任せろ!」
つぼ浦の脇に腕を差し込み、運転席から引き抜いた。腹に刺さったナイフに触れないよう慎重に力を込める。それでも傷が痛んだのだろう、つぼ浦は「グワー! ギャーッ!」とでかい声で喚く。
ほとんど死体みたいな体を銀行の床に寝かせた。ダラダラと流れる血が大理石の床に溜まり広がっていく。
「痛てぇよぉ……。ハイライト包帯とか持ってねぇか」
「つぼ浦、良かった。生きてて良かった」
「特殊刑事課は死なねぇぜ! 95%くらい」
「ちょっとは死ぬんだ……。とりあえず、救急呼ぼう。あと回復か。IFAKSあるよ」
「呼ばねぇ」
「は?」
「倒れてる暇ねえし。ハイライト、これ人質いるか?」
「いないけど、何言ってるんだ? つぼ浦、死にかけだよな」
「今バカみてぇに忙しいんだよ。いねぇなら……。助けて貰ったしな。見逃してやるぜ。しぶしぶな!」
「いや、お前それ、蘇生なしで動けるのか」
「おう」
つぼ浦がゴロリと横向きになった。両腕をついて、病人のように起き上がる。ナイフから粘ついた、どす黒い血が落ちる。震える背中を無理やり起こす。つぼ浦の額には脂汗が浮いていた。歯を食いしばって、壁に手をつく。銀行のカウンターに真っ赤な手形がべたりと残った。
死体が無理やり動いている。ゾンビ映画のような光景に、ハイライトは一歩後ずさった。
「こ、怖……」
「あ? 失礼だな」
「グロいよ。何のエモートだ? 今すぐやめろ」
「動けつったりやめろって言ったり、どうかと思うぜ」
「冗談言ってる場合じゃないだろ。尋常じゃないよ、お前」
「俺はいつでも真剣だぜ。うお、」
つぼ浦の足が滑った。大理石の床に血の跡が伸びる。前に転びかけたつぼ浦の身体を、ハイライトは咄嗟に抱きとめた。働き者の体は筋肉質で重たかった。胸で支えたまま、ゆっくりと地面に寝かせる。
「わり」
「怪我ない? いや怪我はしてるか」
「傷だらけではあるな」
「んもー」
ハイライトはため息をついて、つぼ浦の額を袖で拭った。アロハシャツの肩が揺れる。
「な、なんだよ」
「ジッとして」
つぼ浦の動揺を気にせず、ハイライトは頬、顎、と流れた血を拭ってやる。
「こんなに傷だらけになっちゃって。全く、無茶してさ」
「……」
「生きててよかった。冷汗かいたよ、本当に」
「おう……」
つぼ浦はオドオドと視線をさ迷わせた。居心地悪そうに身を捩り、小さく「す、すまん……」と呟いた。黒い手袋が優しく触れる度に体を硬くする。
ハイライトはふと、つぼ浦の素顔を初めて見たことに気が付いた。
割れたサングラスから、思っていたよりもずっとアクのない顔立ちが覗いている。普段あれだけ声を張り上げているのに口元にはシワひとつ無い。特殊刑事課と名乗り犯罪者を恫喝する警察は、23歳のどこにでもいる平凡な青年だった。
「つぼ浦さ、休も? フラフラで仕事にならないでしょ」
「……いや。俺は行くぜ。待ってる奴らがいるからな」
「ほかの警察に任せればいい」
つぼ浦は何かを言いかけて、ぎゅっと唇を尖らせた。ハイライトの不興を覚悟するように、肩を強ばらせる。
血みどろの怪我人が殴られる準備をする様は、あまりにも可哀想だった。それもハイライトより10は年下の警察官だ。
弱いものいじめをしているような気持ちになって、女の子に話しかけるような優しい声を作る。
「警察で何かあったの?」
ぽん、ぽん、と袖で優しく触れる。つぼ浦は散々迷ってから、小さく頷いた。
「……全滅中だぜ。警察どころか、救急も死んでる」
「へー。大型?」
「おう。おかげで無線が凄いことになってるぜ。聞くか?」
つぼ浦が右耳のイヤホンを取って、ハイライトの耳に近づけた。ポーン、ポーン、と犯罪の通知音と警察官のダウン通知が連続する。
『生きてる人いるー?』
平坦な青井の声。答える声は2つ程しかない。蘇生出来た者は次の現場に、と指示が飛ぶ。誰かが倒れる音、遠くの銃声。
「な、酷いだろ」
「大変そうだわ」
「大変だぜ」
「つぼ浦は行かないの?」
イヤホンを指さす。つぼ浦は「行かねぇ」と言って、無線をハイライトの手から自分の耳に戻した。
「真面目な撃ち合い、役に立てないからな。街中の強盗担当した方が良いだろ」
「おー、冷静」
「おう、俺はいつでもクールだぜ。それに、せっかく人質取ってるのに警察来なかったらガッカリするだろ」
ハイライトは狐面の下でパチクリ瞬きした。つぼ浦の行ったことに心当たりがあったのだ。
人質を取った時胸に湧きあがるのはどんな風に逃げよう、という無邪気な算段だった。あのルートを使ってみようか、解放条件でちょっと無茶言ってみようか、誰が今日は来るのか。
ハイライトは狐面の鼻を触った。破天荒なつぼ浦が、まさか犯罪者のことを考えているとは思わなかったのだ。
「そっか。つぼ浦が頑張るの、俺たちのためか」
「せいだ、せい。犯罪者どもが」
「アハハ。俺たちのせいか。そうだねぇ」
つぼ浦の頭をわしゃわしゃ撫でる。23歳の青年は嫌そうな顔をしてギャアギャア喚いた。
「触るなっ、チクショウ! 犯罪者ー! 赤くもないきつね野郎ーっ! タヌキー!」
「うるせ〜。悪口になってないし」
「やめろ! セクハラ罪で指名手配するぞ!」
「はいはい」
もちゃもちゃ暴れるせいで、つぼ浦の額からまた血が垂れた。ハイライトは胡坐をかいて、乱れた茶髪を膝に乗せる。IFAKS――個人用応急処置キットを広げ、薄いゴム手袋をはめる。
「つぼ浦、ちょっと染みるぞ」
「うっ」
軟膏を傷に塗り込んだ。サングラスの下で丸っこい瞳がキュウと歪む。静かになったのをいいことに、ハイライトは手際よく額にガーゼを張り付けた。褐色の皮膚に白いガーゼのコントラストはなんだか愉快だった。
「応急処置だから。ちゃんと後で病院行けよ」
「なんだよ。自分でできるぜ」
「腹のも? 自力でナイフ抜くってしんどいよー」
「経験したみたいに言いやがる」
「あるよ。まっとうな病院いけないから」
「犯罪者め……」
つぼ浦は嫌な話を聞いた、と言わんばかりに顔をしかめて舌を出した。
「起こすよ。寄りかかってね」
「屈辱だぜ」
「ははは」
つぼ浦を引き上げて、胸に重たい頭を乗せた。後ろから腹のナイフに触れる位置だ。確かめるために触ったアロハシャツは血でしとどに濡れている。
ハイライトはつぼ浦のポケットに手を突っ込んだ。ポップな色のタオルハンカチは血に染まっている。使えない。仕方がないので自分のハンカチをつぼ浦の口に寄せる。
「はいこれ噛んでて」
「嫌だ。口の中グエッてなるだろ」
「舌噛んで窒息するのとどっちがいい?」
「ギリギリ窒息の方がマシかもな」
「わがまま言わないよ」
「グエ」
チェック柄の布をつぼ浦の口に押し込む。モノトーンが唾液で灰色に濡れた。
ハンカチを咥えた口元を広げ、奥歯で噛んでいるか確認する。育ちの良さそうな歯並びが見えた。割れたサングラスの隙間から、つぼ浦が嫌そうに目つきを鋭くする。
「ナイフ、本当は抜いちゃダメなんだけどさ。出血多量で死ぬから」
もごもごぴっぱられたままの口が呻いた。ハイライトが手を離すとさらに何かを言ったが、ハンカチに遮られて舌が動かないことに気がついて黙る。
「つぼ浦。もう1回聞くけど、救急車呼ぶ気ない? 失血死ってろくでもないよ」
今なら間に合うよ、とハイライトは囁いた。刃物が抜けないように固定して、周辺を抑えて止血するだけだ。速やかに救急車を呼べば、このロスサントスなら余裕で助かるだろう。
「寒いし、目眩止まんないし、具合悪くなるし、眠い。でも寝たら死ぬなーってあの感じ。つぼ浦も知ってるだろうけど。考え直さない?」
つぼ浦は首を縦にも横にも振らない。ただ眉を寄せ、茶色い目でジッとハイライトを見上げた。日本人にしては明るい瞳だ。真っ黒な瞳孔と、そこに映るオレンジ色の影――ハイライトの狐頭。
日焼けした手がハイライトの手を掴んだ。そのままナイフを握らせる。つぼ浦の視線は震えることもなく、ハイライトを映し続けている。
やれ、ということだろう。
ハイライトは自分の意思で、冷たいナイフの柄を握った。
「分かった。死ぬなよ」
つぼ浦が頷き、目を伏せる。
両手を重ね、慎重に力を込めた。外の音が遠ざかっていき、ハイライト自身の鼓動とつぼ浦の呼吸ばかりが聞こえるような気がした。ゴム手袋の中で手汗が滲む。カーボンの持ち手は滑ることなく、ズルとナイフが動いた。
ひゅ、とつぼ浦が息を飲む。褐色の足が跳ねた。栓が抜けた傷口からドポッと血が吹き出す。酸化した黒い血が、すぐに真っ赤な鮮血へ変わった。つぼ浦が動かないよう太ももを踏みつけ上から押さえつける。
「ウ、ウ……」
呻き声がする。ギチとハンカチを噛み締める音がした。つぼ浦の手が助けを求めるように、ハイライトの腕に縋る。片手でナイフを握り直し、空いた手でそれに答えた。指を絡めると潰れるかと思うほど力が込められた。
ナイフを抜いた。
途端に夏の温度が戻ってくる。
大理石の床に投げ捨てて、青いスジの入った止血ガーゼを傷口に当てた。
「抜けたぞ。つぼ浦、息してるか」
つぼ浦は頷いた。額が脂汗でてらてら光っている。鼻筋を通って雫が落ちた。
「包帯巻くから、もうちょっとだからな」
「……ぉう」
でろ、と湿ったハンカチがつぼ浦の口から落ちた。苦しげに長い息を吐く。遅れて、涙がこみ上げる。痛みに遅れて反応した生理的なものだ。
傷口を抑えたまま、ハイライトは布地をキツく巻き付けていく。まだ手首を握っているつぼ浦の手が時々ぎゅっと力を込めた。手当の邪魔だったが、ハイライトは振り払わなかった。腕の中の男が生きている証だと思った。
「わる、かったな。ハイライト」
疲れ切った顔で、つぼ浦が小さく呟いた。
「なに、急に」
「いやなおもい、させて……。ほっといても、平気だったんだ。今、おれ、無敵だから」
「無敵?」
「コード。携帯の……。ソロモードでしか使っちゃダメなんだけどな、今日、もういいかって。うごけないの、しんどくて」
「あぁ。あれ」
携帯に映された数字の群れを思い出す。呼出音すら鳴らなかったアレのことだろう。
「無敵だからな、手当、いらなかったんだ。でもお前が、思ったより心配してて……」
「邪魔だったって言いたい?」
ハイライトは包帯をキツく縛った。ぎゅう、と引っ張りあげて、圧迫が続くように固定する。
「……逆かもしれねぇ。うれ、しかったと思う。多分」
「……そっか」
「でも、嫌な思いさせたよな。だから、ゴメンな」
つぼ浦は常よりも素直だった。貧血で頭が回っていないせいだろう。ノタノタ確かめるように話すので、ハイライトは答える変わりにつぼ浦の胸を叩いた。ゆったりとした一定のリズムで、優しい音が鳴る。ハイライトの手が触れるたび、散々痛い思いをしたつぼ浦の体から力が抜けた。ただでさえハイライトに寄りかかっているのに、背中が丸くなって頭の位置が下がっていく。
「やめろ、寝ちまうぜ」
「寝たら連れてってあげるよ。どこ行きたいの?」
「誘拐……」
「送るだけだって」
ハイライトはくすくす笑った。割れたサングラスを外してやると、健康的な頬が露になる。よく食べるつぼ浦らしく、ハリのある丸い輪郭だ。ロスサントスの薬の効果か、皮膚に赤みが戻り始めている。
抵抗のように瞬きをしていたが、段々と瞼が下がっていく。
「寝ないぜ、俺は。アオセンだってまだ諦めてねぇんだ」
「そうなの? つぼ浦、無線聞かせてよ」
「おう、いいぜ。とくと聞け」
イヤホンを外してハイライトに渡す。と、またつぼ浦の意識が眠気に傾いた。無線の騒がしさが無くなって、代わりにハイライトの心臓の音が聞こえる。鼓動と、寝かしつけるようなハイライトの手に脳みそがますますボンヤリとしていく。
「チクショウ、やられた」
「何が? おー。本当にらだお頑張ってる」
「だろ。かえせ」
「もうちょっと。ねえ、ここ冷えるね。俺の車行こ」
「いやだ」
「どうして?」
「ねちまう」
「いいよ。好きなところまで連れて行ってあげる」
「……」
「ね。行こ?」
送るだけか。ならいいか。
事件対応で走り回っていた体は、指先一本動かしたくないほど疲れている。もうどこも痛くないし、静かで、背中が暖かい。この後まだ頑張らなければならないのだから、今だけ。ほんの少し、送ってもらう間だけ。
犯罪者の誘惑に抗えず、つぼ浦は降参して目を閉じた。
途端、かくんと首から力が抜けて脱力する。のび太もびっくり、諦めてから三秒の寝落ちだった。
後ろから支えていたハイライトには、つぼ浦が頷いたように見えた。
ドォン、と爆発音がする。つぼ浦はパッと目を覚まして、自分が見覚えのない車の中にいることに気が付いた。
外を見回せばハイライトがいた。ロケットランチャーを持ったまま、どこかへ電話をかけている。つぼ浦が起きたことに気付くと窓越しに「インパウンド頼む」と言った。
どういうことか聞く前に、ハイライトが歩き始める。途端、ヘリが振ってきた。エンジンが爆発した跡がある。ものすごい音を立てて金属の塊はアスファルトにぶつかった。
「くそー! 負けた。悔しー!」
青井の声が聞こえた。つぼ浦はほんの少し動くようになった手をのばして、車のドアを開けた。狐の姿はもうどこにも見えなかった。
ハイライトが電話先にうそぶく。
「あのねぇ、俺、頑張ってる子が好きなのよ。応援しちゃうっていうかさ、損してほしくない気持ち。知ってるでしょ?」
『こみこみ、だからってらだおさん撃つー?』
「だからだよ。二人とも頑張ってたから、休ませなきゃ。ゆちゃも手伝って」
『その目的で犯罪者じゃなくて警察倒す方に行くの?』
「そっちの方が早い」
『ハイハイ。全く、こみこみは素直じゃない。根っからの大悪党だね』
長い付き合いの姉貴分が笑った。
今日のロスサントスは犯罪者が勝つ。願わくば、つぼ浦や青井が――懸命な人々が休む時間になれば。友人には成れない。だが、同じ町に住む隣人としてハイライトは祈った。振り返らないまま、狐面を被り直した。
コメント
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はぁぁぁ!!!好きです!! 語彙力がないからまともな感想は送れないけど距離感を保ったままの🦊を愛してるし、そんな🦊にほんの1μmだけ信用を見せる🏺も好きです!! リクエストお聞きくださりありがとうございます。また明日も頑張れます
🏺と🦊の、きっと友人と称されることはない親しさの温度をkeitaさんの文章で読めてめっちゃうれしいです! 死や痛みの臨場感と「無敵モード」というゲーム性の共存に個人的にとても“あの街のバランス”を感じて興奮してしまいました
初コメント失礼いたします! 以前から他の作品も見させていただいているのですが、ストーリー性と言うか語彙力と言うかもう好きッッッッッッッッ...ってなりますね...(?) つぼ浦が動かない時めっちゃ怖かった...ちゃんと休んで...