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酸っぱい香りがする。異国風の軒先に、直輸入された漬物が並ぶ。

威勢のいいネオンや、セールの文字が書かれた幟が街を彩る。


その一角に、大きな行列が横たわっていた。行列をたどっていくと、一軒の店にたどり着く。

いつからか「ナリアンタウン」と呼ばれるようになったこの街は、この店を中心に栄えているようだ。


しかし、この街も数年前までは閑古鳥の鳴くシャッター街だったという。



それは、数年前のこと。

かの国の首長の振る舞いが原因だっただろうか。政局の動転が、この街を潰した。

迫害を受けたコリアホーモたちは、次々にこの街を去った。

「Kの国」は嫌いだと、女子供までがそう口にした。

間もなくこの街は、低俗な看板が並ぶ、淫靡な娼婦たちの牙城となる。

誰もがそう確信した。


ところが、この流れを止める者がいたのだ。


彼の名はT。元は別の街で士業を営んでいたが、諸般の事情でこの街へやってきた。

彼は、本業のための事務所を設立する一方で、同時に飲食店の経営を始めた。

カウンター席のみの、小さな居酒屋。店主との距離が近く、アットホームな雰囲気がある。

この店の名物は、ズバリ「トンスル」。いわゆる糞酒である。

トンスルとは、Kの国が起源とされる薬用の酒だ。

Tは、水薬であるトンスルを、ビールのように飲みやすく、ワインのようにおしゃれに楽しめる酒にしようと試行錯誤を繰り返した。

2年に及ぶ臥薪嘗胆の末、Tは最高のトンスルを製造することに成功したという。


Tの一日は、トンスルの下ごしらえから始まる。

まず、ファーストフード店に駆け込み、ビッグマックのLセットを2783個注文。

Tはそれらを一気にかきこむと、一旦事務所へ戻り本業に専念。

夜になって自らの飲食店に暖簾を出す。客から注文が入り次第、その場でトンスル製造に勤しむという寸法である。


「作るのは、注文を受けてからです」


Tは語る。

この日も、馴染みの客から注文が入る。Tはすぐさま全裸になり、店のカウンターに置いてある大きな桶にまたがった。彼は顔を赤らめて唸る。両足が小刻みに震える。暫くして、

ブリッ…….ニュルル……..ボトボト………ブリュリュリュ!!!!!ブチチチチチチチ!!!!!!!!!

店中に快音が響き渡る。客も、笑顔で拍手を送った。

桶に溜められた「材料」をもとにトンスルを作るのは、H氏。Tの実父である。


Hもまた、全裸で語る。

「トンスルはとても繊細。高度な技量がないと扱えません」ブリッ…….


Hは素手で「材料」をこね、自らの尿と秘伝の薬味を加え、名物のトンスルを製造する。

この作業を機械化することはできない。糞と尿と薬味、これらを絶妙なバランスで調合し、

最高の味を引き出すためには、肌感覚でトンスルの状態を確かめることが求められるからだ。

できあがったトンスルを、指先でちょんとすくって、ちゅぱっと舐めるHの姿は、少しお茶目に見えないこともない。


このトンスルの評判は、瞬く間に全国へと広まった。

「飲みやすく、一杯目からいける画期的なトンスル」

「たまにピーナッツやトウモロコシが混ざっているのもキュート!」

女性誌を中心に、様々な媒体を通じて紹介され、観光客も増加。この街の地価も上がり始めた。


遠く兆海道からこの店を訪れた作家の男性は、

「あぁっ、糞酒……美味しいです。」

「Kの国は嫌いでしたが、こんなに美味しいお酒を飲んだら、まあ、好きになるっきゃないかー」

などと半笑いで語った。


半万年の歴史を持ち、様々な事象の起源とされる、Kの国。

そんなKの国と我が国の未来を取り持つのは、Tなのかもしれない。


ここは東京、ナリアンタウン。二国間の文化交流の中心地である。

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