テラーノベル
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もどかしい後悔と自己嫌悪を胸に抱きながら、僕は気まずさを誤魔化すように急いでバスタオルを掴み、夜の露天風呂へと向かった。
湯気があちこちから立ち上る大浴場。
幸いなことに、中には僕たち以外にもちらほらとお客さんの姿があった。
……そのほうが、今の僕にはありがたい。
部屋でのあの熱い名残がある今、もし貸切風呂みたいにふたりきりになってしまったら、理性を保てる自信なんてなかったから。
他人の気配に、僕は心の底からホッと息を吐いた。
「じゅう見て? 星、めっちゃ綺麗に見えるわ」
しゅんの声に促されてお湯に浸かりながら上を見上げると、夜空には息を呑むほどの満天の星が広がっていた。
「ほんとだ、きれー…」
「この辺は建物も少ないし、街の明かりも届かへんもんな」
「さすが北海道!」
「見てみ? 月も細いやろ? 雲も全然ないし、外の空気も結構冷えてるしなぁ。丁度、星が綺麗に瞬く条件が奇跡みたいに重なったな!」
「へ〜、ラッキーじゃん!」
「せやなぁ、ほーーんま最高やなぁ……」
ふたりでお湯の中で肩を並べ、きらめく星をぼんやりと眺める。
言葉がなくても、お互いの体温がすぐ隣にある無言の時間が、とても心地よかった。
時折、のぼせそうになると冷たい風の吹くベンチで涼みながら、ただのんびりとした贅沢な時間を過ごす。
そんな風に静かな時間を楽しんでいるうちに、気付けば周りにいたお客さんの人数も一人、また一人と減っていった。
そして、ついに広い露天風呂には僕たちふたりきりになった。
「みんな、いなくなっちゃったね〜」
「なんか……いくらでもおれるわぁ、ここ……」
「わかる〜……」
しゅんが少しトーンを落とした蕩けそうな声で呟く。
その甘い雰囲気に、さっきの部屋での硬い熱を思い出して心臓がドキンと跳ねた。
慌てて脱衣所の時計に目をやる。
「って! ちょ、しゅん! もうすぐ23時になるよ!?」
「え! まじ!? ……うわっ、俺の夜泣きそば!!!! 終わってまうやん!! はよ行くで!!!」
さっきまでの色っぽい余韻はどこへやら、しゅんは弾かれたように大慌てでお湯から飛び出ると、大急ぎで身体を拭いて脱衣所へと早歩きで向かっていった。
「ちょっ!!必死すぎだってば!ふふっ」
僕はさっきまで頭を抱えて悩んでいたのが馬鹿馬鹿しくなるほど、笑いながら彼の後ろを追いかけた。
「いや、笑い事じゃないからな!! じゅうもはよ浴衣着ぃ!!」
脱衣所へ戻ると、しゅんは自分の浴衣を驚異的なスピードでテキパキと着たかと思えば、まだ髪が濡れてもたもたしている僕の元へ回り込み、お世話をするように僕に浴衣を着せ始め、帯を締めにかかる。
当然、脱衣所にまだ残っている数少ない他のお客さんからの「何あの一体感は」という視線が突き刺さる。
「ちょっ……// 自分で出来るから! はずいって、しゅん!!」
「もう! 大人しくしとき、時間ないんやから!!」
当たり前のように距離を詰めてくる彼の真っ直ぐな過保護さに、頭がどうにかなりそうになる。
言われるがまま、されるがままに……。
しゅんの鮮やかな手並みによって、あっという間に僕は完璧な浴衣姿にさせられていた。
「うん! かわええ!」
満足そうに僕の頭にポンと手を置くしゅん。
僕はこれ以上周りの目に見られないように、真っ赤になった顔を両手で覆い隠した。
そんな僕の頭を、しゅんは「よしよし」とわしゃわしゃに撫で回すと、隠した僕の手首を掴んで、そのままぐいぐいと手を引いて早歩きで廊下を連れていく。
どんだけ、夜泣きそば食べたいんだよ!
心の中で全力でツッコミを入れる。
「あ! じゅう! 間に合ったで!!」
お食事処ののれんをくぐり、受付の時計を見てしゅんが満面の笑みを浮かべた。
あどけない笑顔を向ける彼の背後には、ご機嫌さんな大喜びのしっぽが千切れんばかりにぶんぶんと振られているのが見える。
「しゅん、本当にわんこみたい……」
「犬ちゃうねん!!」
「ふははっ! ごめん、声に出てた?」
「そこそこしっかり目な声量で聞こえてたで?!」
「だって、しっぽがリアルに見えたからさ!」
「んなわけあるかぁ!! ほら、はよ行くで?」
「んふふっ! わかったから!」
足早に注文口へと向かい、2人分の夜泣きそばをお願いする。
それは少しの待ち時間ですぐに目の前に提供された。
あっさりとした醤油ベースのスープ。
めちゃくちゃ良い匂いが鼻腔をくすぐる。
「やばぁ、最高じゃん!!」
「急いだ甲斐があるわ〜」
「さっきのしゅん、本当に必死だったなぁ!」
「そりゃそうやろ!! じゅうにも絶対に食べさせたかったし、何より俺が食べたかったんや!!」
「はいはい、わかったって!早く食べよう!」
「「いただきまーす」」
割り箸を割って、湯気立つ麺を一気にすする。
「うわっ!うま!!」
「お風呂上がりの身体に、めちゃくちゃ沁みるなぁ〜」
「急いで正解だったね!」
「やろ? 俺の食への執念を舐めてもろたらあかんわ」
幸せそうに麺をすするしゅんを見つめながら、僕はスープをごくりと飲み干した。
そうだ、せっかくだし…
「ねぇ、しゅん。部屋に戻ったら、お酒飲まない?」
「おいおい、最高やな!! じゅうからそんなお誘いが来るとは!」
「もう部屋から出ないで寝るだけなら、さすがに少しくらい飲んでもいいでしょ??」
「許す!ほなロビーの自販機で買うか!」
「うん、帰りに何本か買ってこ!」
約束の夜泣きそばを綺麗に平らげ、僕たちはさらにデザートとして、お楽しみのアイスクリームもしっかりといただいた。
今回はお揃いで、北海道ならではの濃厚なミルク味。
冷たくて甘いアイスを口に含みながら、僕は手を引かれるままに、自動販売機で何本かの缶ビールやサワーを買い込んでお部屋へと戻っていった。
to be continued…….
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