極北に近い場所である。
冬は益々その暴威を深めて行ったのである、待ち焦がれる雪解けの時、春の訪れはまだまだ遥か先なのだった。
永遠か? そんな風に感じる長い冬の中で、バストロとレイブ、レイブの相方たるギレスラとペトラは嘘みたいな成長を遂げてしまったのである。
具体的にはこのやり取りを聞いていただければ良いのでは無いだろうか?
バストロの声である。
「おはようレイブ…… 今日は遂に二千分の一の魔力で挑戦、挑戦ぅ~、だよな! 楽しみだよなっ!」
答えるレイブはまだ寝ぼけ眼(まなこ)である。
「んあぁ、おはようおじさ、師匠…… えっとね、今日は二千二百分の一だった筈だよぉ? ふあわぁ~、ネムネムゥ…… ああ、それと今日から確(しっか)り干し切れなかったモンスターのお肉を食べなきゃいけなかったじゃない? 大丈夫かなぁ? んまあ、神様が食べろって言うんだからきっと大丈夫だろうけどさぁ…… 何かちょっと気持ち悪いよね? おじさ、師匠」
バストロの表情は真面目その物のままである。
「うん、判るぞレイブ、判るがしかし、お前の中に居られるいと尊(たっと)きお方が仰った言葉じゃないかぁ! きっと大きな意味があるっ! と言うか神々しか判りえない理由が有るに決まっているんじゃ無いかぁ? お前が嫌なら無理強いはしないがな…… 俺は彼(か)の方に従うぞぉっ! モンスターの生肉だろうがヴノの排泄物だろうが、何でも食べてみせるっ! ああ、神よ、無力な信徒に貴方の祝福をぉ~、って感じだぞぉ?」
「う、うん……」
ヴノの排泄物ぅ? その凶悪過ぎる匂いを思い出したレイブは、オエェェッ、と言う表情を隠そうともせずに、いいやもう嫌悪感丸出しでバストロに答える。
「師匠一人だけになっても貫いてね、その、なんだっけ? 信仰心だったっけぇ?」
「おうっ、任せとけぇっ! 当然だぁっ!」
こうして極北の厳しい冬篭りの時は、有る意味賑やかに過ぎていくのであった。
雪と氷が世界の全てを覆いつくす日々に、ほんの僅(わず)かな変化が始まる、春の訪れ、その予兆である。
鍾乳窟の内側、壁面に厚く張り巡らされた氷から、日中の数分だけだが、ポトリポトリと水滴が滴り始めたのである。
雪解け、いいや氷解けが始まったのだ。
ポタッポタッ……
溶け出す雫は日毎にその回数を増やし続けて言った。
音を耳にしながら訓練に勤しむバストロの指揮する声も同じ位、その数を増やし続けていたのである。
曰く、
「良うしっ! 今日は二万分の一の魔力でやってみよう! その後で、フルパワー×二時間だぞ? レイブっ、覚悟は良いかっ?」
だそうだ。
レイブは答える。
「うん、そうだね、それ位が妥当かな? その程度だったらギレスラもペトラも余裕だろうしね♪ 終わったら凍らせておいたモンスターのフレッシュミートで晩餐だよね? だったら幾らでも頑張れるよぉ!」
「ああレイブ、血の滴るような生肉を食べようじゃないか、くふふふ、くはははぁぁ!」
『ギギャーッ! グルルルルウゥゥ! ギャァッギャッ、ジュルルゥッ!』
『生肉、生肉ぅ! ブヒブヒ、ブヒヒヒイイイィィッ! ジュルルルゥッ!』
な、何と言う事だろうか…… この時代の人々、取り分け魔術師と呼ばれる者が、共通して口にする禁忌、命溢れる石化の元、モンスターの生肉を常食してしまっているバストロとレイブのスリーマンセル…… 大丈夫なのであろうか?
心配だ…… 食後の様子を観察せねばなるまい。
ふむ、今の所石化している様な気配は無いが…… ん? んんん? あぁっ!
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