テラーノベル
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若井の家の前で電話をかける。
家にには誰もいないのか暗くて静かだっから。
『もしもし···?』
「もしもし。俺今、若井の家の前に居るんだけど」
そう告げると若井の部屋の電気がパッとついて勢いよく玄関が開いた。
「元貴···なんで」
「クリスマスパーティーするって約束したから。お邪魔します」
まだ8時なのに寝てたのか?髪には寝癖が付いていて状況が飲み込めてない若井を押しのけるようにして部屋に向かう。
「元貴、デートは···?」
コートを脱いでベッドに座る。
やっぱり若井は寝ていたみたいで部屋は寒くてベッドが暖かい。
「やめた。だって楽しくないから。知らない子デートするより俺は若井とクリスマスパーティーして、ゲームしてる方が楽しいから。若井はどうか知らないけど、俺はそうだから」
若井は気まずそうに俺から目を反らして床に座った。
「ごめん、俺だって元貴とクリスマスパーティーしたかった」
じゃあなんであんな風に俺に言ったんだよ。
「···けど、もし元貴が女の子とデートしたかったら、俺に引き留めるなんて権利ないし···クリスマスにそんなこと言ったら引かれるんじゃないかって」
ごめんな、と小さく若井が謝った。
その表情は俺がまるで酷いことをしたんじゃないかと思うくらい辛そうだった。若井が俺とのクリスマスを楽しみにしてくれてたことがわかって俺はもう、怒ってはいなかった。
「怒ってないから、俺。それに楽しみにしてたんだよ、若井にプレゼント渡すの」
はい、と差し出したプレゼントを見て若井はようやく少し嬉しそうに笑った。
「ありがとう···えっ、いいの?こんないいもの貰っても、高かったでしょ?」
プレゼントを開けた若井はびっくりしている。俺が選んだのは普段サッカーで履いてる靴だった。
「いいの、冬休みバイトしたから。靴ほしいって言ってたでしょ?···俺、若井がサッカーしてる姿見るの好きなんだ」
サッカーしてる時の若井はいつもよりキラキラして見えるくらい本当にカッコいいから。
「ありがとう、大切に履くよ。俺も元貴にプレゼントあるんだ···」
若井がくれたプレゼントを開けるとそれは暖かそうなマフラーだった。
「可愛い···暖かそう···」
「いつも元貴寒そうだから···あと、これもなんだけど」
恥ずかしそうに出してきたのは2つのマグカップで、1つは赤いストライプに犬のイラスト、もう1つは青いストライプに猫のイラストが入ったものだった。
「これで今日乾杯しようかなってこの犬、元貴になんか似てない?···お揃いになっちゃったけど家でも使えるかなって···」
若井は少し照れくさそうにしている。
「ありがとう···じゃあさ、おれにこっちの青いのちょーだい。この猫、若井に似てるから。俺に似てるのは若井が持ってて」
お揃いのプレゼントも嬉しかったし、若井が俺の事を考えてくれて選んでくれたということが嬉しかった。
若井は大事そうに赤いマグカップを手に取った。
「元貴はご飯食べた?ケーキ食べない?チキンもあるよ、俺お腹すいちゃった」
「そういえば俺もお腹空いた!」
そのあと俺たちはいつも通りに盛り上がりながらゲームして、お揃いのマグカップでコーラを飲んで笑った。
時間はあっという間に過ぎて遅くなったから送っていくよ、と言ってくれた若井に甘えて2人で帰る。
俺は早速貰ったマフラーを巻いていた。
「これあったかい···ありがと」
イルミネーションが無くてもいつも通りの道でも若井といるだけで俺にとっては幸せだと思える時間だった。
「手袋もプレゼントすれば良かった」
寒さで手を擦り合わせている俺の手を若井が握った。それから俺たちは家に着くまで何にも喋らなかった。
若井の手が温かい。
俺がこんなにドキドキしているのが少しでも伝わればいいのに。
そう思って少しだけ強く若井の手を強く握った。
「···送ってくれてありがと。これ···俺からも、お揃いなんだけど」
渡したのは今日、雑貨屋で見つけたギターのキーホルダー。
こっそりと2つ買っていた、お揃いのやつ。
「可愛い···ありがとう、鍵につけようっと」
自然と手が離れて若井はすぐに鍵に付けてくれる。若井がじゃあ、と言って帰る背中をしばらく見ていた。
来年のクリスマスはまたこうして2人で過ごすことが出来るんだろうか?
その次は?その次の次は?
ただの友達でいる限り来年も一緒にいようね、なんて甘い約束をすることさえも叶わない。
でももう諦めるとかは無理だって痛いほどわかった。他の人じゃだめだって。
「伝えるしかないのかな···」
若井のことはあんなによく知ってるのにこの前の文化祭くらいから何を考えてるのか俺には全くわからなかった。
一番欲しいものは凄く近くてけど手の届かない遠いところにあるような気がした。
コメント
2件
身近な人ほど遠い距離に感じることってあるよなぁ。