「また俺と付き合ってください!」
湊の言葉に少し戸惑いながらシンは
「記憶の戻ってない今の俺でもいいんですか? 」
そう聞いた。
「俺が覚えているから!お前との思い出全部!俺のここに大切にしまってあるから!だからっ…」
今にも泣き出しそうな顔で湊は懸命に言葉を綴る。
「だから…俺と…」
持っていた袋を握りしめる。
それはシンとお揃いのマグカップと食器だと湊は言った。
今のシンにはその意味は理解できなかったが、『お揃い』と言う事がなんだか懐かしく思えて嬉しかった。
「本当に今の俺でいいの…?」
シンは湊の気持ちを確かめる。
溢れた涙を拭いながら湊は頷く。
そしてシンに近づき抱きしめた。
「今も…前のお前も………これからもずっと…シンが好きだ…」
湊の告白にシンは優しく微笑むと
「すっげー嬉しいです…ありがとう湊さん…」
シンも湊を抱きしめる。
「俺…頑張るから…あんたとの記憶絶対思い出だすから…」
「…うん」
「……俺も…好きです。湊さん」
その日からまたシンは湊と同棲を再開した。
「急いで荷物詰めてきたけどこれで足りるか?」
「数日は大丈夫です。また後で家に取りに帰るので」
「そっか… じゃあ……」
そう言って湊は立ち上がると
「汗かいたし風呂入ってこいよシン」
にっこり笑ってシンに言ってみたが
「はい。わかりました」
それ以上の返答はなかった。
「………」
「どうかしましたか?」
「いや……」
以前なら返ってくるはずの答えがない事がシンの記憶が戻っていないと実感してしまう。
「しっかり洗ってこいよ〜お前のお風呂のお湯は熱いからなっのぼせるなよ!笑」
「大丈夫ですよ。子供じゃないんですから。笑」
笑って話すが、心做しか湊には寂しさがあった。
「今夜はお前の好きなハンバーグだからなっ!」
それを打ち消すように元気に言ってみたが
「湊さんハンバーグ作れるんですか?」
もう何度もシンの為に作った事も覚えていないらしい。
「……風呂。早く入ってきな。なっ」
「それじゃ、お先にいただきます」
お辞儀をしてシンは浴室に向った。
ドアを閉めるシンを見届けると、湊はシンクに手を着いた。
(焦るな…また一緒に暮らせるようになっただけでも良かったじゃねーか…)
そう自分に言い聞かせると、湊は夕食の支度を始めた。
「美味しいです!」
湊が作ったハンバーグを一口食べたシンは満面の笑みを浮かべて喜んでくれた。
「だろっー!」
得意気に湊は言った。
「初めてお前に作った時もそうやって美味しい!って嬉しそうに食べてくれたんだよ」
目の前にいるシンと以前のシンの笑顔が重なる。
同じ顔なのに寂しさを感じるのはきっとあの時とは湊に対する想いが違うシンだからなのだろうか…
「素敵なマグカップと食器ですね。湊さんとお揃いで嬉しいです!」
新しく購入したお揃いの食器を眺めながらシンが言った。
「新しい生活の再スタートだからなっ!記念日にぴったりだろっ!」
褒められた事に湊は喜ぶ。
「湊さん…」
ふいにシンに声をかけられる。
「どうした…?」
「あの…一緒に暮らすに当たって決まりとかルールとかありましたか?」
「あっ…あああ……あったよ…」
「教えてください!俺覚えてなくて…」
「そ…だよな… 」
「すみません…」
「まず…」
「はい」
「家事は分担」
「家事は分担」
「あと、遅くなる時は連絡」
「遅くなる時は連絡」
「それと……」
言いかけて湊は口を噤んだ。
「いや…その2つだけだ……」
「えっ?それだけですか?」
少し不思議そうにしているシンに
「もっと増やして欲しいのか〜シンちゃん!だったら、湊さんのマッサージを毎日。とか追加してもいいぞ!笑」
「それ、湊さんがして欲しいだけじゃないですか!笑」
ふっと湊の笑顔が消えた。
「冗談だよ…その2つだけだ。きちんと守れよ…」
「わかりました…」
何かを察したシンだったが、それ以上は何も聞かなかった。
深夜、湊が部屋の電気を消そうとすると
「湊さん…」
ドアの向こうからシンが声をかけてきた。
「どうした?」
ドアを開けると枕を持ったシンが立っている。
「自分の部屋で寝ようとしたんですけど…なんだか落ち着かなくて…一緒に……」
「……」
「ダメですよね……やっぱり自分の部屋で…」
「いいよ…」
「えっ?」
「眠れねーんだろ?一緒に寝るか?」
「いいんですか!?」
目を見開いて喜ぶシンの顔が湊は嬉しかった。
「でも、一緒の布団で一緒に寝るだけだからな!」
「はいっ! 」
寝室は別。
言えなかった3つ目のルール。
シンは本当に覚えてないんだな…湊の寂しさがまた積もっていく。
大の大人2人が横になるには少し狭いベッドに湊とシンは横になる。
(緊張し過ぎてシンの方向けねぇ…)
湊は天井を見たまま硬直状態で動けずにいた。
(ずっとシンの視線感じるんだけど……)
目を瞑って意を決しシンの方に身体を向けると
「ごめん!湊さん!やっぱり俺自分の部屋で寝ます!」
慌ててシンが部屋を出ていく。
(えっ……)
瞼を開け湊の部屋から出ていくシンの姿を目で追う。
「…はっ……何期待してんだよ…俺は」
自分が情けなくなって湊は項垂れた…
「しっかりしろ!湊晃!まだ初日じゃねーか」
頬を叩いて気持ちを切り替える。
「よしっ!寝るぞ!」
横になって瞼を閉じるがシンの顔が浮かんで湊は寝つけない夜を過ごした…
【あとがき】
あの時、シンの記憶が戻っていなかったら湊の告白にシンはなんて答えたのだろうか…?
そんな疑問から思いついた作品です。
ドラマの台詞とリンクする場面が度々あります。思い出しながら読んで頂けるとより楽しんで頂けると思います。
こちらの作品はもう少し続きます。
頭の中のプロットがまだ整理しきれていないのでどこまで続くか現時点で作者自身も不明な状態ですが…笑
みなしょーはハッピーエンドが常ですから。終わり良ければ全て良し♪で終われるように向けて頑張ります!
いつもの事ですが、きっとどこかでタガが外れるのは内緒です笑
最後までお付き合い頂けると幸いです。
次回作で、またお会いできますように…
月乃水萌
コメント
7件
切なくなりました🥲🥲とっても素敵な作品ですね🤦🏻♀️🤦🏻♀️