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「さて…どうやって解決しようか…」
シュエンが顎に手を当て僕の目を覗き込む
ジッと見つめた時何かに気づいたように声を上げた。
「怖いのって七魔牙のみんなと両親なんだよね?」
「そうだけど…」
「それ、元々心を開いていた人達なんじゃないかな?」
一瞬訳が分からなかったが、思い返してみるとそんな感じがする。
自分でも気づかなかったのになぜ彼は気づいたんだろうと少し疑問だった。
「つまりまた心を開けば解決!そうとなったら早速ワースを呼ぼう!」
「えっ、ちょっと…」
彼は校舎のほうに走って行ってしまった。行動が早すぎるのも迷いものだ。
しばらくするとシュエンがワースの手を引っ張ってこちらの方へと走って来た。ワースは訳を聞いたのか戸惑っている様子は無かった。
「ワース…さっきは…、」
言葉を言いかけるとワースの手が僕の頭を撫でた。優しくて温かい手が頭のモヤを吹っ飛ばした気がした。
「俺は後悔なんてしねーぞ、」
優しい声が僕を包む。瞬きしたら色褪せてない鮮やかな瞳の彼が微笑みながら立っていた。
「…ありがと、」
僕の頭の上にある彼の手に僕の冷たい手を添えて握る。優しい体温が今の僕にとって何よりも温かかった。
「これ、俺が最初なのか?」
「うん、他のみんなにはまだ会ってないけど…、」
「ワース?どうしたの…、?」
僕の声を遮ったラブの声は、いつもなら聞き取りやすい綺麗な声は、今は僕を呪うように付きまとう。
《 蝌倥▽阪↑繧薙※後>縺… 》
文字化けしたような意味のわからない言葉が周りの音を遮断する。耳を塞いでも意味は無く頭から直接流れ込んでいるみたいだ。
「…マイロ、言いたいことがあるの、」
《 坂←愛嫌▽前漫蜘…、 》
意味はわからないのに怖くなる。わかってるみたいにその言葉に体が怯えている
「…私、マイロの事…、」
《 儺↑出蠱⬜︎鵺… 》
その先の言葉を聞きたく無い。逃げ出してしまいたい。
「…売ってしまってごめんなさい、!」
その言葉を聞いて僕は顔を上げた。その先には目に涙を浮かべ瞳を震わせるラブが、必死に泣く事を堪えていた。
「怖かった…言い訳にしかならないけど、最低な事をしたの、私はお姫様じゃなかった、ヒロインをいじめるだけの…悪役の王女だったの、!」
ポロ、ポロと涙を溢すラブの目には透き通った桃色の瞳が揺れていた。彼女の頬を伝う雫を指で掬った。
「僕自身がそう言ったじゃないか…」
そう言うと彼女は僕に抱きついて声を上げて泣いた。「ごめん」をずっと言う彼女の背中を僕はただ撫で続けた。
泣き落ち着いた彼女はケロッと笑顔になった。
「ありがとなの!そうだ!今日アドラのみんなとシュークリームパーチィ?するらしいの!マイロも来るの?」
「いや、僕は行かないよ、やらないと行けない事がある」
彼女はそう聞くと儚い笑顔を浮かべてそっかと頷いた。
夕方、廊下の窓からは赤い光が差し込んでいて学校の壁の色が夕焼けに染まる。
とある部屋を目指して足を運ぶ、扉の前に立ち深呼吸してコンコンと手の甲でノックする。返事は聞こえない。
「おや、マイロさんどうしましたか?」
背の方からはオロルの声が聞こえる。気配的にアンサーもいるだろう。振り向けば目が合う、あの時の色褪せた瞳が二人に浮かんでいる事を覚悟してまでここまで来たのに体の震えが止まらない。
意を決して振り向いた。やはり色褪せている、だが考えた言葉を、詰まった言葉を外に押し出す。ここで言わないと後悔するとわかっていたから。
「…助けてくれて、ありがと…、」
震えた声を出し切る。その言葉を言った後瞬きしたら鮮やかな色の目が、優しい表情が二人に浮かんでいた。
「わざわざ言いに来たのか?知っているか?我々は仲間だ、」
「当たり前ですよ、あなたが無事でよかった」
そんな当たり前は、僕にとっては奇跡のようなモノだった。
溢れそうな涙を堪えて、真っ赤な道を歩く昔の僕には想像も出来ない事。それが今目の前にあるんだと実感した。
「本当に…ありがとう…、」
今も涙を堪えている。でも昔みたいな絶望は無い。大丈夫、泣いてもいいと慰めてくれた思いやりの声が、暖かい手がそこにあるから。
自分の部屋の扉を開ける。誰もいない部屋にポツンとベットに置かれた帽子を撫でて眠った。眠りに落ちる瞬間に扉が開く音がしたがそれを無視して目を閉ざした。
気がつくと窓から朝の光が入って来ている。久しぶりに深い眠りに着いたのかとベットから起き上がる。隣のベットに相変わらず彼は居ない。冷たいシーツが広がるベットをそっと指先で撫でる。
「…早く謝りたいな」
ボソッと呟いて自分の部屋を出た。
教室での授業はまだ集中できなくてポケーとしながらなんと無く聞いていた。
授業が終わり僕は真っ先に教室を出た。
僕は3年の教室に向かった。
「…、居る」
教室で教科書を揃えているのは仮面を付けた彼だった。意を決してその教室に足を踏み入れた。
「セ…いや、アビスさん」
「?」
声をかけると仮面がこちらを向く。仮面越しでもその目は冷たくて僕の体を貫くような恐怖を感じた。
《…》
何も言わない視線から逃げ出してしまいたい。言おうと思っていた言葉を忘れて頭が真っ白になる。
「大丈夫ですよ」
彼は仮面をそっと取り僕に微笑みかけた。
「だってあなたはとても努力した、負けてしまってもその事実は消えません」
膝を付いて抱きしめる彼の手を振り解こうとは思わず、何も言わずにそっと涙を流した
「…神童だって言われた…、嬉しい言葉のはずなのに…羨ましいって言われた…、僕の気持ちも知らないくせに…幸せなくせに…!何もしてないくせに…!自分を好きになりたくて努力してやっと手に入れた力が…一瞬で壊された…!じゃあ僕はなんなの…神童でも努力家でもなんでもないただの人間なの…?」
溜め込んでた物が全て出て来た。アビスさんは僕の声に頷きながらそっと背中を撫で続けてくれる。
「貴方は七魔牙の一員です、ただの人でも、努力できない人でもない、力を壊されてもまだ残ってる、だからどうか貴方自身を壊さないで、隠さないでください」
やっと見つけた。僕を見てくれた人。
その人は自分自身を誰かに認めてくれた、神様の運命に遊ばれた不幸でもなんでもない僕の仲間だった。
EP8 自分