「兄ちゃん、おはよ」
朝起きると、目の前にはさとみくんがいた。
「おはよ」
そう、軽く挨拶をする。
「調子はどう?朝ごはん食べれそう?」
「大丈夫だよ。下行こっか。」
毎日毎日聞かれる質問。
その質問は、俺を苦しめる呪いだ。
重い体を起こして、リビングへと繋がる階段に向かう。
その後ろを心配するように、着いてくるさとみ。
「はぁ、はぁ、ッ」
少し歩いただけなのに、気づかないうちに息が上がっていた。
「兄ちゃん、おぶるよ。辛くなかったら教えて。」
そう、優しく話すさとみくん。
この愛情も、俺にはいらない。
「ごめんッ…」
今日も、お決まりの言葉を吐く。
その言葉を無視してさとみは、俺をおぶって歩き出した。
ななもり「莉犬くん、おはよー!」
ななもり「今日はどこまで頑張ったのか なぁ?」
できるだけ、楽しく聞いてくれる。
その心遣いも、俺にはいらない。
莉犬「階段の半分ぐらいかなぁ…笑」
ななもり「えー!頑張ったじゃん!!」
ななもり「新記録達成だね!!」
莉犬「やった…笑」
嬉しくない。そんなこと嬉しくない。
記録更新?何をバカげたことを言っている。
俺が今日歩けた距離は、常人が30歩ほどで歩けるぐらいの距離だ。
そんな距離歩けたからと褒められても嬉しくない。嬉しくなんてなかった。
ころん「3人ともおはよぉ、、 」
ころん「わんわん、今日どー、?」
莉犬「めっちゃ元気✨️」
ころん「よかったぁ」
ななもり「新記録更新したんだよね〜!!」
ころん「ほんとにっ!?凄いじゃん! 」
さっきまで眠そうにしていた顔が一気に晴れてにこにこの笑顔になっていた。
その笑顔は、俺には眩しかった。
ジェル「なんやなんや〜?」
ななもり「あ、ジェルくん!」
ジェル「なんかあったんか?」
ななもり「莉犬くん記録更新したんだよ〜!」
ジェル「ほんま!?」「良かったなぁ!」
莉犬「えへへ、」
嬉しくない、、嬉しくない!!
そんな言葉、俺に投げないで、、。
俺に優しくしないでよ、。
きっとこんなこと言ったところで、みんなの行動は変わらない。
それなのに期待してしまう自分が嫌になりそうだった。
るぅと「莉犬、、おはよぉ」
莉犬「るぅちゃんおはよぉ」
るぅと「新記録達成おめでとぉ」
るぅと「話聞いてましたよ」
莉犬「ありがとぉ」
眠そうに、それでも褒める君はどんだけ君は優しいのだろうか、、。
でも、その優しさは俺には毒だ。
ななもり「みんな起きたから朝ごはん食べよっ か!」
他「はーい/ほーい」
みんな「いただきますっ!」
俺は、食べることも大変だ。
他のみんなよりも食べれない。
どんだけ好きなものでさえも、限度が来てしまう。
だから、ご飯も皆とは違う。
この違いを見るだけで、吐きそうになる。
みんな「ご馳走様でしたっ!」
ななもり「みんな行ってらっしゃい!」
他「いってきまーす!」
残るは、俺と兄ちゃんだけ。
ななもり「学校どーする?」
莉犬「どっちでもいいよ」
ななもり「そっか〜笑」
莉犬「家事やっとくよ?」
ななもり「だーめっ!」
莉犬「そっか。」
ななもり「今日あの人たちのとこ行かなきゃ
ね、」
莉犬「…ッ!!」
ななもり「俺行くよ。」
ななもり「莉犬くんに行かせられない。」
莉犬「なんでッ…!!」
ななもり「なんでじゃないよッ…。」
莉犬「やだっ!!俺も行かせてッ…!」
ななもり「だからッ…!!」
莉犬「涙も全部半分こでしょ…?」
ななもり「…ッ!!」
ななもり「でもッ…!!」
莉犬「でもじゃないよ…。」
莉犬「行かせて。」
兄ちゃんの目を見る。
その目には俺しか写っていない。
兄ちゃんの目の奥は、震えていた。
ななもり「わかった…ッ」
莉犬「ほんとっ!?」
ななもり「でも、無理ってなったら言って。」
莉犬「わかってる。」
莉犬「行くと決まったら、準備するよ」
ななもり「うんッ…!」
困らせているのは分かっている。
それでも、それでも、、
兄ちゃん1人に任せてしまう自分が憎く感じてしまうから。
自分をもっと嫌いになっしまうから。
ななもり「行こっか。」
莉犬「うん。」
ななもり「タクシーで行こ」
莉犬「いいの、?」
ななもり「いいのっ!」
莉犬「そっか笑」
沈黙が訪れる。
心地良いような、気まづいような。
そんな沈黙だった。
そんな沈黙を破ったのは他でもない、俺だった。
莉犬「怖いね」
ななもり「帰る?」
莉犬「帰んないに決まってるじゃん。」
ななもり「そっか。」
ななもり「怖いよね。」
ななもり「俺も怖い。 」
莉犬「ひとりじゃない。今日は俺がいる。 」
莉犬「いつもありがと。」
ななもり「…ッ。」
莉犬「俺じゃ物足りない、?」
ななもり「ううん。安心する。」
莉犬「良かった。 」
きっとその言葉は嘘だ。
俺のためについた嘘。
その嘘さえも、俺の首を締めてくる。
あと10分。
あと10分で、着いてしまう。
この10分何をしよう。何を話そう。
たわいのない話をしよう。
できるだけ、緊張しないように。
怖くならないように。
兄ちゃんに、俺が足されたとしても俺は1にもなれないだろう。
そんな俺にも出来ることはただ1つ。
兄ちゃんを守ることだった。
コメント
1件
辛いなぁ、、、 優しさが自分にとっては武器になることありますよね、、 ぁぁぁぁぁ、最高っっです…