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子供の頃から、物語を描くのが好きだった。
魔法使いの少年が勇者になる話や、悪いドラゴンと友達になる話。
主人公の日常が、非日常になる話が好きだった。
国語の文章問題なども得意で、テストで80点以下を取ったことはない。
ただ、
人との対話はいつまでたっても苦手だった。
相手の気持ちを考え、自分がどう返答するかに迷って時間がかかる。
中学生になってからは、人の目を見て話すことすら、苦手になっていた。
『桜太郎、また小説書いてんのか?』
中学2年生。
1年の時も同じクラスで、仲の良かった男の子がいた。
人見知りな俺にも気さくに話しかけてくれて、受け答えしかほとんどしない俺だったが、
彼とだけは、他愛ない会話も少しできた。
ある時、彼が進路のことで親と喧嘩をしたとぼやいた。
俺の頭の中では、彼の気持ちと、彼の母親の気持ちが交差する。
彼の進路を親が反対するのは、心配あってのことだろう。
悪気があるわけじゃない。
俺はつい、ろくに知りもしない彼の親の気持ちを代弁してしまった。
伝え終わった後見た彼の顔は、
…酷く傷ついた顔をしていた。
『なんで、そんなこと言うんだよっ!』
ああ、間違った。
すぐに気づいたが、もう遅い。
彼は親の気持ちを理解したかったんじゃない。
俺に共感してほしかっただけなんだ。
『ち、ちが…っ、親は意地悪で言ってる訳じゃないってだけで…』
違うよ、俺は君を否定をしたいわけじゃない。
親の味方をしたいわけじゃないんだ。
誤解だ。
『俺の気持ちなんて、わからないくせに!!』
彼は怒って去っていった。
それから、口を利かないまま3年になり、
クラスも変わって、話すことはなくなった。
彼しか友達と呼べる友人がいなかったので、
俺はそのうち会話の仕方も忘れてしまった。
出来るのは「うん」、「わかった」、「嫌です」などの簡単な受け答えだけ。
陰で俺をロボットと呼ぶ奴もいた。
人と接するのが、人に言葉で伝えるのが、怖くなった。
心臓がうるさい。
初めての人に会うのはいつだって緊張する。
筋肉は強張るし、表情筋すらもひくついている。
「…大丈夫っすか?」
見かねた坂城くんが眉を下げて尋ねる。
全然大丈夫じゃない。
けど、それを子供の前で言えないのが大人である。
俺は「大丈夫」という言葉を絞り出して、歩みを進めた。
整えてワックスをつけた髪。
少しでも清潔に見せるためのシンプルな白いインナーとブルーグレーのジャケットとスラックス。
#極道
鷹槻れん

7,349
#普通
野々さくら
552
世羅 鈴🎨🎤
436,358
芙月みひろ
743
俺としては戦闘服を身にまとった気分だった。
震える指でインターホンを鳴らし、俺は不器用な笑みを張り付けた。
「は…、初めまして。河目、桜太郎…です。」
「……どうぞ。」
ガチャン、とオートロックの外れた音がして、門を開ける。
門から玄関までは少し距離があって、昔はガーデニングをしていたのか、
古びたプランターが並んでいた。
横目で見れば、中には植木どころか土も入っておらず、
もうすでに手入れする人がいないのだな、と感じる。
玄関の手前まで来ると、背の高い男性がドアを開けて出迎えてくれた。
「初めまして河目さん。天砂幸多郎…、
和織の父です。」
ゆっくりと視線が下がり、強い目力で捕らえられる。
後ろに下がりたくなる足に力を入れて、俺は頭を下げて挨拶をした。
「まさか、龍くんから連絡が来るとは思わなかったよ。」
通された応接室には、高級感漂う絨毯が敷かれ、棚には調度品が飾られていた。
革張りのソファに深く腰掛け、和織の父親、天砂社長は目を細めた。
反対のソファに浅く腰かけた俺と坂城くんは、姿勢を正す。
オーラとでもいうのだろうか。
ただ座っているだけなのに一般人とは違う空気を感じる。
自然と背筋が伸びるような無言の威圧感があった。
「すみません、私が坂城くんに頼んだんです。
お忙しい中、お時間を頂きありがとうございます。」
頭を深く下げて視線を向ければ、社長の視線も俺へと移った。
思わずそらしたくなる視線を真っすぐに返す。
「息子について、…お話があると。」
「はい。改めまして、河目桜太郎と言います。
……その、詳しい事情は私からお話しできないのですが、
息子さん…和織さんと、ある活動をしています。」
太ももの上で握った手から汗がにじむ。
社長は何も言わない。
その沈黙だけで、胃が締めつけられるようだった。
社長はゆっくりとした動きで右手を顎に添えて、
値踏みするかのような視線を俺に投げた。
いつもより小綺麗な格好をしてきたところで、”何者”かになったわけではない。
跡取り息子であろう1人息子が知らないおっさんとつるんでれば、怪しむのも当然だ。
俺には正論で返せる言葉がない。
バクバクと鳴る心臓を押さえ込むように、沈黙に耐える。
…一度相手の返答を待つべきか、それとも話を続けるべきか。
口を開きかけては結び、思考を巡らす。
焦るな、と自分に言い聞かせながら、次の言葉を考える。
「…………良がっだ……っ!!」
…?
涙交じりの低音ボイスが室内に響く。
俺は目の前の男性を凝視する。
懐から取り出したハンカチを上品に目に当てて、
泣きながら安どの表情を浮かべている。
「「………え?」」
俺と坂城くんの困惑した声が重なる。
先ほどまでの威厳のある人物はどこへ消えてしまったのか。
坂城くんの方を見ても首を横に振るばかりだ。
どうやら、この姿は坂城くんにとっても予想外らしい。
「…か、和織が、急に夕飯を家で食べなくなって…、
メールや電話を入れても素っ気ない返事しかないから、心配で心配で…!」
…なるほど。
和織の父親は思っていたほど放任ではなかったらしい。
その割には、和織は家を毛嫌いしているように見えた。
単なる反抗期なのか。
それとも、父親との間に何かあったのか。
「…あの、失礼ですが、和織さんとの間に、…何かあったりしたんでしょうか。」
恐る恐る手を挙げて質問をすれば、社長は涙を止めながら、窓の外を眺めた。
「…妻が、亡くなった時、駆け付けなかったんです。」
和織から聞いた交通事故の話を思い出す。
“駆け付けなかった”。
その言葉の意味を考えるより先に、社長が自嘲気味に言葉を吐いた。
「…すぐに…、駆け付けなかったんだ。
仕事中とはいえ、緊急事態だったのに。」
当時の状況を聞いて、俺は情景を思い浮かべた。
その日の朝は、遠方で商談があり、和織が起きるよりも早くに家を出ていた。
電話があったのは、商談が始まってからだった。
終わって折り返せば、妻が交通事故にあい、亡くなったという聞きたくもない報せだった。
病院へ向かうにも、片道3時間はかかる。
今更、急いだところで…。
時計を見て、息子の顔を思い浮かべた。
和織はまだ試験中だろう。
着信を一応残しておき、私は次の取引先へ向かった。
仕事を放り出して病院へ向かうこともできた。
…それでも私は、愛する妻のもとへ向かうよりも、
会社の代表として、約束していた取引先に会いに行くことを選んでしまった。
勿論、取引先へは事情を伝えるためだけに立ち寄り、すぐに踵を返したのだが。
病院について、静かに泣いていた和織は、私に気づいて鞄を投げつけた。
『なんですぐに来ないんだよ!!』
…そう、駆け付けれなかったわけじゃない。
出張だったから、なんて言い訳にならない。
泣きながら怒る和織に、後ろめたさから説明できなかった。
実際、既に亡くなったと聞いて、足を止めてしまったのだから。
それから、和織は私にだけ口をほとんど開かなくなった。
あんなに明るかった子が、まるで魂のない人形のようで。
父親として、どうにかしなければいけなかった。
それなのに、関係を修復しようともせず、
気づけば会社にいる時間だけが増えていった。
おかげで会社の業績は右肩がり。
それと比例するように、家の中は冷え切っていく。
家で私に笑いかけるのは、在りし日の妻の遺影だけだった。
和織には和織の、父親には父親の事情があったのだ。
ほんの少しのすれ違いが、この親子の関係を変えてしまった。
大事なことは、本人の口から言わないといけない。
部外者が口を挟むことじゃないだろう。
……今までの俺なら、そう思っていた。
けれど、このまま見て見ぬふりをして、
果たしてこの親子に明るい未来はあるのだろうか。
余計なお世話だったとしても。
今、2人の気持ちを知ってしまった俺にしか、
できないことがあるんじゃないだろうか。
「…天砂社長、…和織さんが、お母さんの事をどう思ってるか、ご存じですか?」
「え…、そりゃあ…、寂しいというか…。」
その反応だけで、和織の気持ちを知らないことが伝わってきた。
この親子は、お互いの事情も、気持ちも、知らないまま。
「和織さんは、…自分の所為で、お母さんが亡くなったと思っています。」
「…なんだって…?なんでそうなる?交通事故だろう…!」
俺の予想だにしていなかった言葉に、
社長は身を乗り出して、驚愕の表情を浮かべた。
横で聞いていた坂城くんも驚いて目を開く。
「…奥様は、和織さんに忘れ物を届けに行っていたんです。
その帰り、事故にあった。
だから和織さんは、忘れ物をした自分の所為だと思っている。」
全員が言葉を失っていた。
傍から見れば、『そんなことで』と思うのかもしれない。
俺は畳みかけるように続ける。
「事故なんて偶然です。誰かが計画した訳でもない。
和織さんが忘れ物をしなければ、事故には遭わなかったかもしれない。
逆に、何もなくても、別の事故に巻き込まれていたかもしれない。
そんな、もしものことなんて誰にもわからない。
わからないからこそ、自分の失態が全ての責任に思えてしまう。
俺は、それを間違っていると伝えたいんです。
その為に、和織さんといます。」
「河目くん…、君は…、いったい何のために…。」
自分が、ようやく何をしたいのか、今、分かった。
どうして和織に対して、見て見ぬふりをしなかったのか。
小説を書く時間を割いてまで、彼を手伝うのか。
呆気にとられたような社長の目を見て、俺は力強く言い切る。
「俺は作家です。
デビューもしてない、なんの賞も取っていないけど。
俺は……。
俺の紡いだ言葉で、人の心を救いたい。
目の前の子供くらい、救いたいんです!」
そうだ。たかが高校生、一人。
俺の言葉で、生きたいと思わせてやる。
コメント
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### 感想(美月ゆめか🌸) うわあああっ、桜太郎くんの過去が深すぎて泣けたよ😭💦 人見知りで言葉選びに苦手意識があったからこそ、 今の「誰かを救いたい」って想いにつながってるの、心に刺さった… 和織パパとの会話も感動的で、親子のすれ違いを知った上で 「俺の言葉で目の前の子供を救いたい」って宣言するシーン、マジで推せます🔥✨ 皐志さんの紡ぐ言葉、大好きです! 次の展開も待ってるねっ🌸💕