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fwが記憶喪失
口調迷子
色々許せる人のみ
akとfw以外は適当な人物です。
akfw
ak( )
fw[]
姫(ホスト客)〈〉
―――――――――――
最近、マジで物忘れが酷い。
朝ホストの営業で何話したか思い出せないし、昨日の配信内容も曖昧。
「…やばいなぁ」
スマホのメモ帳を開く。
そこには、びっしりとメモが書かれている。
『三枝明那=恋人、大学生、配信者』
『俺=ホスト、配信者、不破湊』
『好きな食べ物=生牡蠣』
忘れないように。
明那に気づかれないように。
―――――――――――――――――――――――
〈不破さん、今日もかっこいいですね〉
ホストクラブのカウンター席で、常連客が笑いかけてくる。
「ありがとうございます」
笑顔を作る。
この姫の名前は…えっと…
スマホをチラッと見る。
『田中さん=常連、30代、OL、好きな酒=ワイン』
「田中さん今日は特に綺麗っすね。その服、前に話してた新しく買ったやつっすか?」
〈覚えててくれたんですか!嬉しい!〉
覚えてない。
メモがなきゃ、何も分からない。
―――――――――――――――――――――――
(ふわっち!今日の配信も良かったよ)
配信が終わった後、明那からメッセージが来た。
三枝明那。
大学生で、配信者で、俺の恋人。
…恋人。
メモを見なくても分かる。
大切な人だ。
「あざっす🥂✨」
短く返信する。
これ以上会話したら、ボロが出そうで怖い。
―――――――――――――――――――――――
明那の部屋で一緒にゲームをしてた。
(ふわっち、聞いてる?)
「え?あー、ごめん」
(さっき言ったこと覚えてる?)
覚えてない。
「ごめん、ちょっと疲れが…」
明那は少し心配そうな顔をした。
(最近ぼーっとすること多いけど大丈夫?)
「大丈夫だって」
笑ってごまかす。
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配信中、言葉が出てこなくなった。
「えっと…今日はっすね…」
何話すつもりだったっけ?
台本も用意してたはずなのに。
「…あれ?」
コメント欄が流れる。
『大丈夫?』
『ふわっち疲れてる?』
『無理しないで』
「ごめん、ちょっと頭痛くて。今日は早めに終わるわ」
配信を切った。
手が震えてる。
―――――――――――――――――――――――
ホストの仕事中、ミスをした。
〈不破さん、先週お話しした私の誕生日のこと覚えてます?〉
姫に聞かれる。
「あー…えっと」
覚えてない。
メモにも書いてない。
「すみません、ちょっと最近忙しくて」
笑顔でごまかす。
姫は少し寂しそうな顔をした。
〈そうですか…楽しみにしてたんですけど〉
胸が痛い。
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病院に行った。
—–記憶障害の可能性があります—–
医者の言葉が、遠く聞こえる。
「……原因はなんですか、?」
—–ストレス、過労、もしくは…精神的なものかもしれません—-
「治…りますか?」
—–それは…何とも言えません。改善する可能性もありますが、進行する可能性も—–
絶望が、じわじわと広がる。
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明那には言えない
言ったら、きっと心配させる。
心配されたら、迷惑かける。
迷惑かけたら、嫌われる。
「…言えないか、…」
スマホのメモがどんどん増えていく。
『明那の誕生日=9月1日』
『付き合い始めた日=去年の4月』
『明那の好きなもの=サウナ、ナポリタン』
『田中さん=常連、誕生日3月5日、好きな花=バラ』
『佐藤さん=常連、誕生日7月20日、好きな酒=シャンパン』
忘れたくないから。
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〈不破さん、先週お話しした旅行の話、覚えてます?〉
ホストの営業中、また姫に聞かれる。
旅行?
何の話だ?
「あー…どこだっけ」
〈沖縄ですよ。一緒に行きたいって言ってくれたじゃないですか〉
―言ったっけ……?
それに、先週ホスクラ来てたっけ……?
「あー、そうそう。ごめん、最近色々あって」
〈最近忘れっぽいですね。大丈夫ですか?〉
「ご心配かけてすみません。大丈夫ですよ。」
大丈夫。大丈夫。大丈夫。
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(ふわっち、この前貸した本どうだった?)
明那に言われた。
「本?」
(ほら、先週貸したじゃん)
先週?
…………
「あー、ごめん。家に忘れた」
(そっか。じゃあ今度感想聞かせて!)
部屋を探したけど、そんな本なかった。
借りたことすら覚えてない。
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(ふわっち、俺の誕生日覚えてる?)
[もちろん。9月1日っすね!]
メモを見たから、答えられた。
(そうそう、覚えててくれたんだ)
明那が嬉しそうに笑う。
胸がチクリと痛む。
メモがなかったら、忘れてた。
恋人の大切な日を、忘れるところだった。
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ある日、配信で大きなミスをした。
「今日はっすね、えっと…」
何を話すつもりだったか、完全に忘れた。
台本も用意してたのに、どこに置いたかも分からない。
「…すいません、ちょっと」
画面を見る。
コメント欄が心配の声で埋まる。
『ふわっち大丈夫?』
『無理しないで』
『休んでもいいんだよ』
「ごめん、今日は…体調悪いんで」
配信を切った。
泣きそうになる。
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同じ日、ホストの仕事でも失敗した。
〈不破さん、私の名前覚えてます?〉
客に聞かれて、頭が真っ白になった。
この人、誰だっけ。
「えっと…」
スマホを見ようとしたけど、姫の目の前で見るわけにもいかない。
「…すみません」
〈え、本当に忘れたんですか?私、もう3年も通ってるのに〉
姫は泣きそうな顔をした。
「本当にすみません」
もう、限界だ。
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(ふわっちさ、最近おかしいよ)
明那の部屋で、言われた。
「…何にもないで?]
( 配信見てるよ。明らかに様子が変じゃん。)
「疲れてるだけやって、]
(嘘つかないで。ふわっち)
(ねぇ…ふわっち)
明那の目が、悲しそうになる。
(…俺のこと、信用してない?)
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信用してる。
信用してるから、言えない。
言ったら、心配かけて、迷惑かけて。
そしたら、別れようって言われるかもしれん。
「ごめん」
それしか言えなかった。
明那は、何も言わずに部屋を出ていった。
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次の日、明那に会った。
「昨日はごめん」
(…うん)
「俺さ、実は…」
言おうとした。
でも、言葉が出てこない。
喉まで出かかってるのに。
(実は?)
「…やっぱ、なんでもないや…」
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それから1週間後。
(ふわっちさ、俺の名前言える?)
突然、明那に聞かれた。
「え?」
(俺の名前)
「…明那]
(フルネームは?)
頭が真っ白になる。
明那の、フルネーム。
知ってるはずなのに。
思い出せない。
「…ごめん」
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(やっぱりそうなんだ)
あきなは悲しそうに笑った。
(最近気づいてたんよ。ふわっち、俺のこと忘れてきてるって)
[違う、忘れてなっ…]
(嘘は駄目だよ、ふわっち)
「マジで…」
(昨日話したこと、覚えてる?)
「…」
覚えて、ない。
(この前のデート、何したか覚え
てる?)
「…」
何にも、覚えてない。
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(ふわっち、どうして言ってくれなかったの)
「…言えなかった」
(どうして)
「あきなに、嫌われたくなかったから」
(俺がふわっちを?そんな訳ないじゃん)
「嫌うって。だって俺、おかしいもん」
涙が溢れてきた。
「全部忘れちゃう。大切なことも、あきなのことも、姫のことも」
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(病院行った?)
「行った。でも、治らないかもれないって」
(…そっか)
あきなは黙り込んだ。
「ごめん」
(謝る必要なんかないよ、)
「でも…」
( ふわっちが悪いわけじゃないじゃん)
あきなの声が、優しい。
「でも、俺もう限界かも」
(限界って?)
「もう…全部やめにしたい。」
声が震える。
「配信も、ホストも、全部」
(…)
「姫の顔も名前も覚えられない。配信でも何話してたか分かんなくなる。」
(ふわっち…)
「もう透明になりたい。誰からも見えなくなって、誰も傷つけなくて済むように」
涙が止まらないや。
「これで全部…やめていいのかな?」
―――――――――――――――――――――――
あきな?は少し考えて、言った。
(やめていいんじゃない?)
「…え?」
(やめたいならやめていいじゃん。ふわっが嫌ならする必要はないよ。)
「でも…」
(ふわっちが辛いなら、全部やめていい)
あき…な?が優しく笑った。
「俺が側にいるから」
「あ、きな……」
(恋人なんだから支え合うのが当たり前じゃん)
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それから、ふわっちは全部やめた。
配信は無期限休止。
ホストも辞めた。
毎日、家でぼーっとする日々。
あ…きな、?は変わらず、毎日来てくれた。
―――――――――――――――――――――――
(今日、何してた?)
「特に何も」
(そっか。ご飯は食べた?)
「…ご飯………忘れてた」
(じゃあ今から作るね)
30分後、あkなが料理を作ってくれた。
(ほら、食べて)
「…ありがと,]
―――――――――――――――――――――――
あ?なはずっと来てくれた。
ご飯を作ってくれたり、一緒にゲームしたり。
何も話さない日もあった。
でも、それでよかった。
「ねぇ、あ縺ェな]
(ん?)
「俺、また配信とかできるかな」
( 勿論)
「でも、また忘れちゃうかも]
(俺が覚えてるじゃん?)
―――――――――――――――――――――――
それから3ヶ月後。
「今日、久しぶりに配信してみようと思う…」
赤いメッシュの入った友達に言った。
(え、本当に?!)
「うん。短時間だけだけど…]
(応援してる!)
配信を開いた。
「お久しぶりです。不破湊です」
コメント欄が「おかえり」で埋まる。
涙が出そうになった。
「今日はっすね、ちょっとだけ話したいことがあって」
15分の短い配信。
でも、ちゃんと最後まで話せた。
「また、少しずつ頑張っていきます。よろしく」
配信を切った。
赤メッシュの友達は拍手してくれた。
(ふわっちおめでとう!!)
「…ありがと]
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それから、少しずつ復帰していった。
週に1回の配信。
短い時間だけど、続けられた。
ホストも、週に2日だけ復帰した。
«無理しないペースで»
店長が言ってくれた。
メモは相変わらず必要だけど、それでもいい。
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配信にまた慣れてきたある日、………に問いかけられる。
(ふわっち、俺の名前覚えてる?)
「三枝……明那」
(っっ……!ふわっちぃ〜〜!!)
「……メモ見たから」
正直に言った。
( いいんだよ!忘れたらまた教えるから)
明那が笑った。
(ずっと側にいるからさ)
―――――――――――――――――――――――
(ねぇねぇふわっち!)
「んぇ、何や?」
(ふわっち、大好き)
「あ、あぇ?…明那…?急にどしたんや」
(ふわっち…世界で一番大好き)
明那の瞳が俺を捕らえてはっきり言う。
急で……頭はまだはてなマークが飛んでるけど…
多分俺も、ずっとそばに入れくれた明那が、支え付けてくれた明那が……
「俺も好きだよ」
明那の瞳を見て言う。
(っふわっち顔真っ赤〜!笑)
「………]
馬鹿にされたように感じでわざとちょっと口を尖らせてみる。
(あー!ごめんごめんふわっち!これからもよろしく!大好き!)
[…………おん///]
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完全に元通りにはならないかもしれない。
明那のことも、思い出せない日がまた来るかもしれない。
でも、それでもいい。
今、目の前にいるこの人をちゃんと感じてるから。
「…明那」
(ん?)
明那が顔を上げた。
その瞳の奥に、昔の記憶よりもずっと確かな今が映ってた。
「ごめんね、全部忘れて」
(ううん、いいよ)
明那が微笑む。
その笑顔を見た瞬間、胸がきゅっと痛くなる。
「……忘れんうちに、しときたいことがあるねん///」
(どうしたの?)
言葉の代わりに、明那の頬に手を伸ばした。
そのまま、唇が触れる。
あ、あったかい。
体温が、確かにここにある。
(…ふ、ふわっちっ?!)
「忘れても、また好きになるから」
明那の目が見開かれる。
次の瞬間、泣き笑いみたいな顔で——
(ずるいよ、ふわっち)
「にゃはは、知っとる」