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グリルタ
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あまりの予想外の言葉の連続に頭が固まってしまって何も言えなくなっている晶子を、カンナは手を引っ張って建物の入り口へ連れて行く。
入り口の係員におっちゃんが入場券を見せ、カンナと晶子が一緒だと告げる。二人は年齢確認を求められる事もなくそのまま中へ通された。
入ってすぐの場所は吹き抜けの広いホールになっていて、幅数メートルはある大きな液晶スクリーンにレース場の光景が映し出されていた。
その下に入り口をロープで仕切られた一角があり、小さな液晶スクリーンがいくつも天井から下がっている。おっちゃんは、その一角へ入って行った。カンナがその場所を指差しながら晶子に教える。
「あそこが馬券売り場な。あたいらはあそこへは入っちゃいけねえの」
数分後、おっちゃんが十数枚の小さな紙、多分それが馬券なのだろう、を手に持って戻って来た。それから3人でホールを抜けて、自動ドアをくぐる。
途端に空気が一変した。かすかな土の匂いと動物の匂い。ざわざわという数えきれないほどの人の声と息づかい。陽気と気温の高さからだけではない、奇妙な熱気。
どうやらレースとレースの合間だったらしい。ショッピングモールの休憩スペースにあるような、プラスチックの椅子が並んだ場所で3人は席に座った。
ようやく頭の中の金縛りが解けた晶子は、あふれ出そうな疑問をカンナに問いかけてみた。
「カンナが飼ってる馬って競馬に出るの?」
カンナは両腕を頭の後ろで組んで椅子にそっくり返って、自慢げにニヤニヤしながら答えた。
「いや、だから馬をペットにしてるわけじゃなくてさ。一口馬主っていうんだ。二百人で少しずつ金出し合って、一頭の競走馬の共同オーナーになるわけな」
「じゃあカンナはその共同オーナーの一人なわけ?」
「いや、未成年は馬主にはなれねえんだよ。一口馬主もだめ。表向きの一口馬主なのは、あたいの父ちゃんな。もっとも手続きとかは全部あたいが代わりにやったんだけどな。今日はその馬のレースデビューだから、見に来たわけ」
「カンナ、なんでそんな事知ってるの?」
「このおっちゃんにいろいろ教えてもらった」
カンナはおっちゃんを指差す。晶子は決死の覚悟を決めたかのような表情でおっちゃんに尋ねる。
「あ、あの……カンナとはどういうお知り合いなんですか?」
おっちゃんはニヤリと笑って答える。
「このカンナちゃんは俺の命の恩人なんだよ」
晶子の頭の中がまた固まってしまった。その様子を見ておっちゃんがカンナに言う。
「なんだ、俺たちの事はこの嬢ちゃんには話してないのか?」
カンナは苦笑して答える。
「わざわざ人に話す事じゃねえだろ。だいたい大げさなんだよ、命の恩人だなんて」
「大げさなもんかい。あれで命落とす奴、年に一人ぐらいは今でもいるんだぜ。ニュースにならねえだけでよ。それでな、嬢ちゃん、こういう事なんだ」
おっちゃんは晶子に顔を向けて事の顛末を説明し始めた。
「俺は新宿でホームレスやってんだけどよ。一か月前ぐらいか、公園で寝てる時に高校生ぐらいの悪ガキ4,5人に襲われてよ。いやもう、殴る蹴るされて死ぬかと思った。そこをカンナちゃんに助けてもらってな」
「ええ! カンナ、その人たちやっつけたの?」
驚いて大声になった晶子をカンナを、指を自分の唇に当ててたしなめながらカンナが答える。
「いや、ぶっとばしたのは一人だけだ。後は大声で『人殺しだ! 警察来い!』ってわめきちらしてたら、そいつらビビッて逃げた。ちょうど父ちゃんが知り合いに会いに行くってんで新宿に一緒に行ってさ。そのうち父ちゃんが知り合いの人と酒飲み始めたから、あたいは近くをぶらぶらしてたんだ。単に偶然通りがかっただけさ」
「いやいや」
おっちゃんが話の割って入る。
「カンナちゃんが騒いでくれなかったら、マジで死ぬか、良くても大けがしてたかもしれねえんだ。で、何か恩返ししてえと言ったら、じゃあ競馬の事教えろって言われてな」
「このおっちゃん、その時競馬新聞持ってたからな。聞いたら競馬場通い40年のベテランって言うからさ。未成年でも競馬で儲ける方法何かねえのかって訊いてみたら、ならこういう手があるぞって教わったわけ」
あっけらかんと言うカンナの顔を見つめながら、晶子は心底驚いた口調で言った。
「なんて言うか、あたしには想像もできないお話だよ」
おっちゃんが遠くに見えるゲートを指差して二人に告げた。
「おっ、いよいよ始まるぞ。カンナちゃんの馬は10番ゲートだ。騎手のキャップの色は赤だから、今日はよく分かるぞ」
コメント
1件
読了しました……第17話、すごく良かったです🥀 晶子ちゃんの戸惑いが伝わってきて、一緒に「え、そうなの!?」ってなりました。カンナが一口馬主で、しかもホームレスのおっちゃんを助けた過去があるなんて……「命の恩人」って言われても笑って流すカンナのカッコよさ、たまらないです。おっちゃんの教える競馬知識も渋くて良いなあ。 あと、晶子ちゃんが「想像もできない」って言うところ、読んでるこっちも同じ気持ちになりました。この2人の関係、もっと知りたいです🌙