テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
62
グリルタ
375
周りにいた他の客のガヤガヤとした声が一瞬消えた。出走ゲートがガタンと大きな音を立てて、12頭の競走馬がコースに飛び出す。
静寂が破れ、轟音のような歓声と叫び声が辺りに響き渡る。生まれて初めて競馬のレースを生で見る晶子は最初はその大音響に怖くなったが、カンナが事実上の一口馬主になっているという馬の姿を探すうちに、段々心臓がどきどきしてくるのを感じた。
3人が座っている屋外席の前を馬群が通り過ぎた時は、その馬は真ん中より少し前の位置にいた。一番先にゴールした馬が勝ち、それぐらいは晶子にも理解できた。
隣ではカンナとおっちゃんが大きく口を開けて何かを叫んでいる。その声は周りの観客の大声にかき消されて何を言っているのかは分からなかった。だが、あの馬を応援しているのは分かる。
晶子もいつの間にか手に汗を握り締めていた。その馬を心から応援していた。ますます心臓がドクドクと鳴っていた。
馬群が次々とゴールラインを走り抜ける。あちこちのスクリーンに順位が表示される。カンナの馬は4着だった。歓声と落胆の声が辺り一帯に広がり、やがて声が小さくなる。
おっちゃんは顔をしかめて馬券を宙に放り投げた。
「ダメか!」
晶子はおっちゃんに訊いてみる。
「ええと、どうなると当たりなんですか、馬券って?」
「単勝、複勝、連番、枠番とかいろいろあるんだけどね。まあ、基本的には1着から3着の馬の組み合わせを当てるってのが多いね」
「そうなんだ。カンナ残念だったね」
だが、カンナはニコニコ顔で、小さなメモ帳にボールペンで何か数字を書いていた。
「いや、残念じゃねえよ。そこそこ金が入る」
「え? 4着だとお金もらえないんでしょ?」
「それは馬券買った人の話。馬主には5着までJRAってとこから賞金が出るんだよ。それを200人で分けるから……」
カンナはメモ帳の上で賞金の分け前の金額を計算していた。晶子はその紙を横からのぞき込んだ。
「わあ、よく分かるね、こんな計算」
「いや小学校で習っただろ、こんな割り算」
「うん、でもテスト以外で使った事ないな、あたし」
「よっしゃ、こんなとこだな」
計算が終わってカンナが書きだした数字を見て、晶子は意外という声を上げた。数千円という数字だった。
「賞金ってこれだけなの?」
「二百人で分けるから、一人頭はこんなもんだ。けど、これで一口馬主クラブの入会金とか月会費とかの元は取れたぞ」
お目当ての馬のレース結果は見届けたので、カンナと晶子は家に帰る事にした。もう少し運試しをすると言うおっちゃんに別れを告げ、二人は駅へ向かって競馬場を去った。
コメント
1件
みぅ🤍🥀 第18話、生でレースを観る臨場感がすごく伝わってきました。晶子ちゃんが最初は音に怖がりながらも、だんだん馬を応援して心臓がドキドキしてくる流れ、すごく共感できました。カンナが賞金の計算をして「元取れた」って笑顔になるところ、ちょっとした達成感がじんわり来て好きです。おっちゃんの「ダメか!」も含めて、3人の関係性がほのぼのしてて、この作品の温かさを感じる回でした。